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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第1章 ロイド辺境伯、改革を始める
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第二十話 ロイド、使用人削減に手をつける

 帰郷した次の日の朝、唐突に目が覚めた。

 たいてい朝はユージーンら侍女に起こされるのだが、ひとりでに目が覚める朝だってある。

 で、目が覚めたら目の前にドラクルの寝顔がそこにあった。


 ……何故に!?


 昨夜はドラクルとエロい事して、石風呂で汗を流してから一人で就寝したの…だったよな? うん、間違いない。

 そもそもドラクルとは二人で飲んでたのだ。最初は領地のあれこれをレクチャーしてた。が、話題が俺の昔話とドラクルの昔話に移り、えっと、なんだっけ? あぁそうだ、互いの趣味に話題が移ったんだ。

 そっから先はあやふやだな。まあ、何時もの会話の場外乱闘になって、それがぶつのぶつけられるのになって(ヒートアップしたあの馬鹿が俺をビンタしまくってきた)大人の遊戯へ移行したワケだ。

 初めて知ったのだが、ドラクル…あのガイキチ女は男よりは女が好きで、ぶつよりかぶたれる方が好きという変質者だったのだ。まぁ、一応擁護するとだな、彼女が誘拐された事件の影響で男性恐怖症になった(どうやら俺は例外なんだと)せいなのと、その際の薬物の影響で暴力沙汰な行為が身に付いてしまった為だ。この意味においては彼女は紛れもなく被害者なのだ。

 話がそれた。

 で、まあお互いスッキリした後、汗を流し合って(お、羨ましいけ? 羨ましいだろう? フハハハーっ! おおう、これが勝利者。人生の勝利者なのだよ!)、んじゃおやすみー、バイバイーとなったんだ。


 なのに、何故にこの『自称』美人天才学者が俺と同衾しているんだよ? 

 ……頭がヘンになりそうだ。一旦落ち着こう。

 身じろぎして寝返りをうった。



 …………なんでやねん(´ ・ω・ `)


 なんでイライジャが居るの?


 訳がわからないよ(小波感)

 頭ン中がフリーズした。……とりあえず、だ。これは夢じゃない。漫画的表現なら『これは夢。そう、これは夢なのよ』なんて現実逃避するシーンなんだろうが、あいにく俺は目が覚めてる。

 つまり…つまり、これは現実そのものだ。……オーケー認めよう。俺が眠った後に二人が俺の寝床に侵入して来たのだ。

 と、ここまで来て頭が冴えた。


 ヤバくね?


 ドラクルが居るのは、まぁ良い。だが、問題はもう一人の侵入者だ。

 言っておくが、俺はノーマルだ。男に、男のガキとどうこうする趣味はない。掘るのも掘られるのもノーセンキューだ。

 しかし、この状況は不味い。ヤバすぎだ。考える限り最悪の展開だ。最悪過ぎて汗が吹き出した。

 俺が一人で起きようと起きまいとに関わらず、誰かがやって来るのだ。だのにこの状況を見られると非常に嫌な事になる。


 誰かと同衾して朝を迎える。これは構わない。

 3ピーは良いとしよう。経験はある。

 だが、男は無い。しかも未成年者だ。


 ……あかん、あかんわコレ。

 俺が築いたジェントルマンな俺様ちゃんのイメージが潰れる。麗しい貴族のご当主様が実はオトコも喰っちまうんだぜ? なんて誤解が広まってしまったら、俺の人生は破滅…とまで行かないが、愉快でない悪評が定着してしまうではないか!?

 容姿端麗、頭脳明晰、温厚で慈愛と勇気に溢れた人類史に足跡を残す偉大でチョーゴイスーな人気者、素晴らしきスーパーヒーロー・ロイド様の威厳が貶されるではないか!


 そう、俺の英雄譚の最初の1ページ、あれは3歳のあの日……。



「……失礼します。旦那様、朝で……」


「…………あ」


「失礼しました。また後ほど」


 館の女中のひとり(名前は…なんだっけ? ああ、アイラだったな)が現れ、去った。


 ……嫌ーっ、嫌ーぁぁぁっ! 違うんだ! 違うんじゃよーっ!!



