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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第1章 ロイド辺境伯、改革を始める
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第二十二話 ロイド、奴隷一括購入。いつもニコニコ現金払い

 政庁の一件の数日後、俺は執事補佐のグレッグと他に経理と法務に詳しい者を引き連れて街の奴隷公館へとおもむいた。別に一人でも良かったのだが、経理とかに詳しいのが居れば何かと捗るので付いて来てもらったのだ。


 奴隷公館は公館と名付いている通り、(おおやけ)のれっきとした商業施設だ。ここ一軒だけではなく、何軒か軒を連ねてある。聞いた話だと種類別になってるとの事。初めてだから知らん。

 ちなみに、俺自身は奴隷を必要とはしていない。

 現状では奴隷制度は必要であるが、将来的には特別の理由なく奴隷を必要とはさせない社会を構築するのが目標である。奴隷制の全廃を謳うのは簡単だが、今はそこまで努力目標をあげる必要はない。犯罪者が奴隷送りになる犯罪奴隷は無くならないからな。

 あと俺の制度改革の結果、淘汰された奴隷商人からの怨みを買い、そいつ等から刺される原因を作りたくはない。まぁ、今日の方々には一喜一憂呆然愕然してもらう予定だがね。

 ……では、お邪魔しまーす。



「キミ、奴隷を買いにきたんだがね」


 取り敢えず目についた一軒の商館の門の前に立ち、門番を務めている黒服に声をかけた。


「帰れ、クソガキ」


 と即答された。いきなり終了かよ!

 黒服は巨漢デブの俺に匹敵する程の体格をした中年だった。実に黒服が似合う強面のおっさんである。威圧感が凄い。だが俺はここで引くつもりは無い。

 しっかし、この世界でも黒服なんてあるんだなと感心しきりだ。ま、感心していたんじゃ話は進まないので居高げに告げる事にした。


「馬鹿か貴様。さっさと取り次げ」


 強面のおっさんは真っ赤になった。まぁ、確かにいきなり現れた見知らぬ若造が『取り次げ』等と言うハズはないからな。 


「おう、このクソガキ。ここはお子ちゃまの来る場所じゃねぇんだよ」


 はい、テンプレ発言頂きました! よもやここでテンプレの通り発言を聴くなんて思わなんだがなぁ……。


「阿呆クソ黒服。俺は客だと分からないのか?」


「あぁ客だ? ふっざけんなよガキが」

 

 しかしようやく黒服も事態を察したようだ。俺の衣装が庶民のそれと違うのに気づいた。


「……紹介状は?」


「ねぇよ、んなモン」


「じゃ帰れ」


「だから客だと言ったろ? おい、誰か俺を紹介してやってくれないか、これじゃ話が進まない」


「こちらの方は、新しく領地を継がれたファーレ辺境伯ロイド様である。本日はこちらにて奴隷を購入されたいと希望なされ、参った次第である」とグレッグが発言した。


 グレッグの口上に目が点になった黒服は、目を瞬かせ冗談ではない事にようやく理解したようだ。

 ちなみにグレッグは古参の執事補佐であり、まもなく補佐が取れる位置にある。あと彼は新婚さんでもあるのだ。

 俺は彼の奥さんを見た事ないのだが、聞くところによると可愛いらしい女性との事。先日、新婚の祝いに小間使いを雇って贈ったのだった。辺境伯家からの経費ではない。俺の小遣いの中で決済してある。いわば女中さんのレンタルだ。 

 


「……失礼しました、辺境伯様。こちらでございます」


 黒服は、衣住まいを正し謝罪をした。よーしよしよし、それでいーんだよ。てか、最初からそうしろよ。


 公館の中は予想以上に綺麗で、それだけを見ると一流ホテルのロビーの様だった。俺はまったくの初見なんでキョロキョロと遠慮なく見渡してみる。

 客らしき人間がちらほら居る。しかし見られるのが嫌なのか、そこにいた客はみな俺からの視線を外れるように散会していった。

 奴隷を買うのがそんなに都合悪いのか? 良く分からないが少なくともこの場にいた連中は恥ずかしいらしい。

 どうやら不躾な視線で眺めるのはマナー違反のようだ。それに気づいた黒服が、俺をやんわりと嗜める。


「辺境伯様。申し訳ありませんが、余り周りを見ないで欲しいのですが」


「それは悪いね。いや申し訳ない」


 まったく申し訳ないとも思わなかったが社交辞令だ。謝りはしておく。


「こちらで少々お待ち下さい。当商館の代表を呼んで参ります」


 俺は軽く頷いた。どうせお客さんだ。待つのも仕方ないしな。

 待てと言われた場所にはソファーなどがあり、そのひとつに腰を落とす。体感時間で五分ほど待つと先の黒服がひとりの男を連れて戻ってきた。……この男が代表らしい。

 

