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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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第百二十三話 ロイド、会議とドラクルと

目が痛いのです……

 見たくも無い半魚人の遺体を診た翌日、急遽用意された陸軍と海軍の合同連絡会に出席した。

 出席したメンバーは俺、陸海軍のトップ、巡邏署長(警察署長の事)とそれぞれの副官だ。あと政治的配慮か参事官も複数いる。俺の副官たる村部は本日は休暇だ。


 司会進行は海軍の戦務参謀が務めている。


「……でありまして、海軍としては正式に陸軍と巡邏の方々に警備の強化をお願いする次第です」


「夜間の警備か、……いえ反対はしません。前向きに検討します」


「巡邏署長としても犯罪を見逃す訳にはいきません」


「……そこでお聞きしたいのですが、夜間の警備体制はいかがなさいますか?」


 戦務参謀の問いに巡邏署長が手を上げた。


「確かに厄介ですが、巡邏の回数を増やし密にやるしかありませんな」


 まあ、それしかないわな。だいたい街灯があってもろくに役に立たない。反面連中は夜間でも行動が可能なのが不公平だ。


「陸軍としても同様です」


「海軍も微力ながら協力します」


 あ、待てよ……。


「少し聞きたいのだが良いかね?」俺は軽く挙手して発言した。


「何でしょうか閣下?」 


「連中の悪事は主に何だったかな?」


「窃盗、強姦、殺人…これは今の所、一件ですが、まあこの様な順番です」


「窃盗か……」


「何かお気づきでも?」


「いやな、どうせなら餌を撒いた方が手っ取り早いかなと思ったのだ」


「餌、ですか。……何かご意見はございませんか?」


 進行役の戦務参謀が一座を見渡す。さて……。


「……よろしいかな?」と巡邏署長が挙手した。   


「どうぞ」


「製塩装置が余っていると噂話を流して連中の関心を得るのです」


「何故に製塩装置が?」


「連中、正式な商会…公司コンスを有していまして製塩事業が盛んなんです」


「なるほど、あの装置は安価ですからね。部品数もしれてますし手頃です」と陸軍の少将が賛成した。


「質問、噂話というが、どこにどう噂話を流すのだ?」と海軍の少将。


「はい。連中意外と市中に紛れこんでいまして、酒場を中心に噂話を流します。内容は余った器具を処分したいが、もったいないのでどうするか決めかねる。とでも」戦務参謀は如才なく答えた。


 それから先、細部を煮つめていく。

 会議が終わったのはそれから二刻も後だった。


 執務室に戻るとツキハ君が居た。


「ドラクルは……ああ冷暗所か」


「はい。嬉々として遺体の検死をしています」彼女は僅かに苦笑して、そう言った。


「会議はいかがでしたか?」


「……連中用の罠を張って、夜間の犯罪率を少しでも下げる事になった」


「なるほど。…あ、お茶を淹れますね」 


「ああ頼む」


 何気なく時計をみたら終業時刻の手前だった。俺の視線が時計に向けられているのをツキハ君は悟ったようだ。


「本日は鴨の香草焼きが主菜だそうです」そう言って豆茶を差し出した。


 ちなみにだが、この辺りの海も当然凪いでおり魚類はあまり元気が無く、ぶっちゃけ不味い。鰯は居るが鰹や鮪は居ない。よって海軍泊地の此処でも魚料理はほとんど出ない。


「ドラクルを呼びに行かねばな」


「私が行ってまいりますが」


「ああ、だがな、検死の状況も知りたい。だから俺が行くさ」


「ハッ、失礼しました」





 お茶を飲んだ俺はドラクルのいる冷暗所へ向かった。


「よう、どうだ?」


「ん、ああ、お前様か。いやはや中々に面白い」


 白衣を汚したドラクルは楽しくて仕方ないとばかりに笑顔を向けてきた。


「ほら此処、筋肉の付き方が違うのが分かるだろ?」


「いや、分からん」


「つまらない君主だな」


「ほっとけ。…それよりも本当に海生生物でいいのか?」


「……純粋な海生生物かと言えば違うと答えよう。水陸両用程度だな」


「理由は?」


「脂肪分が少ない。この程度なら一、二刻潜っていられるかどうかだ」


「なるほど、あくまでも人類の発生形という訳か」


「私の見立てではな」


「いや、貴様がそう言うのならそうなんだろう。あとこの連中夜中でも活動できるそうな」


「本当に?」


「そうでなければ説明のつかない事例がある」


「厄介だな。解剖で分かれば善いのだが……」


 解剖で思い出したのだが、大都では遺体置き場を見学するのが流行りだそうな。これは遺体を着飾り、日常生活の光景とする悪趣味な催し物だ。帰ったらこの催し物を禁止させてやる。


「まあ、信頼している典医の発言だ、有り難く傾聴しよう」


「それは誠に恐悦至極」


「茶化すな。さておい、そろそろ夕食の時間だ」


「え〜」


「なんだよ『え〜』って」


「解剖の方が楽しいのに」


 俺はこれみよがしにため息をついた。


「なんだ、そのため息は」


「|ハーブッツツ・ドラクル《やぶ医者》め、少しは淑女らしく振る舞え」


 すると彼女は綺麗な一礼をした。


「我が君が紳士なれば、私も淑女たろう」


 どついたろか。


「ドラクル、俺は誰より紳士してるぞ? ってか、妙な芝居するな気味の悪い」

 

「気味の悪いとは失礼な」


「ほれ、さっさと器具を片付けたらどうだ」


「お前様は私のお母さんか」


「……せめてお父さんにしてくれ」


 ドラクルは俺と奇妙な漫才をしつつ、テキパキと器具を片付けていた。


「……さて、片付けたよ。行こうか。ん、なんだその目は」


「いや、貴様って医者で学者なんだと感心してたんだ」


「?」


「何でもない」


「よく分からんが、何でもないのなら何でもないのだろうよ」


 表に出たら丁度、終業喇叭が吹いていた。

 俺は掲揚台に向き直り敬礼する。ドラクルは胸に手を置いた。


 さて晩御飯だ。陸軍の飯は不味いのが多かったが海軍は意外と飯が美味い。この差はどこから違うのだろう。まあ、偶に出てくる魚料理はいただけ無いが。

 らちも無い考えを横に置き食堂へ向かうのだった。


 と思ってたらなんか忘れてた事を気付いた。


 そうかツキハ君だ。執務室で待機してるままだ。


 廊下を引き返し執務室に戻った。

 そこには半泣きのツキハ君が居た。


「閣下ぁ」


「いや済まん。うっかりしていた」


「放っておかれるかとおもってました」


「済まん済まん、でもこうして帰ってきたじゃないか」


「……はい」


 しゅんとなった彼女に罪悪感がひしひしと広がる。だが、どうするのが良いのか俺には見当がつかなかった……。

間もなく555,555文字達成です。これもひとえに皆様からの応援。ありがとう御座います。

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