第百三十六話 ロイド、東夷征伐を成す
討伐の決議が採択され約八ヶ月、ようやく最後の島に炎が放たれた。
「やっと終りますね」村部が独り言を話すかのように俺に語りかけてきた。
「ああ、やっとだ」大規模戦闘五回、中規模小規模戦闘三十六回、俺にはこの数が多いのか少なかったのかが判断しかねた。ただ戦死者が百六十人出たことは忘れない。
ただ、拉致被害者らは助けられなかった。これは俺の交渉ミスでもある。俺が終始強気に出まくったせいで『諸王家による海洋帝国』なる連中がパニックた結果、拉致被害者を殺害したのであった。
最後の詰めの為、自領にすら戻っていなかった。
ユージーン、メギ、イライジャ…それにレティカ、はやく会いたい。ツキハ君の跳躍能力で書類と一緒に便りは貰っているが、この二ヶ月…いや三ヶ月は館に帰っていなかったのだ。
「一年は掛かると思っていた。有難う」
「……それは兵や士官らに言ってやって下さい」
「……まぁそうなんだがね。ひとりひとりに言うのは不可能だし、ここは君が代表としてだな」
「なるほど……ありがとう御座います提督」
「その『提督』の看板もようやく降ろせる」
「似合っていますよ。お世辞抜きで」
「……そうか」
「何かご不満でも?」
「いや、単に似合っていないと思っていただけだ」
「そうですか、それって度が過ぎれば自縄自縛にもなりますよ」
「…最後の連絡艇が帰って来たようだ」村部の台詞を無視して、眼下に連絡艇が接舷するのが見えた。
海軍士官が急いで上がってきた。そのままの勢いで敬礼する。
「第四特殊任務部隊の帰還をもって全任務遂行が完了した事を報告します。奉賀」
「任務終了、苦労であった」答礼し、それだけを告げる。
「泊地へすぐに帰りますか? それとも焼いた島の検分をなさいますか?」
「…これ以上この場に居ても仕方ない。泊地へ帰還しよう。君、悪いが艦長と副長に伝えよう頼む」
「ハッ!」
最終日のこの日、出撃したのは我々だけであった。他の部隊…駆逐艇らは随伴させていない。意味のない随伴をしても意味がなかったからだ。
艦長もそうだが副長も有能だ。後は勝手に本部へ連絡するだろうよ。まぁ何はともあれ凱旋だ。
……凱旋か、最後の最後に温情を与えた俺が言ってはならない単語だ。無論、連中には先が無いのは確かである。それが免罪符になるとは思えないのだが……。チ、今頃後悔か? 馬鹿馬鹿しい、俺が選んだ道だ。後悔なんぞ知ったこっちゃない。
自室に戻り航海日誌と軍務高価表(軍表)を認める。航海日誌は兎も角、軍表とは、どこの誰それがどの様な活躍をしたとか、某士官がなにを成したのとかを記す作業だ。誰も彼も立派に働いた事になっている。まあ兵に関してはあながち間違えてはいない。しかし士官らに限っては誇張もある。何故かと言うと、とどのつまり見栄に過ぎない。
馬鹿馬鹿しいと言えばそれまでだが、見栄も案外重要なのだ。
そんな事をつらつらと書いていると扉がノックされた。
「艦長より提督へ、本艦は間もなく泊地へ入港いたします。凱旋の件もありますので、一度艦橋まで来て頂けませんか? との事です」
若い水夫は早口で用件を伝えた。
「ん、了承した。村部、荷物を纏めておいてくれ」
「了解です」
「……下船時には最初に降りていただきます。桟橋からは馬車に乗ってもらい、そのまま市中へ凱旋行動、その後、閲兵式を執り行う予定です」
「今日中に終わらせる必要があるのか?」
「その方が都合良いでしょうから」艦長はニッカリと笑みをみせた。
「なるほど道理だ」
「ではその様に手配します」
「了承した。で、野暮な事を聞くが、おれ…自分が艦橋に上がる意味は何だったんだ?」
「写真を何枚か撮っておく必要がありまして」
「写真?」
「ええ、司令座に座っている分と指揮杖を振るっている分がです」
「制帽と指揮杖は持ってきていないぞ」
「今、取りに行っています」艦長との問答は打てば響く鐘のようだった。
「手早かに頼むよ」
写真は立ったり座ったり、指揮杖で指したり、煙草をくゆらせたりと結構時間がかかった。
撮り終えたのはジャスト接岸の時であった。さて次は凱旋行動だ。忙しい忙しい。タラップを降り、艦長と副長、村部とでオープンスタイルの馬車に乗り込む。
「「「「「奉賀!」」」」」
「「「「「奉賀三唱! 奉賀、奉賀、奉賀!」」」」」」
等々。それに併せて手を振る。正直気分のよいモノではない。恥ずかしいし、何より俺がそこまでの事を成した男だと思え無いからだった。
パレードは続く。馬車は市内に入り中央広場に着いた。馬車を降り、ひな壇に上る。さて何処から話したものか……。
「……諸君、本日をもって近海、島嶼部における全ての作戦は終わった」ここで拍手喝采がおきる。
「これもひとえに海軍士官と水夫達の活躍によるものだ、感謝を。だが反面、百六十名の犠牲者が出たのも事実。これを忘れないよう黙祷をもって充てたい。
総員ならびに市民諸君、黙祷」
黙祷は右手を左胸に当てて行なう。
一分ほどの黙祷をした。長けりゃ良いってモンじゃない。
「黙祷終わり。此処に東夷討伐が終えた事を再び宣言する、傾聴ありがとう」
パチパチと疎らな拍手がおきる。やがて拍手は万雷の拍手にヒートアップしていった。奉賀の声も何重に重なり個人個人は判断出来なくなっていた。
兎にも角にも東夷征伐は終えたのだった。さて、東都と帝都でのパレードが終わったらようやく北都に戻れる。レティカの出産の日は近い、間に合えば良いのだがね。
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