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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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第百二十七話 ロイド、兵らに訓示をする

スランプ中です、すみません。

 半魚人共の討伐は小康状態だ。だが今日届いた新兵器によって戦局はこちらに傾くのは確実である。


「ツキハ君、村部君、資材は十分に入荷出来たのか?」


 二人は互いに目配せしあったのを見た。まぁそうだよな、片や少佐待遇で片や大尉。ツキハ君が先任だが今は村部君が正式な副官である。

 一歩引いたのはツキハ君の方だった。


「はい。まだ開梱の最中ですが、目録には問題がありません」


「整備部の連中には申し訳ないが、午後イチで爆雷軌道の設置をはじめさせてくれ」


「ハッ!」村部はそう応じ、執務室から出ていった。


「目録を見せてくれ」


「はい、こちらが目録です」


 ザッと目を通す。よしよし、焼夷榴弾は五会戦分はある。これで少しは楽になるだろう。うんうん、次回発送分も同様だ。やっぱ陳情は必要だねぇ。

 次は目玉の爆雷投射機だ。研究の結果、後部甲板を整理してJ字軌道を設置する。駆逐艇に関しては露天艦橋の邪魔にならない程度にやや斜めに設置するするそうだ。

 俺の意見を十分に取りえてくれて大変に結構。ラセナ准将に黄金色の饅頭を付けた贈り物でも送ろう。

 

 さて、これで半魚人共を一掃できる下地は出来上がった。さっさと終わらせて統治生活に戻りたい。いくら代官を入れては居れども政務が滞りがちなのは事実だ。

 実際、早く帰還してくださいとの要請がひっきりなしなのだ。それはそれで鬱陶しいのだが無視は出来ない。俺の身体が三人分あれば良かったのだが、まぁ愚痴っても仕方無い。



 艤装はすぐに取りかかる事となった。まずは一番艦ランプーアダムスと駆逐艇五隻からだ。


 今の所問題は出ていないようだ。ただ駆逐艇の総数が六十艇も有るので時間がかかる事くらいか。それはともあれ、一週間もあれば戦力化できるであろう。




 事実、慣熟訓練まで一週間程度でこぎ着けた。軌道から落とす訓練も爆雷の調律もびっくりする位スムーズに行った。

 その間、取り立ててと言うほどの事では無いが、夷狄共の軍使がやってきて謎の上から目線で停戦を呼びかけてきた位だ。もちろん追い返したがね。

 連中、さんざん悪さをはたらいておいて、そのくせ被害者面をし、道理の通らない屁理屈を捏ね、挙げ句逆ギレを起こす。いったい何なのこいつ等?

 まあ連中が何らかの疾患を抱えていても絶滅させるから構わないんだけどね。連中が道理を弁えており、かつ友好的な関係なら懲罰程度で済ませていたのだが、奴らは駄目だ害悪にしかならない。帝国史七百年絶滅させた部族は両手の指の数より多い。今更いち部族が消えたところで何の痛痒も感じない。


 さて訓示の時間だ。


「提督、総員集合しました」村部が報告してきた。


「わかった」おっし、んじゃ行こうか。




「……諸君」そう言ってヒュッパと右手を挙げる。「いよいよ軍備も揃い最終的解決の時がきた!」一度両手を広げ、ブロックする様に両手を胸の位置にギュッと固める。「最終的解決、それは夷狄共の殲滅だ。無論、その中には無辜むこの民も含まれる。それは道義に劣る所業だろう」俺はボディランゲージを多用し演説を進める。


「……しかしこれは戦争だ。諸君! 我々の存在意義は何だ? 帝国の藩屏だ!」全力で右手を振るう。


「ならば我々がやらねばならない事はひとつ!」右手を真っ直ぐ天に指す。「一心不乱に戦争目的を遂行する事だけだ!」


 俺は全力全身で我々の正義を語る。

 一兵卒にまで自身が正義であるとその意識に刻み込む為だ。

 

 そう、実は本来正義などと言うのは無いのだ。夷狄だからといって殲滅戦は悪手なのだ。だが、この戦いにおいては我々に正義が有ると言う事を認知させる必要がある。

 その理由とは夷狄共の意思の疏通が出来ないのと、根源的な恐怖がある。特に後者は夷狄共と会話すれば分かるが、会話が通じないのだ。いや、会話それ自体は可能なのだが、言葉が通じないとでも言うのか、何かその“合わない”のだ。

 連中の持つ被害者意識が根底にあるのか不明だが、確かに“合わない”モノが有る。


 この戦い、確実に我らが勝利する。矛盾する様だが殲滅させる必要は無い。だが戦う。それは連中が恐ろしいからに違いない。


 俺は臆病だ。連中の持つ“合わない”と言う曖昧な、不可思議な、根源的な恐怖から逃げ出す為に殲滅戦を指導している。

 巻き込まれた兵、死にゆく兵には申し訳無いが戦いに追い出す。それしか道はない。


 さて演説も十寸ほど経った。これから締めに入る。


「諸君! 我が忠愛たる諸君」両手をゆっくり挙げ、一気に振り落とす。「今まさに勝利の扉は開かれん! 今こそ夷狄を打ち倒し勝利の美酒を味わうのだ!」


 最後に右手を突き上げる。「応!」

 しかし反応は薄かった。なのでもう一度。「応!」「……応」

 一部で声が上がった。……正直、サクラを入れて置くべきだったな。


 「応!」『応!』「応!」『『応!!』』


 これだ。この一体感が必要なのだった。兵らの中には殲滅戦を忌避する者が居る。俺はそんな彼らに俺の正義を上乗せたのだ。卑怯者? 卑怯者結構。俺も俺の正義なんぞ知ったこっちゃないのだから。


「軍一般命令を発令する。総員全艦全艇出撃。反抗する者らを殲滅させよ。さぁ出撃だ!」


 賽は投げられた。俺は卑怯で臆病だ。しかし前線で戦えない程弱くは無い。ならば征くだけだ。それだけの話だ。

ロイドの演説はアドルフ・ヒトラー演説、と言うより某吸血鬼漫画に出てくる大隊長の演説に影響を受けています。OVAを観て戦慄しましたよw それより凄かったのはあの演説のシーンを一発取りした声優さんの本気。流石でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 海(に住んでる)蛇(みたいな器官を持ってる)人 ってことで造語です 鼻にピット器官がある人ってのは初めて見たと思います まぁ熱源を感知できる種族って意味ではどっかの小説とかマンガにいると…
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