 帰郷した最初の朝はこうして迎えた。


 



 さて、最悪の突発性イベントを終え、その午後イチで、さっそく館の使用人らを全員を集めた。改革の一歩目は館の使用人達の整理だった。


『忙しいなか、集まってもらい感謝している。…さて、諸君らは知ってると思うが、新領主のロイドだ。よろしく頼む』


 そう言って彼らを見渡す。好嫌はっきりしているな。好意が4で、嫌悪が6。妥当かな?


『さてさて、皆忙しいから本題といこう。…うん、まあ俺は領内の改革を進める予定でここにいる。その改革の第一歩は使用人の整理だ。

 諸君らには寝耳に水だが進めさせてもらうよ。うん。今、言った通り人員削減だ。我が屋敷には過剰に人員が多い。そこで、解雇を勧める事にした。

 辞めてもらう条件は特にない。が、辞めてもらう方々には恩給を別途用意している。残ってもらう方々には、まぁ給金は変わりないがね』


 一同、動揺している。そりゃそうだわな。出ていけ出ていけ。いやホント余剰人員が多いのだよ。三分の一くらいで結構ですよ? 

 ま、確かに転職先なんて斡旋しないから(推薦状は書くよ。義務だし)二の足踏むのもわかる。強制もしたくないから、自主退職して欲しいな。

 ファーレ家の使用人の代表である家令を勤めるジルベスターとナンバー2の家政婦を勤めるフレイは残って当然とした表情を浮かべてる。うん。嬉しいね。おっと、ユージーンは目があってニコリと笑った。彼女にはしてもらいたい仕事があるので、助かるわ。


 その他は料理長、執事、従者、馬丁、園丁、雑役女中、台所女中、色々と残留する気だ。特に古参は多い。

 逆に母付きだった侍女(レディメイド)を頭に、俺と関係ない奥向きの連中や若い女中さん方は退職する気まんまんだ。オーケーオーケー。出ていって有り難うだよ。


 しばらく時間を置き、一同を見渡した。


「どうやら去就は決まったようだな。うん。了解した。去る者には明日までに恩給と推薦状は渡す。それ以外の残留組は改編とかの説明があるから、大食堂に集まってくれ。では解散」


 予想より意外と残留組が多いのだが、まぁ仕方ないな。あとは、職業奴隷達だな。彼らは職業選択の自由はない。それらは希望を聞き、勤務評価と合わせて判断しようとするか。

 

 そして大食堂へ移動した。


 ジルベスターを筆頭に残留組が勢揃い。俺は大音声にならない程度に声をあげた。


「残ってくれた皆には感謝している。さっきは残留組には恩給無しと言ったが、あれは冗談だ。君達には一時金を支給する。ちなみに、だ。出ていってくれた方々よりも奮発するよ。

 あとは、特別休暇を三日間与える物とする。三日で申し訳ないが、羽を伸ばしてくれ」


 一同がどっと沸く。そりゃそうだ。薄給なんだから(家令と女中長と調理長は別。彼らは高給取りなのだ)ボーナスと休暇は予想外の出来事だろう。

 いや、困った顔の家令がいた。なにね? 


「ジルベスター。君は?」


「ロイド様、いえ旦那様、私は休暇は要りませんが?」


 俺は反論を口にする。


「いやいや。是非休んでくれ。なに、三日くらい、俺が留守番するさ」


 と、今度は料理長が口を開いた。


「若様…いえ失礼しました、御当主殿、自分も通常の半日の休暇でよろしいのですが」


「…料理長。君にしても休みは必要かと思うが? それに俺は料理くらい出来るけどな」


 うん。嘘は言ってないよ? 俺は料理くらいお手のものだからな。そりゃあ、ジビエの旨い調理とかは無理だが、ミートプディングくらいは出来る。なんなら鰯のパイだって作れるさ。え? この料金で? できらぁ!


