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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第2章 ロイド辺境伯、異界戦役に挑む
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番外 女たちの帝国、恐るべき存在機関(ネタバレだけどネタバレじゃない)

 ロイドの関与できない話で本編では語りません。


 帝都屋敷の婦長さんがロイドの内偵をしていましたが彼女の様な密偵は帝室以下、子爵までの全ての貴族家に配置されています。

 彼女らが所属しているのは帝国内務省帝史編纂局編纂第七課の嘱託職員で、帝都の官公庁の一角にある中央第17会館にオフィスがあるれっきとした組織です。

 第七課は室長と主任編纂員、編纂職員二名、タイピスト一名で構成されていて、室長と主任、タイピストが裏の顔を持っています。表向きは読んで字の通り、帝国史の編纂を行なうマイナーな部署です。ちなみに一課と二課は真面目な業務を行なっていますが、三課からは七課までは帝国の様々な諜報組織のカヴァーオフィスとなっています。

 裏の顔、本来の業務は子爵家より上の貴族籍を持つ人々の能力、素行を潜りこませている諜報員からの報告をまとめ、上部組織“帝国維持評議会”に上奏するのを仕事としています。

 この“評議会”は帝国の組織ですが、皇帝すらその存在の全ては知りません。皇帝は評議会の存在を知っており、その決定事項を遂行する義務があります。拒否は出来ない決まりです。

 皇帝が知っているのはその程度で、全容を知りうるのは帝位を退いた上皇と公爵以上の同じく当主を退いた一部の老貴族、そして皇后、公爵家以上の当主夫人だけ。最上級の機密組織で評議会のメンバーは絶対黙秘を守らねばならない宣誓をします。メンバー内でも会以外では話題にしてはなりません。

 給与の出ない名誉職で、第二王朝時代に創立されました。この時代帝国は大陸に君臨しましたが同時に問題を内包しているのに気づいています。時の皇帝は配下の貴族の素行や能力にばらつきがある事に思い悩んでいました。貴族として意識の高い立派な人物がいるように暗愚な連中がいます。貴族は帝国の人民の上に立つ模範者でなければなりません、国の藩屏は公私ともに優れた人間がいて初めて立てる者である、そう規定されています。

 ですが一定数いる粗暴で吝嗇、民をかえりみない愚かな貴族たち、彼らは貴族の名を汚す慮外者でそのような連中に人の上に立つ資格はありません。その意見を持つ皇帝は賛同者を募り、今後の帝国の在り方を考える場を設けるのです。それが発端でした。

 のちに評議会と名付けられる組織はこのようにスタートしました。当初は貴族にふさわしくない連中を公然と非難する会でしたが問題は簡単には取り除けません、人間性を相手にするのです、有形無形の障害がありました。

 では、と物理的に排除するかと行くとそうは外聞が悪い(実際に何人もの貴族籍の人間が消えました)、ならば如何するかと議論は紛糾します。

 しかし万人が納得できる答えが出ず、会は低迷します。皇帝もこの問題にばかり取り掛かれるほど暇ではなく、皇帝の座を退いた上皇に投げる事を決めました。これを受けた上皇はやはり一線を退いた高位の老貴族を集めるのです。こうして評議会の素地はできました。

 こののちに評議会は徐々に地下組織の側面を表します。問題とするテーマの根が深く、単なる排斥では済まないことに行き着いたからです。紆余曲折あり参加していた老人たちが亡くなっていったからです。また貴族全般ということもあり女性貴族の参入もありました。

 女性貴族の参入により評議会の面子は多様性に富むことになりなした。そして


 余談ですがレティカは大公家に嫁いだので評議会に属しますが、評議会からの資格審査の最中に北都陥落にあい審査は止まります。ロイドが指揮する北都打通作戦が終わり大公死去のゴタゴタが片付いてから改めて大公夫人としての資格審査が行われます。審査の結果は『資格無し』です。

 レティカの能力は悪くないのですが北都陥落以後の立ち回りが私情に偏りすぎており、その素行を評価され審査をハネられたのです。

 評議会の見立ては間違っていません。レティカは大公の実子を出産しますが、その赤子は女子で大公家の継承権を有していませんでした。そこまでは問題になりませんがレティカはロイドと通じ、その種を孕みます。その後、男児を出産します。

 表向きは大公の血を引く公子ですが、評議会は見逃しません。本来ならば認可はしない案件であり、レティカとロイド共々処罰の対処となるのですが、上皇と皇后は政治的判断で沙汰を下さないのを決定します。

 第一的には、そもそもレティカの輿入れは大公家の血の濃さを薄める為であり、ぶっちゃければ“大公家”が存続すれば構わないからです。

 次に大公家、ひいては帝国に対する隔意ありと見なし、その処罰を盾にロイドを縛る事を評議会は了としました。評議会は何にせよ貴族ひとりひとりの弱みを握り利用するのを目論んでいます。その格好のエサを逃す筈はありません、積極的に弱みを握りに行きます。

