第百二十六話 ロイド、コレットに要請する
今、スマホから入力しているのですが、時折スマホがダウンして文章が消えてしまう現象が起きています。
まあ、だからといって遅れの言い訳にもなりませんがね。
「最近、半魚人共は静かだな。まぁ昨日の晩はともかく」
俺は煙草を吹かしながら副官の村部大尉に水を向けた。
「ですね、不気味です」
「連中、反攻の機会を伺っているのじゃないか?」
「さて、どうでしょう。可能性はありますが彼我の戦力は圧倒的に此方が有利ですから」
「ふむ、だが連中はそうとは考えない可能性もあるぞ?」一応反論にならない反論を述べた。
「しかし、多少なりとも軍勢を率いているのです、それなり以上には知恵があると思って良いでしょう」
「そうだな。…こうなればプランBの移行も視野に入れはな」
「プランBですか? ……個人的にはおすすめしませんが」
「敵の支配下にある各島を物理的に潰していく。単純明快ではないか」
そう、プランBとは居住可能な島々を破壊しつくすプランだ。俺は帝国の藩屏として一切の妥協無く殲滅戦を挑むのだ。
「それはまぁ、そうなんですが……」
「割り切れないと?」
「……はい」
「甘いな。…と言いたいが夷狄を討伐するのは義務だと思え」
「それが辺境伯の心構えですか」
ああそうだった、俺は辺境伯なのだ。ただの貴族でもないし、ただの軍人でもない。当然、政治的動物でもいられないのだ。帝国の剣として一切の容赦の無い殲滅戦を挑むのだ。なんとはなしに漠然とした思いが村部の一言でしっくりした。
「そうだよ……」続きを話そうとしたら執務室の扉がノックもそこそこに叩かれ、勢い良く開いた。…スティラだった。
「お前様、重要な事を発見した!」
「何を発見したんだ?」
「ピット器官だ。連中、ピット器官を備えていたんだ」
ピット器官? どこかで聞いたような……。
「先生、ピット器官って蛇の持っている器官の事ですか?」村部君、ナイスアシストだ。
「そうだ、厳密に言うと、ピット器官…熱感覚器官の様なものだ。連中、赤外線を探知して此方側の動きを察知したのだ」
ほほう。連中また変な属性を備えたな。
「感謝するドラクル。これで昨夜の顛末に説明がつく」
「それだけではありません。過去に溯って連中の犯罪にも説明がつきます。連中の夜間の犯罪率は異常に高かったのですから」
「連中が馬鹿なのは分かっているが、夜間でも互角となると厄介だ」
「戦略の練り直しが必要ですね」
「ドラクル、苦労をかけるが調査の続行を頼みたい」
「もちろんだ。しかし彼らは本当に人類なのか?」
その疑問は最もだ。
「あと、重要ではないが彼らには耳たぶが無い」
苦笑して報告する彼女に合わせ俺も苦笑する。
「果てしないほどど〜でもいい話だな。で報告はそれだけか?」
「ああ、うん、ピット器官の事だけだ重要なのは」
「ちなみに、どこの部位にあったんだい?」
「鼻だ」
「鼻?」
「最初は角栓の汚れかと思っていたのだが、それにしては違和感を感じた。そこで鼻を切開したら神経細胞が伸びていた、まぁそんな所だな」
「それで良くピット器官と断定したな」
「以前読んだ学術書の受け売りさ」少しばかり照れたようにそう言った。
照れたような顔に意外さを感じ、何かコメントしようかと思ったら再び扉がノックされた。
「ロイドさん、コレットです」コレット嬢だった。一瞬どうして此処に? と思ったのは内緒だ。
彼女の衣服はよそ行きの可憐な衣装だが、俺には簡素な衣装を着け土いじりしている姿の方が好みだった。
「やぁ良く来てくれた」
「お久しぶりです、ロイドさん」
「元気にしているかい?」
「はい。館の方々にも良くしてくださりますし」
「それは重畳。さて立ち話もなんだ、こちらへ掛けたまえ」と、応接セットのソファを指す。
「はい」
コレット嬢が座るタイミングで俺も座る。
「甘茶が良いかな? それとも豆茶?」
「あ、はい、じゃあ甘茶で」
「村部君、甘茶を二つ」筋違いなのかも知れないが村部君を使い回す。
「あ、それと海図を用意してくれ」
「了解です」
村部はテキパキと動いて茶と海図を用意した。
「甘茶と海図です、どうぞ」
「ありがとうよ」
「ありがとう御座います」
「コレット嬢、まずは茶を飲んでくつろいでくれ」
彼女はコクコクと茶を飲んだ。そしてフゥとひと息ついた。
「わたしを呼んだのは『神託』の御用向きなのですね」
「話が早くて助かる。まさにそうだ。で、どうかね?」
「嫌も応もありません、御命令のままに」
彼女の真っ直ぐな視線を受け止める。
俺は海図を広げた。
「精密な地図ではないが、夷狄の連中の住処を知りたい。また連中は海中にも潜んでいる可能性もある。では頼む」
「はい……」そう言って目を閉じる。
暫くそうしてから右手を地図の上に這わせた。
「此処と、此処、それから此処の三島に人口が密集しています。それと、ここの海中にも人の出入りが多いです」
だが、彼女が指した箇所は空白部分が多かった。
「すまんが島の形を描けないか?」
「はい」
「村部君、筆だ」
「ハッ……、コレットさんコレを」
筆を受け取った彼女は海図に地形を描き加えはじめた。
小一時間程かけて海図が一新された。
「……すみません、小さな岩礁までは無理でした」
「いやいや、これで十分だ。ありがとう。
村部君、これを司令部に届けてくれ」
「ハッ!」
さてこれで地図はどうにかなった。後は艦艇の設備更新だな。良し良し、うまい具合に上げ潮になってきたな。艦の設備更新が終われば半魚人共を殲滅してやる。
俺は再びコレット嬢に向き直った。
「君を便利使いして本当に申し訳ない。こういう場でしか謝辞を示さない事にも申し訳なく思っている。
……何か報える事はないだろうか?」
「いいえ、ありません」彼女はふるふると首を振った。
「何でも、なんて言わないが出来る限りの事は出来るぞ?」
「ありがとう御座います。ですが本当に何も無いのですから」
無理強いは出来ないな。
「分かったよ、何でもいい、必要な時には俺を頼って欲しい」
「はい!」
「うん、良い返事だ。
苦労であった、下がって良し。次にツキハ君が跳躍するまでは当泊地に留まるように」
甘茶を飲み干し、席を立った。俺の今の戦場は決裁を待つ書類の山だ。俺はそれらを攻略すべく執務机へと進軍するのであった。
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