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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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第百ニ十話 ロイド、休む・前編

遅くなりまして本当に申し訳ありません

 ツキハ君に頼んだお使いは半ば成功し、半ば失敗した。

 成功とは日本人のコミュニティを捜し出し、失敗とは買付けの事だ。

 仕方ないので一等権限のある俺とリアル日本人である村部を連れて再訪する事にした。とは言っても一日ほど待ってからであったが。

 ツキハ君が運んでくる書類が多いのだった。提督と領主の二足の草鞋を履く生活。ストレスがマッハだ。この間から来たユージーンともエッチな事していない。幸いなのはここ数日は微熱に悩まされていないくらいだ。そういやイライジャは元気にしているだろうか?

 今は考えても仕方ない。目の前の仕事が優先だ。




 海戦の方も我軍が優勢だったが四日目以降、戦闘は起きていなかった。訳がわからん。そういや漕ぎ手どもを鏖殺した際、数が合わないという報告があったな。

 そうであるなら、敵は強かに戦力の充実を謀って反攻を狙っているのかもしれない……。


 そんな事をつらつら考えていたらツキハ君が帰ってきた。何やら深刻そうな顔をしている。


「何か問題でもあったのか?」


「……はい閣下、大した事がないと言えば大した事ないのですが」


「そう言う場合でも報告だ」


「はい、あの、イェラちゃんが……」


「イライジャに何かあったのか!?」


「あ、いえ、その逆でして」


「?」


「閣下が帰って来られないので泣きじゃくっています」


「………………」


 それはまた微妙に困ったな。……責任は保護者である俺にある。かと言って『ちょっくら帰ってくらあ』なんて事も言えない。流石に無責任過ぎる。

 だが、泣いているイライジャを放っておくのも悪手だ。その位は分かる。


 俺は考えに考えた。だが簡単に答えは出ない。目の前に控えているツキハ君や副官である村部にアドバイスを得る事は簡単だ。しかしいい年した大人の俺が安易に他者を頼るのも問題だ。この程度、自力で解決すべき案件だった。


 ……決めた、帰ろう。

 とは言っても明日にでも帰る訳にはいかない。ツキハ君のスケジュールの調整もある。

え〜と週の一日目はミーティングと主に帝都へのジャンプ。集まっている戦略資材を運ぶための振り分け。二日目は帝都から大都(あるいは北都)。三日目は休養。四日目はまた帝都へ、資材を持って大都へ。五日目はここカッパへ決裁の必要な書類を持ってくる(イライジャの報告を受けたのもこの日)。六日目は休養。七日目はアレックスの所へ行くか行かないか(行かない場合は戦略物資の輸送)。八日目は帝都(大都)に戻って待機。九日目は戦略物資を運ぶか俺の所に書類を運ぶ。十日目は予備日で完全休養日だ。……なんか休み多くない? 

 まあそれは置いておく。

 丁度ツキハ君のスケジュールは俺を拾って帰れる余裕があった。ついでに米を買って帰ろう。決めた。…となれば……。


 海軍休暇ネイビーホリデーだ。俺はやんな如き公務で帰還する必要があり、その間は海軍は休暇をとって英気を養って欲しい。うん、これで行こう。

 よーし、書類仕事なんざ、さっさと終わらせてしまおう。八日目から帰る事にする。本当は明日にでも帰りたいのだが、如何せん書類仕事が明日には終わりそうになかった。


 留守を派遣兵団と艦長職の者たちに伝えてツキハ君の跳躍ジャンプで現地へ行く。


 ところで何故買付けに失敗したかと言うと、コミュニティの長(自治会長)が『大切な米を何処の誰に売る訳にはいかん』との一点張りだったからだ。どんな頑固親父なんだよ。

 ま、向こうがそう来るなら俺が出張ってやんよ。


 着いた先は田畑でんばたの広がる和風な土地だった。いや家は現代風の家が多い。


「こちらです」ツキハ君を先頭に歩き出す。


 彼女が案内したのはサイロのある建物で小さな物販もやっている屋敷だった。

 のれんをくぐる。


「いらっしゃい」明るい声が響く。だが看板娘には用は無い。


「君、店主は居るのかね?」


「あ、はい」


「話がしたい、呼んできてくれ」


「はい、少々お待ち下さい」看板娘は一礼するとパタパタと駆け出して行った。




「手前がこの店の店主をしております天王寺屋です」


 現れたのは五十代ほどのおっさんであった。


「天王寺屋、挨拶は抜きだ。先日うちの者に商品を売らなかったな、それの是非は問わん。だが彼女の雇い主である俺が来たんだ、今度は売ってもらうぞ」


「……若旦那さん、当店は商いも小さく、先だってもその点は申し上げたように他領に下ろす分が無いのです」


「なるほどなるほど。だが貴様はこうも言ったらしいな『お嬢さんに売る米はない』と、違うか?」


 店主は小さく嘆息した。

 

「ええ、確かに言いました」


「俺はな、この自治体の米の生産量は知らん。だが、外貨を稼ぐ乃至ないし租税の為の備蓄でカツカツにはならん事は理解している」


「…………」


「天王寺屋、俺はこう見えても辺境伯をやっている。その俺が手ぶらで帰りましたなんて事は俺の保護下の日本人達に言えねぇんだよ」


「…………判りました、お売り致します。それでいかほど?」


「手始めにニ俵」


「は?」

    

「だからニ俵だ。なんせウチには三百人からの日本人が居るんでな」


「……判りました用意させます」


 オッシャー! ミッションコンプリート。


「天王寺屋、モノがモノだけに今すぐ用意しろとは言わない。明日の正午、使いを出す。代金もその時だが、手付け金を置いていく、それで構わないな?」


「受けたまわりました」


 商談も成立し、売り場を見渡す。なんつーか昭和な雰囲気(いや良く知らんが)の店だ。

 しかし郷愁の様なモノはなかった。その事実に軽く衝撃を受けたのだった。

運営さんから性描写についてクレームが入ったのでノクターンへ移転するか、当該箇所の修正を求められています。あゝ悩む悩む。

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