 この為、後年ロイドは帝国から利用される事になります。…しかしそれさえも評議会の“計画”に組み込まれるのです。


 話を戻します、評議会の役割は四つ。

 当主に足る能力があるのか、能力を維持出来ているかのふたつと、貴族家の血脈の維持、そして皇帝を裁定するのが役目です。

 帝国という組織…“帝国という名の巨大な生き物”を維持する為に子爵家までの貴族籍を監視し必要な人員をキープしていおり、必要とあれば現皇帝を廃して伯爵家より上の優れた人間を擁する秘密の組織。


 評議会の最大の発言権を持つのが皇后です。表向きは単なる帝国の国母であるが、その本来の役目は皇帝が皇帝であり続けても良いのかを監視する事です。

 そして伯爵家までの血を監督し、全土の貴族家の血脈をコントロールする事も担います。帝室に限らず、その血を濃くならない様に、或いは全ての家に帝室の血を流すのです。平たく言えば同化政策です。

 子爵家が外れるのは意外でしょうが理由は単純で、伯爵家までは帝国序列の上級にあるからなのです。伯爵家と子爵家を分けるのは帝国に組み込まれる際に国主が権利を移譲したのが伯爵家で、国主やその血脈を否定し市民の代表が領民代表となったのが子爵家だからです。つまり帝国から見れば子爵家なぞ貴族家に非ずと見ているからです。

 また子爵家まで広げたとした場合、伯爵家と混合してしまい最終的には帝国から子爵家が存在しなくなります。

 帝国貴族序列の観点からみてよろしくない事態となり、敢えて差別化で子爵家を残す方針を取ったわけです。


 

 帝都屋敷の婦長は諜報員として配置されています。しかし当然その全てを知る立場にはいません。局員は自分たちが帝国の非情(非常ではない)機関の一員で、ある程度の深淵の縁にいるのを自覚しています。婦長がロイドに『帝国は恐るべき存在機関』だと言ったのはこの背景があるからです。

 ロイドは領地に戻り領地改革を始めます。そしていくつかの失敗がありながらも改革により凄まじい業績を打ち立てて行きます。当然この事は評議会の知る事となり注視されるようになります。

 折しも時代は帝国にとり緊急の時代となり、ロイドもその渦に巻き込まれるのです。


 緊急の時代とは次代の皇帝となる皇太子とそのライバルであるグーン大公公子アレックスの不和、その抗争の時代です。

 能力も人物もアレックスが上で、皇太子は自身の安寧を図るために彼の排除を目論むのです。

 このくだりは東部動乱でロイドの体験する一大事件となりますが、ロイドは当事者でありながらも全てを知る立場にはありません。ひとつの駒として配されます。ですので以下で記載されるのは作者と読者の視点の話です。


 “評議会”は皇太子を能力に不足する『役立たず』と認定します。評議会は皇帝に命を下します“排除せよ”と。

 と同時に皇太子と争い、皇太子を害する『予定』のアレックスが皇帝となってはそれは反れて外分が悪く、アレックスに日の目を見る事を良しとはしたくないのです。委員会は奸計を謀ります。

 皇太子の排除をアレックスに起こさせ、そのアレックスを“誰か”から排除させる謀略を。


 アレックスに与し易い人物でそれなり以上の能力を有する人物、つまりロイドが浮上してくるのです。

 ロイドを利用すれば事はスムーズに行きます。彼が殺人を良し、とするのなら…。


 評議会はロイドの素行に注目しています。異界戦役と東夷殲滅でみせた容赦の無さ、必要とあれば自ら手をくだした事例は任務遂行に十分です。

 また先に記した様に、ロイドには余人に知られては不都合なアレコレがあります。


 評議会は大公の遺児が爵位を受け継ぐ、それ自体は問題としていません。確かに大公の血脈からは外れましたが、種は“優秀な”ロイドのもので帝国存在機関は有意義な血の流れだと位置づけました。

 たとえロイドが土壇場で失敗しようがアレックスに内通しようが構いません、


 こうして存在機関は“事例、第三百五十五号案件”を作り上げ、上皇を通じて皇帝はロイドに下命するのです。『貴様と大公夫人、その息子を害されたくなければ二人を討て』と。ロイドの役目はアレックスの排除ですがシナリオに沿っているなら皇太子の排除も担ってもらうのもやぶさかでないのです。


 これは単にライバルを落す皇太子とアレックスだけの話ではなく、帝国の存在意義に関わる一大事件です。

 ですがまたさらに奥があります。

 “評議会”は皇帝をすら棄てる事を画策しているのです。

 現帝室の能力低下を委員会は危惧しています。


 皇帝すら駒のひとつ。

 

 そして委員会は新たな皇帝を選出する事を計画します。

皇帝に相応しい『英雄』を……。

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