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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第1章 ロイド辺境伯、改革を始める
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第三十六話 ロイド、イェラに頼みごとをする

今月5話目となります。記録更新です!



 いよいよ明日、ユシュミ子爵らは帰郷する。

 彼には是非とも良いお土産を渡したい。うん、ちゃんと用意はしているよん(笑)


 とりあえず寝床に入った。明日は明日だよ。しかしそれよりもだ……。



 翌朝、子爵らが出立するため玄関ホールに集まっていた。

 俺は笑顔を浮かべながら子爵の前に立った。


「子爵、君にお土産がある。ジルベスター!」


「はい」と家令のジルベスターが俺の横に並んだ。


「ユシュミ子爵様、貴方様の家臣の何人かがファーレ辺境伯様の女性使用人に粗相をなさいました」

 

 子爵は鼻で笑う。


「それで?」


「痴漢行為が三件。卑猥な呼びかけ八件ございます」


「使用人同士の他愛無い痴戯ではないか。話にならん」


「生憎と俺は許さん主義でね。この十一件、和解に十二 エーラを請求する。これは辺境伯として命令だ」


 俺は子爵を見下しながら一歩前に出た。


 子爵は顔を青くした。なんせ上位位階者からの命令だからな。

 基本的に上位者だからといって下位の貴族に命令は出来ない。しかし、“正当な”理由があれば別だった。そう、これは正当な理由に値する。

 家長が家族の不始末に責任がある様に貴族もまたその責任がある。そして子爵の使用人の不始末は子爵が責をそそぐのだ。


「し! しかし十二 エーラとは…十二eとは暴利ではないか!」


「暴利? 被害をこうむった者への和解金、精神的被害被った女性使用人にもそれなりの金が必要だ。加えて、子爵らの良からぬ噂が流れぬように我が使用人らにやはりそれなりの金がいる。どうだ文句があるかね?」


「! ……」

 

 子爵は絶句する。これで王手チェックだ。


「払いたく無ければ俺は帝都の人脈を使って君の下卑た性根を広めるのだが?」


「…………わかった、支払う……」


 はい、言質を取りましたー。ウェーイ。


 子爵は自分の家令に金を用意させた。

 ジルベスターが受け取る。


「ロイド様、確かに受け取りました」


「よろしい。ではユシュミ子爵よ、道中気をつけて帰郷するが良い。ではな」 


「…………」


 子爵はなにも応えなかった。言いたい事はあるのだろうが機を逃したのか無言で馬車に乗り込んだ。


「奥方殿、俺は辺境伯の名誉にかけてアーデルハイドに乱暴はしない事を約束する」


「ありがとうございます。…娘をよろしくお願い申し上げます」


「委細まかせてほしい。ではこれで失礼」


 夫人に一礼して踵を返す。


「イル・メイ、ヒュー居るか?」


「いるぞ御主人」「は、おります」


「領地の境界線まで護衛してやってくれ。俺の領内で揉め事は勘弁だ」


「承知した。ところでわたしはぽんこつと呼んで欲しいのだが? ぽんこつと名付けたのは御主人ではないか」


「ああ、そうだった。貴様はポンコツだからな」

 

 やはりポンコツ呼ばわりは無しにしたい。バレたら〆られる。しかしなぁ、今更ポンコツは役立たずだとは言えないしなぁ……。


 二人に護衛を命じて自室にもどる。懸案があり、それを実行可能か聞かねばならない。子爵の事なぞもうデリートで良い。




「ユージーン、イライジャとドラクル、オリガ夫人らを呼んできてくれ」


 自分の居間のソファーに腰を下ろし、ユージーンにそう命じた。


「はい。承知しました」


 彼女が出ていくのを見届け、溜まっている報告書に目を通し始める。やれやれ、忙しい忙しい。


 イライジャやドラクルはすぐにでも来るだろうが、別宅のオリガ夫人が来るのは少々時間がかかる。揃うまでは小半刻(30分)といったところか……。



「兄さん、お呼びと聞きました」


「なに用かね?」


 イライジャとドラクルが僅かな時間で揃ってやって来た。どうやらイライジャの勉強時間だった様だ。


「時間をとらせて済まない。ま、オリガ夫人が来るまで着席していてくれ」


 二人は座り、最後のひとりが来るのを待つ。

 