「いえ御当主殿。そうではありません。確かに料理は私が御当主殿に教えいたしました。ですが、当主自らが留守を預かり、料理まではする必要はありません。調理長である私には御当主殿に料理を提供する義務があります」


 普段余り会話しない料理長だが、ここで猛プッシュしてくるとは思わなかった。ジルベスターとフレイがうんうんと頷いている。


「坊っちゃま。いけませんよ? 料理長さんの言う通りです。お休みは有り難いですが、私も三日間の休暇などは要りません」


 ユージーンまでが反対に回った。何故に? 休みくらい、進んで休んでもいいのに。あと、坊っちゃまは止めてくれ! 成人して、一領を代表する立場なんだぞ? 恥ずかしいがな。 


「おいおい、なんなんだ。君たちは休みたくないのか? しかし、ここで折れたら当主の名折れ、強権を発動して強引に休みを取って貰うぞ?」


 あ、ダメだ、ちょっと場が悪くなった。しかし体面だってある。ここは切り抜けれねば…と考えていたら、雑役女中の一人であるねぎ…いや、むぎが手を挙げた。


「ロイド様、ここは釣りを提案なんて如何でしょうか? わたしのお父さんが良い穴場を知っています。家令さんと、料理長さんには釣りに行ってもらい、地元のよい魚を釣って来てもらうのです。

 家令さんたちは休暇、ロイド様には美味しい魚を。あ、私は休み要りません。先日お休みをもらったばかりなので、私がロイド様のお世話をするのです!」


 なんとまぁ、とんだ変化球だ。キミ、出来すぎだよ。しかし、まぁ悪くない案だな。呑気な三日間にしようと思ったが、さすがに家令達の意見を無視は出来ないしな。

 うん。よし、この案で妥協しよう。


「あ〜、メギ、うん。君の案が丁度良いかと思うがね。ジルベスター、料理長の二人には、是非俺に美味しい魚を釣ってきてくれたまえ。…あとユージーン。駄々をこねない。

 で、だ。フレイ。これ以上の討論は無しだ。しっかり休んで英気を養い、忙しくなる今後へむけて準備をして欲しい。

 諸君。これから我が領地、ファーレ領は忙しくなる。これは確定だ。恩給と休みは、その前払いと思ってくれ。休みの間ははメギ、君に一任す

 

 一同、納得してくれたか腰を折って礼をした。申し訳なさそうなジルベスターと残念そうなユージーンが印象深いなぁ。しかし、さっき言った事は本当だ。忙しくなるのは確定だからな。


「ジルベスター、それに皆に伝える。これは当主だけでなく、辺境伯としての言葉だ。聞いてくれ。

 家令ならびに執事、執事補佐に告げる。休み以降は領地の改革を大改革を、断行する。以後、内政に密接に関わる執務官、官僚達との繋ぎを強化せよ。おって指令は出す。君たちには伝達…いや意思疎通の拡大強化、そしてきめ細かい充実した管理補佐として活動してもらいたい。

 次にフレイ、君の補佐としてユージーンを家政婦補佐として昇格させる。ユージーン。君はフレイの補佐として任命する。

 ユージーンの代わりは新規で雇うか暫くは必要ないであろうから、欠番としてもよい。

 また、今、使用人、女中が何人も抜けた。それに対する席次の昇格と空席に対する補填を、長達に命ずる。

 空席は配置の再配分が基本であるが、足りないと判断すれば適時補充するように采配せよ。

 園丁のアンドレ。君に告げる。君は休み明けより、この屋敷の下品な花壇を速やかに訂正するように。

 俺は静かな落ち着いた装飾が好みだ。君の趣味である盆栽(この世界には、誰かが盆栽を持ち込んでいるのだ。それなりに流行っている)を前面に押し出しても良い。休み中に構想を纏め、休み明けに説明出来る様に」

 

 一旦区切る。


「また、皆に厳命する。俺は両親の下品な。あの下品きわまりない振る舞いが大嫌いだ。質実剛健。これを踏まえた行動、思考、立場、屋敷の維持を推進せよ」


 俺の意向に皆、驚いている。そーだね。しかし、これからが本番なんだぞ。


「最後に、俺は帝都でいろいろと見聞を深めてきた。それらを我が領地で推進するが、手始めに新しく『特別恩給』『昇給』『有給休暇』(いやぁ、これ全部日本の制度なんですがね)を宣言する。

 恩給は年二回配布するものとする。昇給は読んで字のごとく、給与の再分配で、給金を上げる事だ。有給とは、通常の休暇と違い、年の休みにその休みに対し、給与を与える事だ。これはまた、休みの増加も含んでいる。

 何か質問はあるかね?

