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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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第百三十話 ロイド、海戦その五

旧年は本作をご贔屓にしてくださり有難う御座いました

 三日が過ぎた。相変わらず敵の戦力は不明だ。こういう時こそ油断は禁物である。連中がどんな兵力と兵器を有しているのか全く不明なのだからな。まぁ捕虜を捕らえても片っ端から縛り首にしているのだ、分からないのは当然であった。

 慈悲もなく許容もなく。良い文言だ。


 しかし、今日は微熱があって身体がダルい。宿痾とは良く言ったものだ。


「お前様は少し休む必要がある」と、隻眼の女医はいった。


「仕事が押している」話にならない、俺は一蹴した。


 スティラは頭をガシガシと掻きながら長いため息をつく。

 ややあって再び俺に視線を合わせる。


「お前様の病気、その特徴は微熱が持続する点だ。だが意外と死者は少ない、これは単に『熱があるから今日は休もう』という事で安易だが有効な対処だ。

 反面、死者がでる場合は『熱くらいで仕事が休めるか』という具合で一見健康に見えるが、その実、体内の活性化が弱まり肺炎等で死に至るのだよ。

 お前様はまだ若い。だから無理が効く……」


「その結果が早死に直結する、か」


「そうだ。だから無理をしてでも休める時は休め」


「忙しいのには忙しい理由がある」


「しかし!」


「まあ聞け。俺の本業は何だ? 領主様だ。それがなんの因果か大公家の面倒も見なきゃならない。それに辺境伯として、大将の階級章をひっさげ、偉そうに振る舞う必要もあるし、今こうして提督として蛮族の平定までこなさなくゃならん。

 自分で言うのも何だが帝国の中で俺より忙しいやつはまず居ないね。したがって俺には年中無休という札が掲げられている。無論そんなものは御免こうむるがね

 だが、仕事は仕事だ。俺にしか出来ない仕事だ。止める事も立ち止まる事も許されていない」


「……」


「理解しろとは言わない。だが納得はして欲しい」


「…わかった降参だ。理解はしないが納得しておく」


「感謝を」


「しかし一言いっておくぞ? お前様を案じているのは私だけじゃない、イェラを始めとする女達…いや使用人らもそうだな。皆心配なのだ、そこら辺も汲んで欲しい」


「……善処はする。さて今日はふねに乗って指揮する日だ。では行ってくる」


「武運を」


「おう」


「提督、乗艦の時間です」村部が俺を探していたらしい。額に汗が浮いていた。


 そりゃそうか介護室に居るとは思ってはいなかっただろうに。


「あ、いや体調が優れないのでしたらお休みになさいますか?」


「いや問題ない。さ、行こうか」


「ハ!」




 本日担当する区域までは快調そのものであった。だが今日は普段と違う展開が待ち受けていた。


「黒い船体に朱色の旗印…ガフ・ガレフ海賊団です! 助勢に来た模様! 十隻」


 前方を索敵していた監視員が声を荒げた。


「なんだそのガフ何とやらは」


「南航路に現れる海賊団です。最近大人しくしていたのに!」と艦長が応じた。


「やれやれだな。本艦はこれより敵船団を殲滅する。各員の奮闘を期待する」


「ハ、とぉぉりかぁぁじ」


 左に舵をきったのは敵船団が右前方より襲撃してきたからだ。


「全兵器使用自由」


「ハ、全兵器使用自由! 第一種戦闘態勢」


 敵船団の構成は従来型が三隻、小型の釣り船…?が四隻、新手の海賊船が十隻だ、海賊船は普段、波のほとんど無い海域を専門としている為、帆は無い。その為やや遅れていた。


「艦長、距離を開けなくて構わないのか?」


「? 全兵器使用自由なので最低でもクロスボウが撃てる位置までは」


 俺はある点を見逃さなかった。


「連中の舟、梯子を装備しているぞ。接舷戦闘に持ち込む気だ」


「……不味いですな。……提督はCICに降りてください、そこが現状もっとも安全な場所ですから」


「艦長の言う事も分かるが、俺でもクロスボウ位は扱えるぞ?」


「いいえ、提督が武者働きなぞ前代未聞。此処は我らにお任せを」


「分かった無理を言って済まん」後年、此処で射撃訓練を行っていれば楽にすむのだが、今の俺には知る術は無かった。


「提督、自分は助勢に行ってきます」


「ん、了承した。俺の分も頼む。艦長、この副官は射撃の名手なんだ。合力する許可を取れまいか?」


「……ん、んん、まあ射撃の名手なら断るのもなんですな。よろしいでしょう」


 本来なら断固拒否するのであろうが提督のわがままを聞くのも仕事のウチだ。それに射撃の名手だから邪魔にはならないと判断したのだろう。


「有難うございます艦長、村部大尉出撃します!」




 しかし、敵戦力を見逃していないか、それが若干不安ではある。

 現状では連中は釣り船までかき出してでも戦舟を用立ててきた。おまけに近隣の同業他社にまで助勢している。しかも連中が狙うは我が艦だ。……俺の首級を取れば勝ちかね?  

 いやおかしい、連中は俺という存在を知らない。ならば対挺戦を避けて重火力の巡洋艦を集中して叩く。……こんなところか。

 一応、理にはかなっている。梯子を多数用意している事を勘案すれば対人戦を狙っているのは納得出来る。


 俺は昼戦艦橋からその下にあるCICに移った。


「戦況は?」


「…かんばしくないです」ここの専任を務める副長が報告する。


「説明を」


「ハ、敵船団は最初から本艦を狙ってきました。海賊団は当方の駆逐艇を牽制しつつあります。これは船の運用方法が我々と同じであるから妥当であります」


「そうか……」


「提督、何かご懸念でも?」


「いや、なんでも無い」ああそうだ村部に渡したい装備があった。


「誰ぞ、手の空いている者が居るかね?」


「自分が空いております」三十絡みの青年が手を上げる。


「ちょっと俺の部屋まで行って油紙に包んだモノを村部大尉に渡して来てほしい。このままじゃジリ貧だ。これで存分に埒を開けろ、とも伝えてくれ」


「了解しました」


 さて、これで俺の仕事が終わりだ。この海戦どうなる事やら。

新年も頑張って話を進めて行きます。

感想等待ってます。

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