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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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第百ニ十一話 ロイド、休む・後編

 俺はツキハ君の跳躍で先に戻り、翌日彼女は三度みたび日本人自治区に赴いた。

 で、ニ俵ごと帰ってきた。


「苦労。で、交渉の方はどうだった?」


「はい、今節末より技術指導員が来ると」

  

 俺の計画では自衛官から適任者を選び出し、農作業に従事させる予定だ。例の自治体からの購入は継続させるが、向こうもカツカツなのだ。収穫量を増やすのも良い手だと判断した。

 無論、最初から上手く行くとは限らない。ニ、三年はまともな収穫は認められないだろうよ。某農業系アイドル達も一年では種籾の収穫でいっぱいいっぱいだった。

 しかし、やらなければ始まらない。俺は兎も角、日本人に米は必需品だからな。


「そーゆう訳で、工藤、人員を回せ」


「我々に畑仕事をしろと?」


「その通り」


 俺の返事に彼女は盛大にため息をついてみせた。


「……了解しました。至急人員を配備させます」


「任せた。米とやらが出来たら俺にも分けてくれ」


「はい…閣下」


 さてこれでひとつ問題が終わった。大豆があるのだから味噌は作れるだろうよ。さて次は本命のイライジャだ。

 館に入る。控えてある客間女中に尋ねる。


「イライジャは何処に居る?」

  

「はい、おそらくは旦那様の居室かと」


「わかった」


 彼女が間違えている可能性もあるが、まぁイライジャの行動範囲は狭い。直ぐに見つかるだろうよ。

 階を上がり自室の前に立つ。中にはヒトの気配がした。


「いま帰ったぞ!」 


 バーンと扉を開け放った。


「!? にいさん? 兄さんだぁ!」


 泣いていたのか、涙を拭きながら義弟は飛び上がった。

 駆け寄り、ぶつかる様に俺に抱きついた。


「俺の大事な館に泣き虫さんが居てと聞いてね」


「泣き虫さんじゃないもの!」


「じゃあ、その涙の痕は?」


「……これはそのう……う〜、兄さんが悪い! 兄さんが帰って来ないのが悪いから!」


「確かにな、俺が悪い」


 イライジャはワンワン泣き出した。それからの小半刻宥めるのに費やす結果となった。

 泣き止むのを待って事実調査に移る。


 結果は中度の躁鬱病だと判断した。ならば気分転換にでも誘おう。

 かと言って遠出は出来ない。


 そうだ、丘の下の湖なんてどうだろう? よし決めた。さっそく行こう。


「イライジャ、服を着替えておいで」


「はい! でも何処に行くの?」


「下の湖さ。嫌かね?」


「ううん」




 領主の丘の下には小振りながらも湖がある。当然遊覧用の手漕ぎボートもある。俺はその一艘を借り、イライジャを乗せた。

 チャプチャプと漕ぎだす。少し風が冷たいが気温は暖かくて丁度良い。


「イライジャは初めてか?」 

  

「うん」


「俺は十年振りかなぁ」


「そうなんだ」


 そう言ってじっと俺を見つめる。


「なんだい?」


「子供の頃の兄さんが想像できなくて」


「……変わったと言えば変わったし、変わってないと言えば変わってない。昔からガタイはデカかったからなぁ」


「ふうん」


「……泣いていたと聞いてね」話を切り替える。


「……うん、泣いている時も有ります。イライラして集中出来ない時も有ります」


「授業に遅れは?」


「少し。あ、でも舞踏は順調です。あ、それと新しい魔法を覚えました」


「ほう、どんな魔法かね?」


「爆炎魔法です……威力はまだまだだけど毎日練習してます」


 イライジャの献身につい涙腺が緩みそうなになった。魔法の切り替えは手間暇かけて根気のいる作業だからだ。

 オールを手放しイライジャを引き寄せる。このは泣きながらでも俺の為に魔法の練習を続けていたのだ。


 ……愛おしい。初めての感覚であった。いや性的にではなく感情的な、感性的なものだ。

 引き寄せるとお姫様抱っこする。イライジャは大層驚いたようだが、それは俺も同じだ。サービスするのも程がある。

 気恥ずかしくもあり冗談でも言ってみようと思う。行け、俺。飛ばすぜ、スカした言葉を。


「……今日は風が騒がしいな」


「……でも少し、この風、泣いてます」キター!


 パーフェクトだ。イライジャは以前に教えた通りに答えた。


「良いぞ、ボケたらきちんとツッコミを入れるんだ」


「じゃあ、今ので合っているの?」 


「今のは完璧だ」


 義弟ぎまいはエヘヘと笑った。俺もニッコリと笑う。


 俺達はしばらくの間、そうしていた。


 その間も俺の頭の中はくだらない事や重要な事が過ぎっていった。その中にひとつ懸案事項があった。


「兄さん、考え事?」目ざとく俺を見上げる。


「ん、ああ、教育制度の見直しをだな。……中等部を出た者達はそのまま社会へ横滑りするのが一般的だ。だがそれでは何かが足りない」


「…………」


「そうだ、職業訓練校だ! 各組合を先頭に週四日か五日を技能教習に当て、やはり四日か五日をその職に当てる」


「ええっと、良いと思います」


「そうか! ありがとう!」


 ギュッと抱きしめる。するとおずおずとイライジャも俺を抱きしめた。


 気分に余裕が生まれると視界も広がる。そんな中、一台の屋台が湖畔に居る事に気付いた。よく見るとウーのおっさんの屋台だった。

 小舟を漕いで近づく。


「やあ呉先生ウーシーサン!」


「久しぶりだわね老路ラオ・ロー。こちらの可愛らしい女の子は?」


「イライ…イェラという」


「よろしくイェラ小姐シャオジェ


「?」


「小姐とはお嬢さんの事さ」


「ウーシーサンとラオローって?」


「シーサンってのは〜さんを意味している。つまりはウーさんだ。老路ってのは、俺の、まぁ呼び名の事さ」


「よろしくです呉さん」


「呉先生、大餅ダービンを俺に二つ、彼女にひとつ」


「毎度」


「ダービンって何?」


「薄力粉で作る軽食さ」


「どうだい売り上げは?」


「小金持ち程度には繁盛してるよ。ホイ、出来たよ」


 大餅の作り方は簡単だ。薄力粉を水で研いでネギを刻んで入れる。棒状に焼いて完成だ。それをラー油とか香辛料で食べる軽食である。


「相変わらず手際は良いな。…手持ちに銅貨は無いんだ。銀貨で支払う。釣り銭は要らないよ」


 銀貨を小銭入れから出す。さすがに銅貨の持ち合わせは無かった。

 呉のおっさんは職業倫理と俺からの好意を秤にかけている様だった。

 そして出した結論は俺のメンツを立ててくれた。


「謝謝、老路」銀盤(屋台の小箱)に銀貨を入れる。「今度はわたしが御礼をするばんね」


 中国人は面子を大事にする。それを固辞する事は失礼な事だ。だから今度は呉のおっさんからの歓待を受けよう。

 それが礼儀ってもんさ……。


「さて、帰るか我が家へ」


「はい!」 


 イライジャの機嫌も治った事だし、やりたい事も見つかったし休暇か終わりだ。明日からまた忙しくなるぞ。


スランプです。書きたい文字もやりたい描写もあるのに書けません。

遅れに遅れて大変ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。

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[一言] うんうん。 読んで良かった満足。
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