 ……うん、傾聴ありがとう」


 ちょっと皆固まっているわ。そーやなー。初めての単語もあるしな。


「はい。質問があります」と挙手したのは執事補佐の青年で…名前は知らん。女性の名前は覚えても、ヤローの名なんぞ覚えたくはないわい。


「うむ、言ってみたまえ」と偉そうに頷いてみせる。


「有り難うございます。執事補佐のブルー・アーカンソーです。

 初めて聞いた制度ですが、帝都ではどの程度普及しているのですか? また、おっしゃった単語はおおよそ理解しましたが、有給休暇の制度はいまいちわかりかねます」


 ま、も少し説明はせなきゃならんか。しかし、帝都でも普及なんてしてません。そんな概念もないです。さーせん。


「ふむふむ(どー説明しよう?)ふむふむ、なるほどなるほど(困ったな。なんかひらめかんかな? 逆立ちすればひらめくかな?)」うーわ、やべぇ。あぁもう!


「疑問も最もだ。答えよう。……確かに帝都でも斬新過ぎて普及はしていない。だが、労働者の権利、地位向上は時代の流れである。こういった事は取り入れたいと考えた。

 …さて有給とは…うん、例えば休みが一日欲しい、としよう。でだ、事前に申請すれば、その一日は仕事をしたと見なされ給金が入る事だ。

 難しく考える必要はない。要は一日丸儲け、だと思えば良いのだよ」


 と締めくくったら、いっばくおいて拍手が鳴り響いた。

 拍手喝采ですよ恥ずかしい。まー、労働者の改善は改革の一部だしな。ここはグイグイと推して行こう。

 




 翌朝、徹夜で恩給の計算と推薦状の清算を終えた俺は、痛む頭と指を揉みながら、出ていく連中を前に立った。


「約束通り、恩給と推薦状だ。今までの奉公、苦労。君たちの将来は約束出来ないが、良い未来を得られるよう願うものとする」


 反りのあわない母付きだった侍女(レディメイド)を筆頭に誰も表情を露にしないでやんの。最後までこれか。まぁ、まったく気にはならないんですがね。



 しかし、タイプライターがあったとは言え、30人分の書状は面倒だったわ。この世界にはタイプライターもあるし、活版印刷すらあるのだ。随分と文化的でいいな。それに文化的といえばトイレットペーパーだ。さすがにロールタイプはないが、トイレットペーパーがある文化は非常に居心地が良い。そのうち誰かがウォッシュレットを発明するだろうさ。出たら買うぞ。



 侍女の何とかさんが代表して何か言ってたが、聞いてなかった。まぁいいや。うんうん頷いておこう。


 で、あっさり彼女彼らは館を後にした。バイビー。戻ってくんなよー!





 連中が去ったあとは、使用人達の見送りだ。これより3日はのんびりして貰おう。

 こちらは雰囲気もよい。徹夜を手伝ってもらった家令、執事、執事補佐、女中長はさすがにくたびれていたが、それでも表情は明るい。

 むぎ、いやメギが俺に寄り添ってきた。むぎは大きくのびをし、声を張った。


「では、みっなさーん。よい休暇を送ってくださーい。あとはメギが責任持ってお世話いたしまーす。

 ですよね。ロイド様? えへへー、でわぁ夜の方も頑張りまぁす♡」


 ナニ言ってんのこのコォーっ! ほらやべぇよ、ユージーンが睨んでるやん。めっさ睨んでるやん! ナニよあの目? 目から殺人光線出てるよ! うわぁ、視線でヒトを殺すなんてあるが、あれこそそうだわ。確信した! 


 ユージーンの視線をものともせず、むぎは偉そうに、やたらと豊かな胸を張った。おい、今たゆんって擬音が聴こえたよ? …やべぇ。夜が楽しみになった。超楽しみだ。


 こうして、俺の改革が始まったのだ。

 

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