「遅参申し訳ありませんでした旦那様」


「やあオリガ、急な呼び出しで申し訳ないね。まあ大事な話があるんだ。

 さ、座ってくれ」


 彼女が席に腰を落とすと俺は居住まいを正す。


「イライジャ、君に頼みごとがあるんだ」


「私にですか?」


「受けるかどうかは俺の話を聞いてからで構わない。

 さて、ん…んん、どう切り出したら良いのやら…。

 あ〜、イライジャ、君に花嫁役の続きをやってもらいたいんだ。ま、話はこれからだ。

 知っての通り我が花嫁であるアーデルハイドは俺に一切の協力を断わっている。だが婚姻の儀は済ませた。しかし俺の妻になった以上は俺に並ばねばならない。ああ、並ばねばとは式典などで俺の横に立つ、という意味だ。どうかね?」


「お前様、私とオリガ夫人を呼んだのは彼女に教育をせよ、という事だと言うつもりなんだな?」


「そうだよ。ま、イライジャが嫌ならこの話は無し、だ。

 ところでイライジャ、君はどうする? いや、嫌なら断わっても良いんだ。正直この案が最善とは思っていない」


「……兄さん、私、受けます。…私は兄さんの横に立ちたいんです」


 義弟ぎまいは“”を選んだ。


「良かった、いやはや断られたらドラクルとオリガ夫人を呼んだ意味がなくなるところだった。

 ドラクル、君はイライジャに庶民向けの語彙を減らし、貴族向けの語彙や言い回しを教えてあげて欲しい」


「…おい、いや、分かった」


「オリガ、貴女は上流階級や貴族向けの立ち振る舞いを教えてあげて欲しいんだ。

 期間はあまり無い。来月の頭に俺の演説が待っている。それまでに最低限の教育を施して欲しい。無茶な注文だが是非に頼む」


「はい、承知しました。

 イェラさん、少々厳しくなりますが貴女は選んだのです、旦那様の為にも頑張るのですよ?」


「はい!」


「良い返事ですね。改めてよろしくねイェラさん」


「はい! オリガさん」


「イライジャ、君に過度な出来は求めない。出来る事を可能な限り演じてくれ。頼む」


「はい、兄さん」


「では解散だ。ドラクル、オリガ、イライジャを領主夫人として素敵に磨いてくれ」


 三人が部屋を後にした。俺は報告書や資料を持って執務室へと向かう。



 そして三週後。

 

「…これはまた……」思わぬ光景に言葉が出なかった。


「旦那様、アーデルハイドさんを模したイェラさんの出来上がりです」


「にいさ…旦那様、私の姿大丈夫ですか?」


 そこに居たのは…イライジャ≒イェラではなくアーデルハイド>イライジャだった。

 よく見ればアーデルハイドでないのは明白なのだが、遠目にはアーデルハイドに見える。まるで魔法のようだ。


 かのじょは優雅に一礼をした。実に様になっている。

 しかし、何かがおかしい。なんだ? いや、アーデルハイドを模しているのは理解しているが、それとは違う何かがおかしい。

 いや、まあ今は褒めるのが先だ。


「これはまた格別に化けたもんだな! いや、素晴らしいよ。実に素敵な領主夫人だ」


 手を打って喜んでみせた。これならイケる。

 教師ふたりと生徒ひとりはこの時まで俺に進捗状況とかを教えてくれなかったのだ。サプライズな訳だった。


「ありがとうドラクル、オリガ。貴女方の尽力に感謝する。イライジャ、よく頑張ったね」


 女性陣に謝意を示した。ホント、ご苦労様。



 翌日、ファーレブルクの市民広場へ俺達はいた。今日は俺の初演説会なのだ。

 進行役の役人が始まりの挨拶を終えた。いよいよ出番だ。

次回はロイドの大衆に向けた初演説です。


今月は中々に頑張リました。差し込みと補完と最新話の更新ですからね。

あと全話を見直していろいろ微調整しました。細かいとこが変わったのを気づいてくれたら幸いです。


『ヒトラー最後の12日間』また観ました。ブルーノ・ガンツ演じるヒトラーが本当に素晴らしい。ヒトラーとは別人なのにヒトラーにしか見えないのが堪りません。必見ですよ。

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