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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第七章 ロイド辺境伯、忙しい日々
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第百四十三話 ロイド、職の斡旋に東西奔走

あちこち改変しています。

 クソ忌々しい帝宮を辞して俺とツキハ君は彼女の跳躍によって自身の館に戻ろうとうとした。

 ちなみにツキハ君は鼻提灯を出して寝入っていた。


「おい、ポンコツ二号起きろ」


「う〜んむにゃむにゃ…もう食べられない」なん…だと、こんなベタな寝言初めて聞いたわ。

 

「いいから起きろ!」


「…は? はい!」


「館に戻るぞ」


「了解……ふあ」


「(大丈夫かコイツ)行けるのか?」 


「問題ないです」


「なら帰るぞ」


「はい」



 

 深夜の館は寒々しく、使用人らも寝静まっいた。

 大階段で彼女と別れ、自室へ向かう。……すると人影が見えた。幽霊の類かと思ったのだが、よく見ればイライジャだった。ビックリしたな、もう。


「あ、兄さん」


「こんな時間に」いやイライジャはショートスイーパーなのだ。ならば行く先もわかる。


「また俺の所へ行くのか」


「うん」


「あ〜たまには一人で……」俺の台詞は続かなかった。義弟ぎまいの双眸から涙が浮かんできたからであったのだ。


「ええい、なぜ泣く?」


 俺は膝を落とし、手にした燭台を置いた。


「降参だ、まったく泣く子には勝てない」


「兄さんの側に居て良いの?」


「降参だ、良いさ。だから泣くな」


「うん!」


 現金だが泣いた顔よりも、やはり笑った顔の方が魅力的だと思った。

 ……ショートスリーパーか、なんとも難儀だな。いや便利なのか?


「さ、部屋に行こう」そう言って義弟を抱き上げ、燭台を持ち自室へ向かった。


「なあ、夜中の君は何をしているんだい?」


「……兄さんを害するヒトが来たら逆撃するの」


「だけど、そんな連中なんか来た事無いだろ?」


「それはそうだけど……だけど」


「だけど?」


「もしかしたら悪いヤツが来るかもしれないでしょ」


「まあ、ね」


「それより兄さん、こんな夜中にどこへ行っていたの?」


「なに、つまらない仕事さ」


「嘘、兄さん嘘ついてる」聡いな。


「本当に何でもないんだ」親友を殺す事が何でもないんだ、とわな。自嘲の笑みが浮かんだ。


「……わかった、信じるよ」あらあっさり。


「だけど、いつかは本当の事を話してね?」


「わかったよ、約束する」


 部屋に着いたので義弟ぎまいを降ろす。しかしショートスリーパーか、まるで呪いのようだ。


「なあイライジャ、君の短時間睡眠症候群は治らないのかい? ドラクルは何と言ってる?」


「先生はね、時間が解決するしかないって」


「そうか」


「でもね兄さん、けっして悪い事じゃないんだよ?」


「と言うと?」


「だって、この時間は私が兄さんを独り占めできるのだもの」


 その明るい声に、さっきまでの暗い感情が溶け落ちて行ったのを感じた。


 守る。守ってみせるからな。俺は誓った。絶対に守ってみせる。

   

「なに? 何か言った?」


「何でもないさ、只の独り事だから」


「ふ〜ん」


「さて寝るか……おやすみ」俺は寝台に潜り込み、足元で丸くなる義弟に声をかけた。ホント、猫みたいだな、あ子猫イェラだから良いのか……。俺の寝付きの良さはの○太なみなのさ……ぐう……。





 さて本日の仕事は何が待っているのやら。………何だこりゃ、見慣れん書式だな。


 ……忘れてた、工藤特務連隊の脱退者の進路だ。あれから一年ちょっと経ってる。気付けよ俺。

 まぁ仕方ない、切り替えて行こう。

 さて一人目は…花屋へ就職希望か。これは簡単だな。

 二人目はパン屋か。なになに店を構えたいから、その分も上乗せして欲しいとな。贅沢な、まあ良いさ。いやいや、最低でも五年は修行してこの世界に合ったパンを覚えなきゃな。

