第百ニ十ニ話 ロイド、新たな事実に直面する
お待たせしました!
短い休暇を終え、泊地であるカッパの港へ戻った。
そのまま司令部へと顔を出す。
だが何か様子が変だった。精勤は精勤なのだが、どこか心ここに非ずといった感じだ。
「おい君、何かあったのか?」
「は、いえ…あ、いやそれが大変なんです。その何処から話したものか……」
「時系列で表わせ」
「……ハッ、では提督閣下は敵の死体をどれほどご存知ですか?」
「ん、いや見た事無いな」
「その死体の数が合わないのです」
「続けたまえ」
「は、当初は海に落ちたからだと判断していたのですが、それにしては数が合わないと。実際、救助した者はおりません。
そして、本題に入りますが、残された遺骸から想像だにしていなかった事実に直面しました」
「…………」
「……連中、半魚人でした」
「半魚人だと?」
「はい、腋から肺にかけてエラがあったのです」
「それが事実だとすれば、連中、歩が悪くなれば容易く逃げれる訳だな」
「はい」
連中、ヒラメ顔だったが、本当に海生生物だったんだな。なんか感慨深いモノがある。いや無いか。
「実物が見たいのだが」
「ハ、案内します」
俺は隣の副官を見やった。
「君も来るかね? 遺体見学はおすすめしない」
「ハ、ご厚情ありがとう御座います。ですが付いて行くのも職掌であります」
「そうか、ま、好きにするがいいさ」
戦務科の科員の案内により、遺体置き場へ向かった。
遺体置き場は司令部のすぐ裏手にあり、歩いて五分もかからない。
「検体番号一ノ十二です」
そう言って冷棺を引き出す。そこには壮年の男性の遺体が載っていた。その姿は青白く、微かに死臭がした。見た目、死因となった傷は無かった。おおかた背中側にあるんだろ。
まぁそんな事はどうでも良い。
「エラは何処にある?」ぶっちゃけ死体に触りたいと思わない。課員に顎で示した。
その課員…少尉はイヤな顔をせず遺体の腕を持ち上げた。
「コレです。ココがそうです」
そこには確かにエラがあった。
「確認した。確かにエラだ。これは全部の遺体に付いているのかね?」
「ハ、いいえ、八割がそうですが、二割は普通の人間でした」
「それはあれか、連中の元に行ったこちらからの逃亡者だと考えていいのか?」
「はい」
「ん、分かった。少尉、苦労であった」
司令部に戻った俺は皆を見渡した。
「さて諸君、これをどう見る、どう解釈する?」
「それについてはまだ懸案事項があります。先に伝えた時系列の続きですか」
「何かね?」
「連中、以前から強姦、殺人、窃盗…まぁ、あらいづも沿海州一帯で行なわれている犯罪なんですが、夜間での活動が目立ってまいりました」
「聞き捨てならないな。すると何か、連中は海生生物なだけでなく、夜間の活動も出来ると言う訳か?」
「はい、信じられないかもしれませんが、その可能性が高いと言えます」
「この事は陸軍でも承知しているのか?」
「……いえ、管轄が違いますので」
「情報の共有は密にしろ」
「ハツ、合同の連絡委員会を設けます」
「よろしい、差し当たっては夜間の警備だな。それと駆逐挺に弩弓を増設して海中に逃げ込んだ連中対策にする」
「それは良い案ですが、弩弓の数が足りません」
「それは俺が用立てする」
「有り難くあります」
「俺は自分で言うのもなんだが軍政畑の人間なんだ。用立てくらいなんでもないさ」
さて言ったは良いが訪ねる順番…根回しが難しい。ま、いざとなれば強引にでも用立てするさ。
「それよりも、今、俺が知っておくべき懸案はあるかね?」
「……はい、今の所はありません!」
「よろしい。諸君、たとえ蛮族が半魚人だとしても殲滅する事は同じだ。ただし油断は禁物だ」
「「「ハッ!」」」全員が起立し、敬礼をとる。俺は答礼を返した。
「では俺は執務室にいる」
「ハ、了解しました」
「あ! ひとつよろしいですか?」参謀のひとりが手を上げた。
「何かね?」
「新型の平射砲、あれの弾薬を焼夷榴弾に代えたいのですが」
「理由は?」分かっているんだが、ひとまず聞いてみる。
「物理的に破壊するよりも、焼夷榴弾で焼いた方が撃ちもらしが少ないからです」
だろーな。
「許可する。派手に焼いてやれ」
「ハッ!」
そして俺は執務室に入った。さて……。まずは陳情書から書くか。これは兵站部へのやつだ。
陳情書の次は意見書。これは軍務尚書宛だ。内容が内容だけに脅威を強調しておく。
流石に『オ・ネ・ガ・イ♡』とは書かない。それ位の分別はあるさ。
「閣下、お茶をお持ちしようと思うのですが、豆茶と甘茶、どちらを用意しましょうか?」ツキハ君がそう口に出した。
豆茶とはコーヒーの様な味で、確か東部ではポピュラーなやつだ。
「甘茶も良いがたまには豆茶も良いな」
「かしこまりました」
さて、兵力の増強とかの書類も一段落したし、やっとく事はあったかいな?
書いた書類を眺めつつ、豆茶を飲む。
……違いの分かる男になりたい。
ダバダーダバダーダーダダバ、脳裏にあの音楽が流れる。
「あ、ツキハ君、明日の予定を大都の館に変更してくるかね? ドラクルを呼んできてほしい。あの半魚人共の生態を調べねばならない」
「ハ、了解しました」
ドラクルを使い潰したくは無いが、まぁ対象が対象だけに悪い気はしないだろうよ。研究者冥利に尽けるんだからな。
ネタ切れではありませんが、書く事にプレッシャーとかあって絶賛スランプ中です。