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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第七章 ロイド辺境伯、忙しい日々
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第百四十四話 ロイド、アレックスと密談す

 さて今月は年度決済の中間発表だ。

 ふむふむ、領内総決算は2・2%増だ。よーし良し。このまま微成長を続けばインフレにも強力に対応できるのが強みだ。デフレなんぞ起こさせはしない。              さて、そろそろ領民皆保険制度を取り入れようかな。俺は書類にサインをし、凝り固まった肩の力を抜いた。


「誰かあるか?」呼び鈴を使って隣室に居る誰かを呼んだ。


「何か御用でしょうか、ロイド様」入ってきたのは執事のグレッグだった。


「なに、小休止だ。甘茶を用意してくれ」


「はい、承知しました」出来る男グレッグはサッと身を翻し退出していった。



 甘茶を飲んだ俺は休憩もそこそこに書類仕事に戻った。仕事量は多いが一日目いっぱい使えばどうにかなる。明日からは北都での政務だ。気楽に行き来は出来ない、やる事やって後顧の憂いなくして政務に勤しみたい。大公妃殿下レティカとの逢瀬も楽しみだが、そいつは野暮ってもんだぜ?

 …っと、その前にグーン大公公子アレックスに連絡を取らなきゃならん。


「ニコラス・ベルノを呼んでくれ」


「はい、直ぐに」





「ニコラス・ベルノ参上しました」程なくして彼はやって来た。


「さっそくだが繋いで欲しい」


 待つこと三、四分でアレックスに代わった。


「やあロイド、久しぶりだね」


「挨拶は抜きだ」


 俺の台詞に何かを感じとったのか、アレックスは表情を引き締めたように感じた。


「やんなごとき筋から君への暗殺を依頼された。俺は明日、北都へ跳ぶ。出来ればそれに合わせて君にも来て欲しい」


「跳ぶ? ああ跳躍者か……わかった、だが明日は予定が立て込んでいる。明後日なら大丈夫だ」


「それで構わない」


「じゃあな親友」


「明後日待っているよ親友。通信終わり」




 二日後ツキハ君を送り出した。彼女には特別に室内から室内への跳躍を命じた。理由は可能な限り秘匿性を求めたからだ。

 送り出して一分でツキハ君はローブ姿のアレックスを連れ帰ってきた。


「よお親友。ツキハ君苦労」


「やあ親友。しかし何時も君は『御』苦労とは言わないんだよな」

  

「言うものか。『御』苦労さまと言うのは立場が同じか上の者だけだ。

 さて、こっちへ来て座ってくれ。ツキハ君、茶を淹れてくれ。あと人払いを頼む」


「はい」


 お茶をひと口飲んで、さて何処から話たものかと考えてたら、先にアレックスが口を開いた。


「やんなごとき筋……皇帝陛下か皇太子か」


「正解は皇帝だ。皇帝は君と皇太子をぶつけ、両者を俺が暗殺する」


「おいおい『陛下』は抜きか?」


「しばらくは敬うよ。だがもう崇める対象ではない」


「確かに同意するな」


「さて、皇帝は五年以内に君と皇太子をぶつけ、俺が漁夫の利を得るべく片方か両者を暗殺する計画だ」


「……あまり嬉しくない計画だな」


「皇帝の野郎は従わないのなら俺の家族を殺すとまで言い切った」


「じゃあ本気で僕を殺すのかい?」と此処でアレックスはニヤリと嘲笑った。


「まさか。……一計がある」


「…………面従腹背か」


「そうだ。君には死んでもらう。と言っても偽装だがな。

 君には変え玉アトラプゥが居るよな? 俺が殺すのはそっちの方だよ」


「それはわかった、確かに変え玉は居る、その後はどうなる?」


「貴族社会の盲点を付く。男爵位は伯爵子爵なら自由に裁量権がある。君には変装するか整形するか、なんなら髪を染めるだけでも良い。

 今の生活に慣れたら男爵位は生きづらいかも知れんが、生きているだけでもマシだがね」


「ハハ、生きているだけマシだよな。わかったよ親友、その案で行こう」


「納得(妥協)してくれてありがとう」


「それで、何時から動くんだい? あと、遺骸は簡単に見分けがつくんじゃないか?」


「期間は五年以内だが、まだ時期には余裕がある。動きがあるのは皇太子が暴走してからだ。それと暗殺には拳銃を使う。後ろから頭に二発、心臓に二発だから簡単には判別がつかないさ」


「……了承した」


「ところで、さっきから気になっていたんだが、何故にローブ姿なんだ?」


「え? 密談なんだろ、だからローブ姿の方が良いかと」


「ああそうだった。ならローブ姿の方が良いに決まっているよな。だが今後は私服で構わないよ」


「うん、あと決めておくべき事柄はあるかい?」


「……いや、今の所は無いな」


「じゃあ今日はもう帰るよ」


「いや、今日は泊っていってくれ」俺は腰を上げかけた親友を押し留めた。


「跳躍者の問題だ。彼女は一日に二度しか跳べない」


「そうか、なら一泊させて貰うよ」


「ああ歓待するよ我が親友」


 翌日、ツキハ君に連れられてアレックスは帰って行った。そして俺は政務をすべく執務室へ篭もるのであった。

 本当はレティカにも合わせたかったのだが、なにぶん密談がメインの為、大っぴらにする訳にはいかなかったのだ。まぁ、まだ時間はあるし機会はあるさ。

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