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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
序章 ロイド辺境伯、第一歩をふみだす
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第十八話 ロイド、汽車の旅から馬車での旅をゆく

今月3話目の投稿です。

 汽車は一路北を目指して軌道を進む。


 俺の一日は気の良い目覚めから程遠い陰鬱な起床から始まる。別に朝に弱い訳ではない。目覚めは良い方だ。

 しかしなぜ陰鬱なかと言うと、目覚めたらソコには『男の子』と同衾していると言うシュチュエーションから始まるのだ。無論、俺はお稚児(ショタ)趣味はない。嗚呼全く無いのだ! 断言してやる、俺は女が大好きな健全な性年男子なのだからな。

 やはり、目覚めたら目の前にやわらかーいオパーイがあって、朝から元気よくファイト一発来るなんて最高ではないかね? ナニ、知らないだ…と? イカンなぁ、実にイカン。そんな朝を知らずしてどうして人生が満喫できるのか。


 ……ハ!? ならば朝からオパーイを楽しめる俺様ちゃんは人生の成功者だと言うのか! 

 お、おぉ…やはり俺は輝ける未来の銀河英雄となるべく生まれた人類救世のスーパースターであり美女たちで埋まったシャレオツなプールにカクテルを持ったタキシード姿でダイブする素敵すぎる未来予想図にトキメキなトゥナイトがハートでボゾンでジャンプ(錯乱中につき暫しお待ちください)


 まあなんだ、目が覚めたら男と同衾してるのは気分が悪い訳だ。見た目は女の子でもその実態を知っていれば明るい気分ではいられない。


 ひとつため息をつく。

 車内は広い間取りの室内ではあるが寝台はダブルベッドくらいの大きさだ、離れて寝るわけにはいかない。そしてこの子供を同室の相方とも認めたのは誰でもない、他ならぬ俺だからな。

 ……つまりは、俺が、許容せねばならない、そうなる訳だ。


 俺の腕を絡めるようにまとわり付て寝ているイライジャを起こさない様にそおっと外す。


 …寝ているぶんには可愛らしい子供なんだがね。

 寝覚めのぼんやりとした頭で益体もない感想がよぎる。人種が違うがこうした子供の寝顔が可愛らしいのは万国共通だと思う。

 しばらく眺めていたら不意に義弟が目をパッチと開ける。

 

 そしたら小憎たらしい事に義弟(こいつ)はニッコリと笑う。

 まるで何もかもわかってると言いたげだ。

 なんか不愉快でもある。


「おはよ兄さん……」


 ……むぅ……。


「……おはようイライジャ。目が覚めたならさっさと起きなさい」


「ん…ん〜、もちょっと兄さんといたい」


 ああもう! なんでこうも甘えてくる!


「……甘えるのは無しだよ、さ、起きて洗顔なさい」



 くそ、可愛らしいのが腹立つ……。

 俺はぬいぐるみとか人形とか可愛らしい物を愛でる趣味はないし、小児性愛は持ち合わせていない。だが、このおチビさんは無条件で許したくなる。

 ……なんだろうな、この感覚? なんかとっても大事なナニか……何だ? 子供を持てばか? 違うな、弟だから? いや、それでもない。


 ……嫌な感想が頭をよぎる。

 よもや恋人に対する感情だと言うのか? いやあり得ないだろうに! 

 キモいキモい! 男相手に恋人だと!? キモすぎる! 嫌すぎる! 


 くそ、朝から気分が悪いがな……。


 モヤっとする気分を誤魔化すように少し手荒に引き剥がす。

 イライジャの顔が僅かに曇る。

 謂れのない罪悪感がひしひし押し寄せるのがどうにも嫌になって、慌ててその頬を撫でてしまった。


 先の曇り顔がにこやかな顔に変化した。

 しかしなんだな、何故にこうもこの()のほっぺはすべすべしているんだろうね?