 ひょろ長いやせぎすの冴えない風貌の男である。一見紳士風の見かけだが、間違いなく一般人ではないのが見て取れる。だがその目には知性の光がある。野卑なその類のではない正統派の裏社会の人間だった。冴えない顔だが……。

 その代表は初見であるが俺を侮るような態度はとらなかった。慇懃無礼ではないが、ちゃんとした礼をしてみせる。


「爵位の継承おめでとうございます。ファーレ辺境伯閣下。私は当代表のグー・エレフと申します」


「よろしく頼むよ」


 立ち上がり軽く会釈する。まずは和やかな挨拶からだ。ここは俺の知る世界(ステージ)ではないのだが、俺は俺なりにやらせて貰おう。


「さて、本日はどのような奴隷をお求めでしょうか?」


 慇懃さを全面に押し出した代表がにこやかに問うてきた。さぁて一丁いきますか!



「全部」


「……は?」


「全部貰おう。ああそう、ここの商館だけでなく、周囲の全部の店から一切合切だ」


 さてどう返すのかな、俺は本気で来たんだよね。


「当商館のみならず、ですか?」


「そうさ全部、だ」


 『全部』にアクセントを置いて強調する。これで退路はふさいだ。俺も代表さんも。


「……本気の様ですね。わかりました手配します」 


 あっさりと飲んだ。意外である。


「さすがに全商館より今すぐ集める、などと言う事は出来ません。ですが可能な限り急がせます」


「代金の支払いだが……」


「はい。如何なさいますか?」


「即金で。支払いは流通紙幣で行う」


 再び場が凍る。代表もウチの者も、俺以外が……。だよね〜。そぉだよね〜。そこまで説明しなかったもんね。

 

 流通紙幣とは、帝国でやりとりされる金銭の事だ。

 帝国では、賤貨:町レベルでやりとりされる、最低の貨幣。略は(ユニ)。一般流通にはのらない町レベルで取り引きされている。なので町の分、賎貨は存在する。銅貨のみ交換可能。1円相当。

 銅貨:帝国内でやりとりされる、事実上の最低通貨。略は(サイズ)。10円相当。

 鉄板:略はウィシス100円相当。

 鉄貨:略は(セラー)。千円相当。

 銀貨:略は(ギン)。1万円相当。

 金貨:略は(エーラ)。10万円相当。ここまでの価値は変動しない。別名小判。

 信用金貨:略は(アーク・エーラ)。金貨の10倍相当。価格は変動する。貴族や商人のみやり取り出来る。

 流通紙幣:略は эアーク・エーラ・アーク。信用金貨相当で小切手の様に金額を記入して使う…となっている。

 流通紙幣は上級貴族や政商が流通上の取り引きで使える特殊な紙幣であり、一般人はまずお目にかかれないのだ。今回俺が使うのは親父が所有していたヤツ。


 さあ来い! 勝負してやんよ! 

 さすがに流通紙幣は予想外だったのか、二の句が告げない代表。この無敵貨幣、使うのはこの只一度のみ。つーか、1枚しか持ってないのだわ。

 こいつを使えば大抵の支払いは解決出来る。必殺の渾身の一撃だ。……しかしですね、罠が仕掛けています。わかりますよね? 

 そう。俺はコレを使える事が出来るのだが、こいつらは受け取っても使えないのだ。上級貴族にあたる俺と、一般的な商人でしかないこいつらとでは商売が成り立たないんだからな! ……まあ、実際には信用機関を通じてだと交換可能なんだがね。

 信用がないと使えない悪魔の紙幣。さて、気づいてくれるのかなぁ〜?


「……しょ少々お待ちください」青い顔をしたエレフ氏は足早に出て行った。

 

 

 で、小半刻後にエレフ氏を先頭にぞろぞろ団体さんがやって来た。どうやら同業の商人たちだ。

 エレフ氏以外の商人たちは自分の奴隷を連れていた。そのほとんど女性で、男が一人混じっている。女性は皆、美女と美少女で構成されてるのな。エエやん。全部貰うで?

