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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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第百二十五話 ロイド、大捕物に参加する、が

 夜の海風は冷たい。

 行き交う人のない波止場の倉庫街はひっそりと静寂に包まれていた。


「さ、寒い」村部は寒さに弱いのか身体を震わせていた。


「何か手頃な石はあるかね?」


「え、ええ、あります」


「んじゃ、それを持っていたまえ」


「? ……おお暖かい」俺は‘熱’を付与する魔法を使った。


「俺の持っている‘熱’を付与する魔法だ」


「閣下は魔法使いでもあったのですか?」


「……この世界の住人の六割は魔法を使えるよ。まぁ大抵の場合は火種を起こすか碗一杯の水しか出せないがね」


「じゃあ逆の場合は?」


「伝説だが、湖いっぱいの水を宙に浮かした事をしたヤツがいたそうな」


「そりゃ凄い。……魔法を使うには何か特性とか必要なんですか?」


「う〜ん、魔力をもってるかは個人次第だしなぁ」


「そうですか、自分も使えると良かったなぁ」


 それから暫く魔法談義が続いた。まだ宵の口だ、俺達の出番はもう少し先だろう。


「それでこれからどうする?」


「そうですね、倉庫街を抜け海岸にでも出ましょうか」


「連中が来た時を捕らえるのか?」


「いいえ、連中が荷物を押収したのを確認した後を狙います」


「ほう」


「連中、どんな目をしているのか分かりませんが、特別な目を持っているのは確かです。ここなら波止場と倉庫にも近いし待ち伏せには最適です」


「なるほど、相変わらず君は合理主義だな」


 村部はニヤリと笑った。


「お褒めに預かり恐悦至極」





「誰何!?」


 突然誰何された。


「ファーレ大将である。見回り、苦労。貴様らは陸軍の者か?」


「はい、そうであります」ガタイの良い兵隊が言った。


「官と姓はなんだ?」


「リモール曹長であります。分隊長を務めております」


「なるほど。リモール曹長、陸軍はどれほど投入している?」


「ハ、三個小隊十二分隊であります」それは多いのか少ないのか? まぁいい。


「よし、分隊員に言っては全員集合させよ。この地に網を張る」


「海軍と巡邏隊はいかがしますか?」


「それぞれに連絡させろ」


「了解であります」


「暗視装置は全員分あるのか?」


「はい」


「よろしい。いよいよ大捕物の開始だ」


 分隊長は兵隊二人に言付けをし彼らを走らせた。



 この地の夜は文字通り真っ暗闇だ。灯りをつけても3メートルすら照らせない。

 そこで軍は魔石を使った赤外線式の暗視装置を開発した。それでも10メートルが精一杯なのだが。まぁ有るだけマシだわな。

 しかし、なんつーか慣れない。赤外線の映像は目が変になる。

 ま、俺の事はどうでもいい。あとは敵がシナリオに沿ってくれる事を願うだけだ。



「大将閣下、総員揃いました」


「うむ、後は連中が来るだけだな」


「はい」


 陸軍三個小隊、海軍三個小隊、巡邏八個斑、この重囲を抜ける事は出来まい。


 そして……。


「海から何かが来ます!」海上を監視していた者が報告してきた。いよいよだな。


「? 連中、引き返して行きました」


「どういう事だ!?」


「分かりません、ですが最接近時になにやら揉めている様でした」


「こっちは分散していたのだぞ?」


「閣下、やはり連中は夜目が利くのでは無く、何らかの方策で赤外線を使ったものと判断しました」


「こちらの装備が漏れていると?」


「流石にそれはないでしょう。それと連中の‘目’は我々のモノよりも高性能です。こちらがギリギリの範囲であったのに対し、連中はそれよりも広範囲でこちらを捉えていましたから」


「村部、向こうが優れている理由はなんだ?」


「……正直、皆目分かりません」


 連中、暗視装置を持っているとは限りない。しかし、少なくとも我々に対抗できるだけの能力はある。

 それは何だ? 連中の目は特別製なのか?



 ピコーン。

 ドラクルだ。彼女に多角的な腑分けを行なわさせるのだ。彼女なら何らかの成果をだせるだろう。依存するのは情けない話だが、贅沢を言っている場合じゃない。


「とにかく今日は失敗だ。策を練ろうじゃないか。

 では撤収!」


 なんかなんにもしていないのに疲れたなぁ……。




 翌日、朝食の時間にスティラに声をかけた。


「おはようドラクル、今日君にやって欲しい事がある」


「なんだ?」彼女は胡乱げな目線で俺を見た。


「例の半魚人共の腑分けだ。もっと多角的に調査をして欲しい」


「何があった?」


「昨夜、俺を含む軍、警邏隊で待ち構えていた。ああ無論距離を開けて居たのだがな。

 で、連中が接岸する直前に向こうは大慌てで踵を返した、と言う訳だ」


「ふむ……」


「ま、それは兎も角、先にきちんと飯を食え」


「分かったよ」




 ドラクルは朝食を平らげ、さっさと出ていった。

 その顔には好奇心ゆえか喜色に溢れていた。やっぱ変た…変人だな。

 で、こちらは反省会などしない。しても無意味だ。こうなればドラクル次第だ。昨日参加した部隊には半休を与え英気を養ってもらう。陸軍と巡邏は管轄が違うが同じ様に休ませる事を依頼しておいた。


 俺はと言うと、領主であり、家宰であり、司令官であり、提督だから当然休みなぞない。従って朝から書類に目を通して、サインし、ハンコを押す大変に名誉ある仕事が待っている。あ? 嫌味じゃねーよ。ただの愚痴だ。ハァ……。

遅れに遅れているのはスランプとモチベーションの不足です。どうしたら良いのやら……。

誰か誤字脱字の報告や会話などありませんか?

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