 なんとなくその感触を楽しむ……。


 ややあって、客室の扉が叩かれた。


「…坊っちゃま、ユージーンです。朝になりました」


 失礼します、とユージーンが入って来た。

 寝台の上でグダグダしている俺を見て一礼する。俺の元に近づいてくるがイライジャには一瞥すらしない。…どうも彼が気にいる気に要らないではなく、単に無視しても構わないスタイルを取っているようだ。


「おはよう。汽車は何時に出発するのかな?」


 汽車の夜間の移動は原則的に禁止である。線路自体は問題なくとも夜間の侵しがたい暗闇は危険だからだ。

 汽車は、と言うより全ての移動手段はおしなべてこうだ。光が灯ったとしても暗闇を切り裂くのは難しい。強力な指向性を持たせた探照灯(サーチライト)でも10m程で減衰するのだ。懐中電灯程度なら3mにも満たない。

 歩く速度ならどうにかなるが、それなりのスピードが出る車両では自殺行為にも等しい。かろうじて馬車がゆっくり走るくらいなら許容範囲であるが、時速60キロを超す汽車は危険すぎる。

 レールがあるなら、と思うだろうが、レールに使われる鉄材を盗む輩は何度取り締まっても次から次に湧いて出るのだ、レールが無ければ汽車は即脱線。事故は免れない。

 夜間走行をせねばならない場合は車両の先端部に超々強力な探照灯と見張りの人員を配して低速で走行するのだ。

 これは非常に効率が悪い。従って、急を要する事態のみ許可が下りる仕組みである。急を要するとは大災害の場合に被災地に人員を送らねばならない、戦時に軍人を送らねばならない、政変に対処する為に是が非でも移動せねばならない場合に限られる。


 この原則がある為に車両を用いた貨客移動は夜間の運行を停止するのだった。

 さらに只停止する訳にはいかない。防犯の観点からも余程のイレギュラーでなければ駅や指定された集合地にて停車するのだ。

 

 こうした事情があり《翠の貴婦人》は昨夜に地方駅のひとつに停車していた。




「申し訳ありません、聞いておくのを失念していました。ただ今聞いて参ります……」


 ユージーンが深々と頭を下げる。

 慌てて声をかける。


「いやいや、構わないさ。たいした問題じゃない」


「有り難うございます、申し訳ありませんでした坊っちゃま」


「まぁまぁ、…さて洗顔だね、頼むよ」


 寝台を降りて椅子に移る。

 ユージーンは一度室外に出、カーゴを押して入り直す。

 カーゴには水と適温であろう湯の入った深い洗面器やハサミに剃刀、それにホカホカとした蒸したタオルが満載されている。

 旅の間は朝の理髪をユージーンが担当するのだ。帝都屋敷では理容師が当たっているのだが、この帰郷には従えていないでいた。

 まあそもそも、この程度の洗顔にわざわざ専門職を引き回す手間はかけない。大抵の側付きはこれ位はこなして当然だった。


 彼女はテキパキと場を整える。


 先ずは蒸しタオルを俺の頭に巻く。そうしてから洗顔を始めるのだった。

 顔を洗い、髭を当たり、頭の周りもソリソリと剃っていく。それが済むと香油を薄く、マッサージするように塗って仕上げとした。

 歯を磨くのは朝食の後だ。口の中がむぎゅむぎゅするので水ん含んでうがいだけしておく。

 


 それが済めば寝巻きを改める。

 脱いだ寝間着は別の女中が(屋敷とかでは洗濯(ランドリー)女中(メイド)が担当する)籠にまとめていく。


 ……俺の洗顔に毎度毎度手間はかけるのな、と他人事のように眺めていた。

 チラと同室のイライジャを見る。

 俺と同じ扱いはしないが、それでも室内で洗顔できるひと揃いの道具を与えていた。その道具を使いイライジャは手早く顔を洗ったりしていた。

 服も同様にひとりで着替えている。が、それでも俺のおまけ扱いで寝間着は女中が籠に入れていくのだった。




 両親の急死により当主となったのだが俺はまだ独身である。婚約者……写真と手紙でしか存在を知らない……が居るのだが結婚は領地に戻ってからの話だ。

 恋人という女性は居ない。レティカとの関係はイレギュラーだからノーカンとさせてもらう。

 しかしながら愛人のたぐいは五人ほどで、一夜の関係を持った女性なら70人はカウントしているのだがね! 