 私は奴隷商人ですって顔をしているじじいがエレフ氏を押し退けて前に出る。


「辺境伯閣下。本気か冗談か説明してほしい」苦虫を噛み潰した顔と声で微量な怒りを込めて話した。周りはうんうんと頷いている。


「本気さ。では何をもって冗談となすのかね?」あえて笑顔で答えてやる。


「購入にさいし、その流通紙幣で決済だと言われたが」


「ああ、そうさ。グレッグ、じじ…失礼、商人殿に見せてやれ」


 グレッグを促す。彼は緊張してるのか、震える手で高級感ばつぐんの鞄を開け、金細工を施した装飾過多の板を取り出した。この板の中に『それ』が入っている。

 グレッグはこの紙幣を知ってる筈なのだが、やはり実物を扱うのは緊張するらしい、プルプルしてる。

 ……これこそが流通紙幣だ。どぉ〜だ、見るのは初めてだろ? 恐れおののけ、これが『本物』だ。


 商人一同、競うあうように前に出る。しかしだな、解るんかね? 本物見た事ないんだろうに。

 実際問題、親父の金庫に仕舞ってあるのを持ってきただけで、これが本物の流通紙幣だと俺自身が証明しきれないのだからな。

 連中は唸ってばかりでガヤガヤと議論していた。……そりゃそうだろう、こいつは一部の人間だけがやり取り出来る希少な通貨だ。一般人なら造幣局員や紙幣マニアしか見た事ないヤツだしな。


 代表格のじじいが、諦めたかのようなため息をついた。そして、ゆっくりと口を開く。


「これが本物かどうかは保留だ。……しかし辺境伯を信じるしかあるまい」


 よっしゃ! 無事、関門を通過してやったぜ!


「そいつぁ重畳」俺はニヤニヤと笑ってみせた。


 俺の顔を見て、苦虫を千ばかり噛み潰したような表情を浮かべるじじい。ざまぁ、じじい、ざまぁ。ウケケケ!


「ただし、取引に際し辺境伯様には一筆書いて貰う」


 ほほぅ、そうですか。いや、いいケドね。だけども書いたらそれは失敗に繋がる可能性を理解してるのか? 

 後で『あの取引は無し!』って言えなくなるんだぞ? ……ふん、まぁいいさ。俺の方は損はしないんだ。

 何故なら、この流通紙幣はそもそも俺の財産じゃないんだ。『無かった』筈の財産なんて財産じゃない。所詮、死んだ親父の資産なんだからさ。

 だから俺はこの紙幣を使った。親父よ、恨むかい? 良いさ恨めよ、あの世からさ。死んだヤツに何が出来る? 恨んでバケて出てくるのか? ああ良いさ俺はいつでもオッケーだよ。むしろウェルカム、自慢になるわい。


「で、何人居るのさ?」話を進めよう。


「儂の商館で35人」「うちが、えぇっと、さんじゅ…35人だ」「俺の所は22」「……27人」「当商館でちょうど30人居ます」「ウチでは40人かと」「俺んトコは22だ」


 えっと、つまり? おいグレッグ、頼むわ。


「……計、191人です。ロイド様」とグレッグが計算してくれた、ありがと! 


 しかしだな、コレは多いのか少ないのか? うん、判らないな!


 んで、内約が戦闘奴隷が男性は12人で女性が3人。普通の奴隷、成人男性58人の成人女性41人。未成年男性10人。未成年女性33人。技能所持奴隷が男性25人で女性18人。性奴隷が女性のみで4人。

 後、使いみちのない老人が20人近くいたのでサービスして無料で貰った。基本、人間種ばかりなのだが戦闘奴隷の大半がオークであった。


 奴隷というと首輪や焼き印が定番だが、帝国では普通の首輪だけだ。過去には反乱防止のエンチャントがあったらしいが、制御仕切れずの欠陥品ばかりだったので廃止になったとの説明を受けた。

 そりゃまぁ、従順な奴隷にしようとして意識を制限したら、勢い余って労働意欲すら奪う首輪じゃあ使いものにはならないわな。


 ……さて、まだ、全部じゃないよね。そうだよ、お前らが連れているのも貰うんだよ?


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