番外 ロイドの住む館とその丘陵地のあれこれ(増強改訂版)
説明回です。
ロイドが住む館は大都の西にある丘陵地帯に建てられている。街の人からは領主様の丘と呼ぶ小高い丘だ。
その丘陵地の面積は東京都の大田区と足立区を合わせた面積よりも広い180平方kmに及ぶ。
住民台帳に記載されている人口は871人で通いの使用人と警備の為に常駐している者を含めても1800人を切る人数である。面積に比べればその住民数は驚くほど少ないのが見て取れる。
しかし、領主を守る点を考慮するなら警備にあたる者の少なさは丘陵地帯の面積からすれば驚きを超えて呆れ返るレベルで少ないのだ。
警備には領主一族が私費で武装した警備員を600名雇っている。この数だけを見れば大層な人数に見えるが、実際には3交代制なので日照時間には200に過ぎない。これで丘陵地と領主館、領主一族の屋敷を守らねばならないのだ。
但し、この人数だけでは安全面に不安を残すためファーレ辺境伯領に駐屯する派遣師団より防衛(あるいは警備)訓練の為に二個中隊が丘陵地の外周と館の守りにあたる。
派遣師団は蛮族征伐の為に派遣されている軍隊なので帝国領域内の防衛までは管轄に入るが、直接蛮族からの侵攻に曝されない大都の防衛には出動出来ないのだ。このため領主の丘に展開できるの根拠として、拠点防衛と要人警護の訓練だと言い分を取っている。
領主館を説明する前に一族の説明をしておく。
ファーレ辺境伯一族はロイドを当主とする主家の他に分家が八家を擁しており、各家は丘陵地のあちこちに屋敷と小さな集落を構えているのだ。
この集落は館や屋敷に納める農作物を作る荘園と集落内で賄うための総合販売店(コンビニ以上スーパー未満の規模の店舗)で、上記にある住民台帳に記載された住民が住んでいる。その荘園主が分家の当主であった。
各分家の当主を含む成人達は政庁にこそ勤めはしないが、本家当主の手足となり領内外の領主公務の代理や補佐として働いている半公人なのであった。
ロイドの帰郷に合わせ、分家当主のひとりが帝都に赴き帝都屋敷の主として赴任している。帝都における領民代表には代官が任命されているが、彼の役目はあくまでも代官であり貴族として活動出来ない。その為、分家当主が帝都屋敷にて貴族間の交流を行うのであった。
逆にいえば分家当主には領民代表としての活動は出来ないのである。
余談になるが、ロイドはイェラが成人したならば彼女を准一族の人間としてそれなりの活動を担ってもらうのを期待している(後にイェラには本人の希望もあって別の役目を任せる事になる)
領主館(本館)
地上4階、地下1階、あとプラスアルファありの重厚な屋敷である。曾ては城であった。だが帝国に降伏した後に条件として城と本丸の城壁は取り壊された。その名残は主塔の基礎と地下倉庫のみだ。
地階は地上部の三割程の面積で大部分を食料と備品の倉庫として使っている。残りは領主が担う業務のあまり重要でない資料の保管庫である。守秘義務の観点からこの保管庫と倉庫は繋がっておらず、別の階段を使わねばならない様になっている。プラスアルファについては別に表記する。
地上一階は玄関ホール・大広間・広間・談話室・画廊・図書室・大食堂・食堂と客を招く表としての面と、浴室・トイレ・医務室・調理場・洗濯場・使用人用食堂・休憩室・購買・食料庫等の館を支える陰の面が在る。
玄関ホールや大広間の高さは二階部にも及ぶので陰の面を担う使用人らの食堂や休憩室は中二階の部分に収められている。
二階には領主の政務関連の部屋が並ぶ。領主執務室・家令執務室・執事執務室・政庁派遣室・財務室・記録編纂室・応接室・会議室・資料室・広報担当室(新聞社から派遣された社員達が常駐する部屋)が並ぶ。
また二階部左サイドには来客用の休憩室(ベッドや応接セットがあるのだが、こちらは宿泊を目的とはされていない。いわゆるご休憩部屋)が多数用意されている。こちらは政務エリアとは隔絶されており玄関ホールにある大階段からは通じていない。なお、このエリアには大広間にある階段からのみ上がれる仕様だ。
三階右サイドにはロイドの私室や居間を中心に領主一家の居住エリアがあり、左サイドは来客らの寝室、居間、美術室などを構えている。