 あ、羨ましいだって? いやいや数なんてのはタイシタコトナイヨー。カラダタイヘンダヨー。ソンナイーモノジャナイヨー。ジマンナンジャナインダヨー。アハハハーアハハハー…………。


 まあ冗談はともかく。女性遍歴なんか出しても今は関係ない。

 通常なら当主なんぞには配偶者がいるものだし、公子であるなら婚約者が側にいて当たり前なのだ。

 だが、どこにだって例外はある。

 

 ……俺だよ。


 婚約者は確かにいるのだが、その少女は西部貴族の娘で領地から出た事のない箱入り娘なのだ。

 ちなみに、写真と手紙でしか交流はない。


 はっきり言う、結婚は強制イベントだからするけれども、俺はかけら足りとも愛情を持っていない。

 相手…アーデルハイド嬢は顔立ちの良い貴族娘の見本みたいな少女だ。写真は白黒だけど西方民族そのものの佇まいには確かに見惚れる様がある。

 しかし、彼女のは陰鬱でこちらを見る瞳はモノクロであっても冷ややかだ。

 見合い写真なら愛想笑いでも構わないのにそれすら拒むあの眼差しは俺からの期待をすべて削いでくれた。


 何度も言うが俺は美男子(ハンサム)の対極にあるのを自覚している。別に卑屈になっている訳ではない。

 タプタプとした頬、デカく丸い鼻。金壺眼の冷ややかな小さい瞳は誰がどう見ても悪相である。平均身長を余裕で超え、平均体重を遥かに超えた巨体は日本の青少年なら悪役でお馴染みのオークを想像すれば良い。

 それが俺な訳だ。

 歪んだ性癖でなければ好かれる風体ではない。つくづく俺の友人達には恐れ入る。



 親友アレックスは大貴族の惣領息子(プリンス)だけあって、見てくれより才能を重視している人間だ。

 彼は学術院に入る前から同期になる貴族男子をチェックしていた。彼が俺を友人に選んだのは俺の学力や実績、評価を元に下した結果である。

 俺もまたアレックスからの友誼に応えるべく学術院に入っても学力の向上に邁進した。

 自分で言うのもあれだが、俺は努力して自分の価値を高め維持してきた。何らやましいズルはしていない。手を抜いて惰性で過ごした訳ではないのだ。


 無論、俺は他人から好かれてばかりではない。数少ない友人以外からは大抵嫌われている。またその評価を改善する努力は一切していない。

 俺の努力は自分の価値を高めるのと、俺を信じてくれている友人らの評価を下げない為に傾注してきたのだ。特に俺を贔屓してくれるアレックスに対しては、彼の顔を潰さぬよう一層の努力と配慮に力を入れてきた。

 実のところ、アレックスは俺を利用している。彼は俺が努力するのを理解して活用していた。

 別段、腹は立たない。むしろ貴族なら当然の行動である。アレックスは大領の惣領息子であるから取り巻きは厳選せねばならないし、友人となればその格を落とさないように振る舞う必要があるのだから。


 俺が果たすべき努力とは学問を総合的に学び、時たま専門学を深く学んで知識の糧にし、可能な範囲で知人を増やし、とにかく広くネットワークを構築する事であるのだ。知人とネットワークは分けて考えておく。何故なら知人を通じたその先に改めて知人を置く必要はない。顔が通ればそれで良いからだ。

 そうすれば以降は広げたネットを利用して影響力を行使できる寸法だからである。

 “今”は必要ない。今は最低限の影響力だけで構わないでいる。必要になるのは俺が領地経営を軌道に乗せた以降の話を想定している。


 既に実験は成功している。また種は撒いておいた。俺の知人が死に絶えない限り、ハブとなっている人物が消えない限り俺の構築したネットワークは生き続けるのだ。

 ま、花が開くのは五年後以降であろうよ。まずは領地の不正を正し腐敗した官僚制度を是正する事だ。

 不正の温床を駆逐して清廉な風を吹き込む。だが不正に加担した役人全ては排除しきれない。領地の政務を司る政庁の職員のかなりの数が不正に加担していた。

 それら全てを排除した場合、政務が回らなくなるのは明白であるからだ。

 排除する基準は決めてある。またそのリストも用意した。代替え要員はそれなりに用意したが、そちらは今少し足りていない。中級下級職員の手当は先日知り合えた国務尚書閣下を通じて手配りする予定である。