 三人目は創作料理屋か。これはどうだろう、上手く行くとは思えないのだが……保留だな。

 四人目は実家が炭酸煎餅屋だったから炭酸煎餅を売りたいとな。まあ反対する理由も無いし、これはアリかな? 確か炭酸泉は有ったよな。うん有った。

 五人目はハンバーガー屋を希望している。パン屋と被るがまあ仕方ないか。 

 六人目から真似十人目までは楽団を結成したいと。しかしᒍーᏢOᏢなんぞ流行るのかねぇ……。

 十一人目から十三人目までは学士で居たいとさ。この星? の成り立ちやら歴史について色々調べたい、か。やるのは自由だが、調べてどうするよ? まあ良いさ、好きにするが良い。

 十四人目から二十六人目まではちょっと困った、なんと傭兵団を設立したいと。しかしコレは不味い、戦時下ならともかく、今は太平の世だ。自警団ならあるが、それで十分なのだ。

 軍との不文律で命令系統が複数は不要である。特務連隊は俺直属の私兵という事でねじ込んだ経緯があったが、それでもひと悶着あったのだ。だから傭兵団は必要ない。うん、バツだ。軍に放り込むのはどうだろう? いや命令系統が複数になって面倒事が増えるだけだ。

 あ、良い事考えた。

 隣のオールオーヴァーのオッサンの所に義勇兵として送り込むのはどうだろう?

 ……駄目だな。うん、却下だ却下。自警団に編入させるか。

 二十七人目から三十二人目の残りは当館に仕えたいとの事。女中や厩舎員ならともかく、いきなり執事は駄目に決まっている。まずは執事補佐を十年やってからだ。


「ジルべスター居るか?」


「はい」


「特務連隊から脱退する者らの去就が決まった。説明会を開きたいから集めてくれ」


「はい、承りましたロイド様」




「………と言う訳で諸君らの希望に添えない事例も有るが、この決定に納得して欲しい」


「決定、ですか?」


「ああそうだ。貴様は学士志望だったな」


「はい」いかにも学士ですって顔の青年は頷いた。


「学士には奨学金を与える」


「ありがとうございます」


「ズルいズルい横暴だー」ツインテールの少女の見かけのWAᏟが抗議の声を上げた。


「黙れ。それに俺は横暴なんだ」


「…………」


「それとも一夜、俺の為のサロメにでもなってみるかい?」


「さろめがなにか知りませんが遠慮しておきます」 


「あっそう」




 その日の夕餉、今日起こったアレコレをドラクルに聞かせた。


「サロメというのは聖書に出てくる女性の事だよな?」


「そうさ」


「貴様には自殺願望でもあるのか?」


「まさか、只の小粋な冗談だぞ?」


「つまらない冗談だ」


「泣いていいかい?」


「好きにすれば」


「絶望した!」


「勝手に絶望でもしていろ。…ご馳走様」


「なぁスティラ」


「なんだ?」


「今夜は来てくれるのだろう?」


「どーしよっかなぁ」


「……お〜い」


「別に“絶対”に行く必要ないよな」


「いや、その論評は間違えている」


「何処かだ?」


「そんなツンデレなキミに愛の呪文を贈ろう。

 Oᕼジュテームジュテーム後光のすりきれ、パイポパイポのテケレッツのパー」


「なんだそれは?」


「日本という国の古典芸能でな、寿限無ってやたらと長い事で有名なヤツさ」


「で?」


「ネタのネタバレは白けるな」


「よく気がついたな」


「そ~言わせたのは貴様だろうに」


「悪い悪い、ま、また後でな」


「それは重畳」



 で、この日の晩はステやんと三ラウンド頑張りましたとさ。

 ちなみに俺の寝床にて同衾する相手が伯爵夫人であったりユージーンであったりドラクルであったり、いわゆる女性陣だとイライジャの態度は変わらないのに、相手がクライブだと途端に不機嫌になるのは同族嫌悪なんだろうか? まぁ知らんけどな。あ、いや気には留めておく必要はあるか。……覚悟を決める必要が出てきたな。なんの覚悟かって? イライジャを抱く覚悟だよ。モラトリアム期間も終了間際なんだな。

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