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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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第百二十八話 ロイド、海戦その三

おまたせしました!

 今日の海戦にはCICではなく艦橋にいた。CICって言っても観測員スポッターからの情報を室内の魔導ボードに記号表に書き写す原始的な情報処理なんだがね。そこでの俺の役割りは『射撃開始』『撃ち方辞め』のふた言を言うだけの簡単な仕事だ。

 ぶっちゃけヒマなのだ。それなら艦橋にでも居て戦場を眺めていた方がマシだった。

 そしてまだ会敵はしていない。だが別に戦う必要はあまり無い。コレット嬢の作製した海図(んん、なんか変な表現だな)に従い、連中の生息圏を焦土化するのが今回行なう作戦である。

 焦土化、それは正しく愚策である。しかし、誰も反対などしない。それは何故か、理由は簡単だ、連中が祀ろわぬ民だからだ。今少しでも帝国に従う姿勢をみせればまた道は代っていただろう。

 だが連中は常に反抗してきた。時折融和政策を打ち出してきたりもしたが、全ては上っ面での出来事であり、世迷い言の類いに過ぎなかった。

 畢竟、所詮は相容れない存在なのだ。ならば民族浄化もアリとなる。極論で暴言だが厳然たる事実でもある。……そうでも思わないとやってらんねぇと言う思惑もあるが。




「提督、間もなく未知の領海に入ります」士官のひとりがそう告げた。


「ん、では警戒を厳に。緑地が見えたら焼夷榴弾をぶちかませ」


「ハ、了解しました」


 さて、どうなる事やら。


「左舷十度島影に緑地認める」


 左舷の監視をしていた兵が第一報を告げた。

 どうします? 顔の士官にひとつ頷く。


射撃開始ファーシ」俺は単純に告げた。


「艦橋よりCICへ、提督から射撃命令がでた。右舷に砲を指向、弾種、焼夷榴弾弾」


 艦前方の砲が二機四門、右に砲身を振る。ややあってパシュパシュといささか気の抜けた発射音が聞こえてくる。

 やがて島のあちこちから焼夷榴弾弾による火事が起こり始めた。

 何か感慨深いものでも湧くのかと思ったのだが、特にそうした気分には成らなかった。感覚的にマヒしてるんかな?




 しばらくの間状況は変わらなかったが、敵船の出現により状況が変わる事となった。


「提督、敵船団の出現が確認できました」


「数は?」


「……五十隻を超えています」


「ならば対処は可能だな」


「問題ありません」


「では海戦に移行せよ」


「ハッ!」


 走り去る士官を眺めながら昨夜の会議の事を思い出した。




「……つまるところ、連中の文化は“はぁん”の文化なのですよ」


 と、あらいづも人の人文学者が言った。


はぁん?」


「そうです。連中は負のエナジーが行動規範としています。いくつか例を挙げると自身の正義を是とし、他人は全て間違っていると思いこみ悦にひたっているのです。また、先行者を優遇し後発者には厳しいと言った事も挙げられます。まぁ強きになびき、弱者には強きに出る。と言うのもありますね。

 あと連中の格言に『泣く子には一銭多く渡す、そうすれば泣き止む』などと利己主義で固められた思考が……」


 傍から聞いていれば悪口のオンパレードだったんで口を挟む事にした。


「連中を擁護する気は無いが、あまりにも偏っていやしないか?」


 学者先生は僅かに赤面した。


「失礼。ただ言わせてもらいますと、連中には褒めるべき点がありませんので」


 連中の行動原理などは知っていたが、本来中立で在るべきの学者先生から悪口を是とする発言に俺はドン引きした。


「ま、まあ先生の見解は理解した。で、そこから我々は何を演繹すれば良いのかね?」


「はい、最終的には民族浄化するのが最良かと」


「それが最終的解決か……」


「はい」


 皆の視線が集まるのがわかった。仕方無い、覚悟を決めるか。


「……民族浄化を是とする」


 落胆する者は居なかった。寧ろ逆に意気軒昂する始末だ。なんともまぁ……。


「署長、くだん公司コンスはどうする?」


 巡邏署長は考える素振りをみせた。


「……脱税でしょっぴきます。後は其方に合わせ縛り首にでも」


「わかった。弁務官殿、これでよろしいかな?」


「良いと思います」弁務官の顔には清々しい笑顔が浮かんでいた。そんなにも憎々しいかね。まぁ分からんでもないが……。

 こうして連中の行く末を決める会議が終了した。




「提督、我が方の二十番艇が敵船団に囲まれつつあります」


「!? なに、二十番艇に近いのはどれだ?」


「ハ、本艦がもっとも近いです」


「ならば本艦で蹴散らせて救助するぞ」


「ハイ! 艦、取舵十五度、機関増速」


「取舵十五度よーそろー」


「機関増速よーそろー」


「艦橋よりCICへ、本艦はこれより二十番艇の救助に入る」


「CIC了解」


 艦長がマイクを手にした。


「本艦はこれより近接戦闘領域にはいる。第一指向、敵船。第二指向、海賊。第三指向、味方艇の救護」


 我が艦は波を押しぬけ(ここ島嶼地域は風があり、波が在る)二十番艇の左側に割り込んだ。ざっと眺めただけだが二十番艇はかなりの損害を出していた。漕ぎ手水夫もカットラスを手に奮戦している。

 そこへの援軍である、士気崩壊モラルブレイクは防がれた。

 主砲弾が撃ち込まれ、敵船が沈む。まずは一隻。しかし続く第二射撃はやや外れ爆砕の様だった。

 敵兵は右往左往している。そりゃそうだ、援軍は一隻といえど巡洋艦なのだ。防御力もハンパない。敵兵のひとりが剣を落とし降伏の意を示した。だが今の我々は許容も無く慈悲も無い。


 それを見ていた他の海賊どもは次々と海に飛び込みだした。

「半魚人どもは海に逃げ出した。爆雷用意」


「ハ、爆雷用ー意」


「爆雷投射開始、深度調整五」


 軌道上に載せられた爆雷…見た目はドラム缶だ…が投射された。

 問題は深度だ。浅ければ艦の舵やスクリューに影響がでる。担当水夫が深度調整五にしたのはギリギリの深度を測ってからの事だろう。


「じかーん!」爆雷が破裂した様だ。艦に揺れが生じる。さて戦果は?


「敵兵と見られる遺骸発見。数は三…いや五」


「ふむ、こんなもんか」


「まずは上々かと」村部が相槌を打った。


 巡洋艦彗小(ヒューシャオ)の援護は間に合ったもののニ十番艇の戦力は半減した。艇長はまだ戦えると言って来たが、長丁場なのだからと言って下がらせた。

 そう、まだ中盤なのだ。無理せず行こう。

10月で5周年だったんですよね。拙作を読んでくださる方々ありがとう御座います。

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