イェラは子供室を改装した部屋に住んでおり、スティラもまた三階に一室を与えられている。
また画廊に並べれない高価な美術品の類はこの美術室に並べられている。
四階には館にて働く使用人達部屋が並んでいる。
家令・婦長・調理長の三人には専用の部屋(寝室と居間)が与えられていて、一画には共有の居間が用意されている。
この共有居間には三階に続く専用の階段が設けられている。基本的に四階は一階からの専用の階段でしか昇り降り出来ないが、彼ら最上級使用人には特別に共有居間から降りる事が許されているのが特徴だ(差別化と防犯の為、彼らと一般使用人用スペースには壁で隔てており行き来には許可を有する)
使用人らの居住スペースは男性エリアと女性エリアに分かれている。二人部屋を基本としているが台所女中や洗濯女中の様な最下位の者らは四人部屋である。また各役職上位者(第一執事、婦長補佐、各部女中頭、馬丁、園丁など)は個室を与えられている。しかし部屋のサイズはみな同じ大きさだ(室内のサイズは四畳半以上六畳以下)
ちなみに二階と中二階、四階にはトイレは置かれて無い。
地階には領主と領主夫人、長男、家令、婦長のみ入ることが出来る宝物庫がある。これは地下に在るのだが(深度は地下三階に相当する)地図の類には描かれていない秘密の施設なのだ。三階の領主専用エリアからのみ行き来する事が出来る。
基本的に領主が保有する資産の全ては公開の対象であるが(一般市民が閲覧する事は出来ないのだが…)この宝物庫の品々は完全に非公開となっている。その中の最大の品は材質不明の両性具有者の像で、帝国の技術はもとより地球の技術を持ってしても解析不可能、かつ傷ひとつ付ける事の出来ないオーパーツが在る。
クリスタル製の神像扱いだがロイドは奈良興福寺の阿修羅像に面影を見ている。後年、イェラとスティラのふたりはこの像と出逢い“それ”と対話する事になる。
領主館別棟
館に隣接する形で多目的会場と人員収容施設を兼ねた別棟がある。
ロイドの結婚式に使ったこの別棟は領主主催のイベントホールだが、一方で大都に危機が起きた際に避難民を最大二百五十名収容可能の機能を有しているのだ。
なお、本当の意味で最後の砦となるのだが、備蓄する食料や飲料水などは保持していない(大都全体が収容施設でもあり、備蓄すべき食料その他は大都のあちこちに分散されている為)
外観は飾りの少ない無骨な体育館である。
地下一階地上三階建てで地下部は全て倉庫となっている。ホールとなる場所は天井までの吹き抜け構造だが、本館を挟む側に個室が三部屋、四人部屋が八室に八人部屋が五室の75人を収容できる。
有事にはホールに簡易ベッドが運ばれる仕組みだ。
迎賓館
本館の東側に迎賓館が位置する。迎賓館は二階建てで豪奢な装飾の美しい建物だ。
内部は大広間と幾つかの居間、二階部に八つの休憩室、領主クラスの主賓用の寝室と居間で構成されている。
また迎賓館の離れに調理室と浴室が併設されている。
祭儀場
冠婚葬祭用の施設で教会の様な外観の建物である。
領主館の背後には森が広がり、その中に別荘や妾宅などが十二軒ほど分布されている。
分布されている別荘などは館からそれぞれに一本しか道が用意され、別荘や妾宅が互いに行き来は出来ない様になっている。
この森は景観の為にある訳ではない。自然を利用した防御施設でもあるのだ。領主一族がこの丘を放棄する際に別荘を利用して隠れるのに使い、ほぼ手付かずの森は逃走にも役立つ。丘陵地の北面外部からは領主館や別荘などは確認する事は出来ない。
一族の屋敷と集落
丘陵地帯の前面から側面にかけて八つの集落から点在している。上でも記したがこの集落はファーレ辺境伯一族の分家の所有地である。
しかし、本来の役目はこの集落も防御施設の役目を担っており、外敵からの侵攻を少しでも遅らせる仕組みである。
分家の屋敷は全て二階建て。集落の人数は八十から百名ほどが住んでいる。家屋数は二十二軒前後、また集会所と生活用品販売店を有している。
警備員駐屯所
大都から丘陵地へ通じる道に一箇所、丘陵地の左右に一箇所ずつ設けられている。
派遣師団臨時駐屯地
丘陵地西部外辺に駐屯地が設けられている。また外辺部には監視所が計六ヶ所設営されてもいる。
