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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第七章 ロイド辺境伯、忙しい日々
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第百四十一話 ロイド、一度あった事は二度ある

なんかどんどん遅れて行っているような

 さて困った。いやね政策の類じゃない。どちらかと言うと男女の問題の類だ、しかも相手はお稚児衆のひとり、クライブだ。

 別に彼が嫌いな訳ではない。むしろ仲は良い方だ。頭も良く、機転もきく。晩酌の際には(彼はジュースだが)一番の出席率を誇っている。 

 ちなみに館全体ではなんとアーデルハイドが一番だ。もっとも会話は無いがね。


「はいお代りどうぞ」とクライブがロングのストレートのウォトカを差し出した。


「ありがとう」と言って一気に飲み干す。


「あまりお体によろしく無いですよ?」


「酔っているように見えるかね?」


「……いいえ」


 自慢じゃないがウォトカの四、五杯、一気に呑んでも酔ったうちに入らない。


「ま、確かによろしくはないな」


「じゃあ」パっと顔を綻ばす。甘いな。


「お代り」とマッハの勢いでお代りを要求する。びっくりマークのクライブがショボーン顔になるのを呵呵と笑って謝る。


「すまんすまん、次からはゆっくり呑むよ。そうだな、そのオーアンジェラオレンジジュースで割ってくれ」


「はいっ」


 少しの間をおいてウォトカのオレンジジュース割りが出された。


「ところでロイド様」おずおずとクライブは口を開いた。


「なんだい?」


「イェラの事なんですが……」


「悪口なら聞かんぞ」


「いいえ違います……その……何か病気なんですか?」


「どうしてそう思う?」


「彼女、夕餉を済ませると、直ぐに自室に行くじゃないですか。それが何となく怪しくて」


「その問いの前に君はイライジャの何者なんだい? 友人かい? 蹴落とす間柄かい?」


「友人と言うかリバィレライバルです。まぁ向こうが僕の事をどう思っているのか分かりまんが」


「良く答えてくれた。

 ……実は彼はある種の病を抱えている。ショートスリーパー……短時間睡眠者でな、この時間は寝ているんだ。だいたい一刻半が睡眠時間だ」これは答えても良いよね?


「生命に別状は無いんですよね?」


「ザーツウェル先生の見立てでは問題ないそうだ」 

 

「良かった」


 俺も安堵していた。何故って? イライジャって一匹狼的なイメージがあって館で浮いているんじゃないかと思っていたからだ。


「……ところでロイド様」


「ん?」


「先日、ザビーネを抱いたでしょう?」


「……ああ」なんか居た堪れない。


「今夜は」止めろ、それ以上は……。


「僕の番ですよ」……あああ……。


「やらなきゃ駄目かい?」なんとかマウントを取りたいが。


「とりあえず、一度まぐわいましょう」自他共に認める綺麗な銀髪、その奥の双眸が妖しく光っていた。


「分かった分かった、俺も覚悟を決めたよ」


「本当ですか!?」


「ああ本当だ」色事では連戦連敗だな。


「決めた、決めたよ。後悔はするなよ?」


「後悔なんかしません。…じゃちょっと準備してきますね」


「準備? ああ準備は必要だな。……部屋で待っている」


「はいっ」



 ……でヤッちゃいました。スムースインで何も問題有りませんでしたよ。実際、後ろの方でもヤッた経験はあるから苦労はなかった。


 気だるい朝を迎え、朝食をとっていると(イライジャの機嫌は悪かったのは気になったが)家令のジルベスターがあたふたと食堂に入ってきた。


「おはよう御座いますロイド様」


「ああおはよう……何か火急の用か?」


「はい。帝都より…あ〜帝宮より呼び出しです」


「!?」俺は匙を置いて飛び出した。



 認証番号を伝え用件を待つ。通話人は……?


「貴殿はロイド・アレクシス・フォン・ファーレで相違ありませんね?」抑揚に欠ける中年男性だ。


「そうです。貴方は?」


「これは失礼、私は秘書官のアーと申します」


 皇帝の秘書官は26人居て、名前でなくAからツエットのアルファベットで呼ばれているのは噂話で聞いていた。


「皇帝陛下よりの言付けです『暇ならすぐ来い。暇でなければ暇をつくれ。跳躍者を活用せよ。あ、内緒で参内たのむ』以上です」


 何だコレ? そもそも陛下ってこんなくだけた人物だったけ?


「了解しました。しかし跳躍者が現在不在でして、本日の午後の一刻まで帰ってきません。連続使用は出来かねませんので、最短でも本日の夜となります」


「それでよろしいでしょう」


「……あ、それと跳躍地点はどうしましょう? 跳躍は跳躍者が行った所までしか行けないのです」


「そちらに付きましては正門からで。守衛には伝えておきます」


「ありがとうございます」


「以上、何かありますか?」


「……いいえ」


「では交信を終えます」




「ロイド様、皇宮からは何と?」


「……参内せよ、だとさ」


 部屋着を脱ぎ、仕事着に着替える。


「なぁジルベスター、皇宮へは正装で行った方が良いかな?」


「会話の内容まで知りませんが、特に要望がないのであれば准正装(略式正装)でよろしいかと」


「それなんだけどね、時間指定が夜なんだよ。最近は帝都でも危ない火遊びなんかしていないし、陛下の意図が分からん」


 ジルベスターと顔を見合わせ《?》マークを作る。


「ま、行ってから考えよう」


「それしか無いですな」


 この時、運命の車輪が回り出した事に気づいていれば、違った結果になるのではないか、そう思えて仕方なかった。

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