 俺は自分の治める領地の恥を敢えて国務尚書殿に語った。それは確かに恥ではあるが先行投資のいち形態だと割り切る。

 頼られた国務尚書サイドとして見れば俺に貸しを作る事になるし、俺はまともなスタッフを手に入れる事が出来るからな。

 帝国は降してくる人員にスパイは使うだろう。だが絶対に不誠実な人員は寄越さない。はず、ではない、連中は必ず“使える”人間を寄越すよ。

 スパイはそれ自体は問題ない。

 むしろ俺はまともで真面目な領地経営をやるのだから、こちらが手配りしてまで報告する手間が省けるのだからな。


 その場合に先の残しておいた一部の愚かな職員が活きるのだ。都合の悪い事態が発生する場合に真っ先に罪を被せる利用効果が望めるのだ。これ程便利な人材は居ない。俺としてはウハウハで切れるのだからな!

 ま、実際面として不正をしていて残す人員は『有能な』連中ばかりだ。多少自分の懐を温めても今回は見逃す予定である。退職金の前渡しだと思えば安いモノさ。



 話が随分と脱線した。

 俺はアレックスの友人に足る男であろうときちんと成果は出してきた。学士である以上その本分である学業に力を入れ、常にトップ10に立ってきた。…まあ、万年10位であるがな。

 勉強自体は嫌いじゃない。学べば学ぶほど知識は増え、果てがない。それは深遠の魅力だ、いちを知ってもその先に十があり、十の先に百が続く。しかも大抵の知識は単一ではない。知識は常に他の知識と絡み合うのだ。

 まさしく深遠に他ならない。

 それは深く広い、それは山すら越える高みがある。

 学ぶとは実に奥が深い。俺は暇さえあれば図書館にいて様々な書籍を読み漁っていた。


 ……図書館といやレティカとのエッチだな! お尻とはいえ彼女の初めてを頂いたのだ、感慨深さはひとしおである。うむ、たまには初めてを頂くのもイイね。


 またまた脱線するがひとつ言っておく、俺は処女が嫌いだ。

 だってさぁ面倒なんだよ。

 世の男性諸君は初物にこだわりがあるだろう、俺だって嫌いじゃない。だが、こと処女となると話は別だ。

 男は破瓜の痛みは想像できない。痛みがあるという知識だけだ。しかし女性(の大半)は初めての行為には痛みを伴うのだ。プラスして男性に女性に夢を持つが、女性…少女には処女を捧げる事に夢を持つ。

 それは悪くはない。だが初エッチに過剰に夢を持ちがちだ。まぁ童貞君も夢を持っていてお互い様なんだが……。

 エッチな行為に夢を持つはいいが、女性には痛みがセットでもれなく付いてくる。

 それを知っていれば軽々しく初物をいただくのは精神的に辛いのだ。出来れば良い思い出であって欲しいから男の側はそれなり以上に努力せねばならない。

 努力など放棄する連中の方が大多数であるが、サービス出来ない野郎には紳士を名乗るなと言いたい。

 でまあ、紳士たらんとする俺はそういったサービスにも励むが、正直面倒なんだな。いやホント面倒なんだわ。

 


 …だから俺は経験豊富な女の方が大好きなのだ。それなりにサービスするのは当然だが、サービスのあれこれに気を回さなくていい。まあ人それぞれだわな。



 さて洗顔を終えたら手早く朝食だ。

 これは特に言う事はない。つーか時間が押しているから詰め込んで終わりだ。


 朝食を済ませると午前中は勉強会が待っている。各部門から講師役のスタッフらがやって来て俺が学んでいない専門の話を聞くのだ。

 知らない事を学ぶのは楽しいのだが、受験生もかくやの受講は少々しんどい。しかし為政者となる俺は彼らから学ぶ事は多い。従って真面目に学ぶ。


 昼食は比較ゆっくりとる。ゆっくりした昼食は帝国貴族のスタンダードだからなんでね。

 しかしこの時間も誰かの話を聞いたりする懇談会だ。午前中との違いは受講云々よりも陳情がメインである。俺は話し手からの内容から、希望する予算を汲み取って優先順位を決めなければならない。

