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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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第百二十四話 ロイド、新兵器を思いつく。後お菓子

ずいぶんと時間がかかり申し訳ありません。

「村部大尉、休暇を終え只今帰営いたしました」


「うむ、休暇は楽しんだかね?」


 村部の報告に合いの手を入れる。


「やはり米は良いものです。おにぎりに始まり、おにぎりに終わる。これに着きます」


「ほほう、それは良かったな」


 おにぎりかぁ……懐かしいが取り立てて食いたいとは思わなかった……。


「美味かったですよ。今度一緒に食べましょう」


「……考えておく」


「ノリが悪いですなぁ」


「食べたかったら勝手に食いにいくさ」


「はあ……」


「それよりも仕事だ。ほれ、報告書」と言って報告書の一冊を投げる。


 村部は無言で受け取り、自分の机に向かった。


 しばらくして村部は顔を上げた。


「この捕物作戦、上手くいくのですか?」


「上手くいって欲しいが、さて、どうなんだろね」


「前提条件がまず弱い。居酒屋とかで噂話というところが弱い」


「では君ならどうする?」


「売りに出させます。金額は控え目にしておいて、…まぁ見せ金ですね。購買意欲を刺激しつつ油断をさせます」


「ふむ」


「連中、がめつくて抜け目ないらしいですよね。ならこの方法のほうがマシです」


「分かった」


 俺には彼の台詞が正しいのかわからないでいた。だが彼は工藤特務連隊(改変する事になった際、こちらの制度に合わせる事にした)の首席幕僚だ、軽々に扱ってはならない。

 さて、それよりもだ。


「ツキハ君」


「ハッ、閣下」


「明日、戻ったらコレット嬢を連れ帰ってきてくれ」


「はい」


 俺がコレット君を必要としたのは言うまでもない、彼女の神託だ。神託の便利使いは趣味ではないが、俺としては何時までも提督としてこの地に居座りたいとは思わなかった。只へさえ二つの領地の管理をせねばならないのだ。完璧にオーバーワークだ。

 加えて宿痾である微熱の問題もある。微熱だから無理はきくが頬っておいて悪化させてはならない。重篤化すれば免疫不全で肺炎程度でも死に繋がるのだから。

 俺は死を恐れている。

 死に至る過程を恐れている。それは確かだ。

 だがまだギブアップしていない。

 成すべき事を成す為政者なのだ。だから利用出来るモノはなんだって利用する予定だ。

 ただ惜しむらくは彼女の神託があったとしても、俺の病を治す事は出来ないところだ。世の中ままならないな。


 少しばかり内心で愚痴し、気を取り直して次の書類に目を通す。

 ……そうだ、これは新兵器の制作依頼書だ。いわゆる爆雷ってやつ。


 爆雷。いわゆる海の爆弾である。敵海底施設向けに考えた新兵器である。ドラム缶サイズのがわに爆裂魔法を付与した魔石を積込む。それに時限式魔石を組み込んだのが俺が要請した書類だ。俺は素人なので司令部のスタッフに試案させたのだ。

 複雑な機構も無い(魔石を使い捨てにするのはコストパホーマンス的に悪いのだが)簡素な設計で出来は良いので、提出する先の補給廠開発部宛に封しサインする。

 しかし課題は残る。爆雷は専用の軌道が必要で巡洋艦にどう載せるのかだ。駆逐艇はまだ簡単で舵を避ける様に斜めに設置すればいい。巡洋艦にはJ字型の軌道をと考えてはいるが……。

 次に軍務尚書宛に根回しの書面をしたためる。こういう根回しは大事なのだわ。


「ツキハ君、追加だ。最優先でこの書類を帝都の補給廠開発部と軍務尚書閣下宛に届けるように」


「ハッ!」


 さてこれで今日までに決済すべき書類は無くなった訳だ。

 急に暇になった。俺が首を突っ込む案件もない状態なんだが、何かなかったかね?

 うん、無い。


 …

 ……

 ………あ、待てよ、俺がお菓子を作って司令部のみんなに配るのはどうだろうか?

 そうだ、それがあった。幸い調理場は休憩時間(実際は皿洗いや食材の下ごしらえ中だ)なので迷惑はかけない。うん、良い案だ。


 良し、さっそく買い物に行こう。……軍務規定から外れるが、まぁ構うまい。

      

「村部大尉、ツキハ君、ちょっと外の空気を吸ってくる」

  

「は、はい了解しました」


「私をお連れにならないので?」


「そ~だな、うん、ツキハ君は来てくれるかな?」 

 

「はい!」



 

 そんな訳で執務室を出て馬車を借り、営門ヘ向かう。


「止まれ! ……これは閣下、失礼しました」


「任務苦労。ちょっと戦略物資の買い付けに行ってくる」


「は、はぁ……お気をつけて行ってください」


 営門兵は『そんな事くらい輜重兵に任せればいいのに』と言った風の表情を浮かべていたが、大将閣下である俺に申し出る訳にもいかず、手早く営門のゲートを開いた。


「閣下、どちらに行かれるのですか?」馭者が尋ねてきた。


「市場だ」


「!? はい市場ですね」


「そうだ」


「了解しました」




 馬車を走らせ十五後、馬車は止まった。


「閣下、市場に到着しました」


「ちょっと買い物に行ってくる」


「はい」


「行こうかツキハ君」


「あ、はい」


 馬車を降りた俺達は場違い感マシマシで市場に入って行く。

 何を買うかと言えば、粉寒天と小豆と砂糖と塩だ。あと形板。

 

 目当ての品はすぐに揃った。

 水羊羹は作り方にしても材料にしても簡易で楽である。

 前世でもよく作ったものだ。

 さっそく買い物を終え、馬車に乗りこみ。


「泊地へ戻ってくれ」馭者に命ずる。


「ハッ!」




 泊地に戻った俺達は調理場へと向かう。


「責任者はどこに居る?」芋の皮を剥いている炊事兵に尋ねる。


「!? か、閣下? 調理長はただ今休憩時間なので、今は我々だけであります」


「そうか、ちょっと調理場を使いたいのだが、構わないかね?」


「は、はい。問題ないです」


「感謝を」


 謝辞を示し、調理台に荷物を置く。さて本場いきますか!

 まずは小豆を煮てこしあんを作る。実はこの作業が手間がかかる。

 こしあんが出来たら、水に粉寒天を入れ寒天を作る。寒天が出来たら、こしあんを混ぜる。そして砂糖と塩を適量入れ混ぜたら形枠に入れ冷やして完成だ。

 一回で5〜6人分だから、もう二回同じ作業を進める。

 

「ツキハ君、こっちの分を司令部に届けてくれ」  


「はい、了解しました」


「おっと、包丁と爪楊枝を忘れるとこだった。ほい」


「はい。では行ってきます」




「お帰り」執務室に戻ったツキハ君に声をかけた。


「ロイド様、水羊羹好評でした」


「それは良かった、さ、君の分だ」


「有り難くいただきます……美味しいです」


「それは重畳。作ったかいがあった」


「作りが簡単になのも良いですね」


「じゃあ、今度は君ひとりで作ってくれ」


 俺のリクエストに彼女は笑顔を見せた。


「はい、ロイド様」

 

肺炎がきつかったです。武漢肺炎でなくて一安心。糖尿病患っているから下手すりゃ一気に重篤でしたからね。

皆さんもくれぐれもお身体大切に。

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