領主館や八つの集落、駐屯施設には上下水道が走っているが領主館のある丘の上まではポンプ式の引き込みではなく、スクリューパイル(アルキメデス・スクリュー)式の引き込みで上水を運んでいるのが特徴である。
大都の市民はこの丘陵地に入るのに許可を求めねばならない。許可証は丘にあがる箇所にある警備員駐屯所にて発行されている。なお、十歳未満なら丘陵地のふもと側の放牧地になら入っても罰則などは無い。保護者らは放牧地を眺められる場所の休憩所にて待機である。
基本的にこの放牧地は不審者らが訪れ難いので、小さな子どもを連れた親や子ども達の面倒見るシッターのお姉さん達に人気の広場として有名なのだ。
また領主館にて開かれる夜会に馬車で赴く際や、一部のイベントの際には許可証なしで入る事が出来る。
夜会の招待客を誰何するのは本館の玄関口で十分であり、招待客側も不快に思いにくいからである。
イベントの場合には本館の各入り口や階段に警備や使用人らが眼を光らせているので不審者が館の内部に入るのは困難であるのだ。
どれほど警備が厳重でも“絶対に大丈夫”などは無い。無論、警戒は厳重であるが最後に役立つ防犯は人の目による危機管理なのである。
補項
ロイドの寝室と居間はそれぞれ二十畳ほど。居間の横には女中が待機する小部屋がある。館の三階部ではロイドは常に魔力式の呼び鈴を持っており、この小部屋には受信器が備えられている。
またこの寝室の側には簡易シャワー室も用意されている。
この領主一家専用エリアにはロイドの寝室の他に寝室がふたつ、家族の団欒のための居間がひとつ、子供部屋が四つ、書斎、勉強部屋、領主用衣裳部屋、夫人用衣裳部屋、共有衣裳部屋で構成されている。アーデルハイドの部屋もここにある。
来客用の部屋にはランクが存在し、ロイドの寝室と同程度の侯爵以上用寝室・居間。ランクを落としての伯爵と子爵用の寝室・居間。それ以下の貴族向けの寝室とに別けられている。
なお、スティラに与えた部屋は伯爵レベルの部屋で彼女の好みに合わせた壁紙を貼り直した。また彼女に付き従う形で雇用された一級健護師のフランシアはスティラと同室である(ベッドは別だが、たいていの場合ふたりは同衾しているのであまり意味はない)
後にレティカもこの館で生活する。彼女は大公夫人なので当然最上級の部屋を渡されるのである(しかし直ぐにロイドの近くに移ることを望み、領主一家エリアの寝室に引っ越すのだが)
使用人部屋の補足
部屋にはベッドが備えられているが個室とふたり部屋、四人部屋のとではサイズが違う。長さは共通だが幅に差異があるのだ。当然ひとり用の方がゆったりしている。
調度品はベッドと机、椅子、鏡台、クローゼット、立ち鏡が与えられている。それとは別に個人用収納箱が渡されている。これは魔法仕掛けの生体認証式の箱で予め認証させた者だけが開けられる仕組みだ(ロイドと婦長はマスターキーを持っているのだが、彼らのプライバシーを守るのが原則)
これらの調度品は各階級別に品質が別けられている。
使用人の休憩室にはビールサーバーとワインセラーが備えられている。ロイドは福利厚生の一環として飲み放題を許可したのだが、家令のジルベスターと婦長のフレイは一日に三杯までと制限させる。
購買部を設置したのもロイドの発案である。日常の細々した消耗品は格安で販売されている。例を上げるなら百円の商品なら二十円から高くても五十円で購入できる具合だ。
館の設定には英国風のカントリーハウスをベースにしていますが、内部構成には色々と勝手な設定を盛り込んでいます(中二階の設定や四階には使用人達の部屋とか)
あと書き込み忘れてしまったのですが、本館の収容人数に八十人が入る(婚礼の儀その朝)という一文なんですが、ロイド以下の家人、招待客、使用人の合算が八十人です。
あの書き方ならまるで招待客が八十人入るかのように見えてしまいますね。
婚礼の儀にはユシュミ子爵らを始めとする招待客がたくさん居ました。これら全てを本館に収容するのは不可能でして、彼らの使用人は別館で寝泊まりしています。
また一部の招待客は別荘の方に来てもらっています。
謎の像とイェラらの出会いの話はかなり後の出来事で、最新話として本作にて登場するのは……3年後?5年後?の長〜い伏線となっています。皆さんが忘れた遥かな未来まで持ち越します!