 あまり昼食の味は味わえない。面倒な予算の話を聞きながら料理をじっくり味わえるかね? ただ朝食と違ってコースメニューだから朝よりゆっくり食べれるのが救いだ。

 


 昼食の後はまたもや勉強会だ。いや勉強会と言うより討論会かな? 役員候補や職員候補らが持論を持ち寄ってわいわいする。時折俺が意見を述べたりして俺が単なる受講者でない事をアピールする訳だ。

 いやしかし勉強になる。経済にしても制度や法律などのあれこれや裏ワザをただで(正確には雇っているので金を払っている訳だが)受講できるのだ。

 正直わからない事ばかりで基礎知識が抜けているからちんぷんかんぷんな場面もあるが、まぁ俺は専門職に就くワケじゃないから構わないがね。


 昼の三刻(午後3時)に解散したらちょいとお茶にして手紙を書いたり、資料を読んだり、細々とした作業が待っている。

 今は屋敷で働く使用人らに配るお土産の目録をチェックしている。

 例えば洗濯女中ランドリーメイドになら腰痛用の軟膏と手荒れ治療の軟膏だ。質はちょっち落ちるが量で補っている。

 客間女中パーラーメイドにはお洒落な刺繍の入ったカラーだ。カラーはメイド服のえりに付けるアイテムで、付け替え可能なんだわ。

 男性の執事バトラーには例の俺が作った合弁事業の万年筆だ。あれの上級タイプとカフスボタンをプレゼントする予定だ。

 ワンランク上のアイテムで見栄をはるのは下策かね?

 



 夕食には変人だが理知的なザーツウェル先生や愛人として奪ってきたオリガ夫人らを招いて食事する。この時間は至福のひとときだ。彼女らとの会話は昼の疲れを癒やしてくれる。

  


 そして就寝タイム。

 当然だがイライジャと同じベッドで眠る。ぶっちゃけ嫌だが仕方ない、ひとつため息をついて横になる。

 ユージーンがお休みの声をかけ、灯りを消した。

 義弟が擦り寄り小動物の様に丸くなるのがわかった。


「お休みイライジャ」


「にいさん、おやすみなさい」


 これが汽車の旅の一日だ。しかし広いベッドだねぇ。

  



「ファーレ辺境伯様、帝都より長旅お疲れ様でございました。間もなく北都中央駅に到着します」


 車掌がやって来て到着を知らせる。


「汽車の旅、楽しませてもらったよ」


「ありがとうございます。楽しんで貰えた事、当車の誇りといたします」


 汽車の旅は終わった。ここは終着駅の北都セト・グリアバートル。

 ここでニ泊して(疲れたから。俺もそうだが全員疲れている)翌々日に予約してある長距離馬車に乗り込んだ。

 

 馬車の行程は汽車のそれとは段違いにしんどい。振動が雲泥の差なのだ。俺のは貴族用の豪華仕様だから多少はマシだが他の馬車は振動が酷いはずだ。

 その為、長距離馬車の旅はゆっくりしたものとなる。

 と言ってもすぐに連層大山脈が待っている。こっからは峠道、カドモス街道の難所の連続だ。


 幸い落語車は出なかった。

 途中、両親が滑落死した難所中の難所カドモス峠にて献花したくらいでイベントらしいイベントも無く北部辺境に入ったのだった。

 ここからは大した事がない。一週間と四日、十四日で故郷であるファーレ領に到着した。    



「帰ってきたよ我が故郷へ、ようこそイライジャ」


「ここが兄さんのすむばしょ?」


「ああそうだ。そして君と住む場所さ」


 街道の右手に城壁が見えてきた。我が領地の都の城だ。その左側には小高い丘がある。あそこに俺の館があるのだ。


 ……帰ってきた。さあ新しい戦場いくさばだ。気をひき締めよう!

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