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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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第百十七話 ロイド、受領した艦に乗り、泊地へ向かう

四年目キター

今迄の頑張りは皆さんのおかげです。これからも頑張るので応援お願いします。

 信任状授与式が終わり、自分の乗艦である巡洋艦ヒューシャオに乗込んだ。さぁ出発だ。


 船旅は順調に進んでいた。船団は三隻。我が座乗艦とそれに曳航される形の輸送船達だ。輸送船には新兵器の魔伝器や魔導火炎放射器などを満載している。

 正直な所、旗艦がボッチで輸送船を引いているのはどうかと思っているのだが、まぁ海軍には海軍なりのやり方が有るんだろうと考え直した。

 ま、そりゃそうだ。汽走の艦とガレオン船では速度が違うからな。蒸気動力は格が違う。


 現実逃避は置いといて、今、目の前には資料が山こもり(てんこ盛りの誤用)だ。提督に必要な勉強ってやつだな。机の対面には村部も副官に必要な資料を読んでいる。

 真面目と言えば真面目なんだが、傍目、辛気臭い顔だとも言える。


「なあ村部君や、何故にそうも辛気臭い顔をしてるのかね?」


 村部は顔を上げた。


「貴方がそれを言いますか? だいたい自分は陸戦専門で海軍の、それも提督の副官なんか拝命した覚えはありません」


「正論有難う。しかし俺の駒の中で副官が勤まるのは貴様しか無かったのだ。それに……」


「それに?」


「工藤を副官なんかしたら、俺の精神衛生上、非常に悪いじゃないか」


 俺の答えに村部はゲラゲラと笑いだした。


「今のはオフレコでお願いしますよブフ」

 

 彼は懸命に笑いを納めようとしてるが、どこかにツボが入っているのか笑いが漏れていてしまう。

 暫くそうしていたのだが、ようやく笑いを引っ込めた彼は真面目な表情を取り繕った。


「ひとつ質問が」


 彼にあわせ居住まいを正す。


「何かね?」


「自分はこの国をよく知らませんが、陸戦主体の貴方が勝手の違う海軍の提督にどうして成られたんですか?」


「うん、それは俺も疑問をもっている。だがね、ちょっとした事情があるのさ」


「事情?」


「俺の親友アレックスが、この戦いを主導する予定だった。しかし彼は降りた。『自分は戦いの素人です。ここは練達の司令官であるファーレ辺境伯を推します』

『しかしファーレ辺境伯は陸戦の司令官だぞ?』と、とある大臣。

『過日、彼が言っていました。『司令官なんてのは射撃開始と止めのふたつ』だと。海戦もまた同様。ならばだと思ったまでです』とな」


「そんな理由が通ったんですか」


「今のは要約だが、まぁそんなトコだな。紛糾するかと思ったんだがな」


 全く迷惑な話だが、親友からそうまで言われたのだ。ならば奮起して期待に応えるのが筋ってなモンだ。


「しかし……」


「しかし?」


「この珊瑚の海は凄いと思わんか?」続けるには生々しい話が続くので話題を変えた。


 右舷の窓から一面の珊瑚礁が広がっている。


「この珊瑚礁はどれ位広がっているのですか?」


「聞いた話ではアフリカ大陸に匹敵するそうな」 


「マジですか……!」村部は絶句した。まぁ無理もない。


「ティガ・ムウ大陸の南海を珊瑚礁が占めている為に海運は歪な形に育った。それの延長で海軍もまた異形の進化を遂げた。

 例えば、この艦は巡洋艦扱いだが、実質駆逐艦並みだ。駆逐艦いや、駆逐艇に至っては……君達の言葉でコルベット以下なのさ」


「では戦術運用は?」


「この艦隊と同型で先陣を切り、穴を開ける。そこを駆逐艇で押し開く。基本はそうだな」


「駆逐艇の戦い方は?」


「矢を射る、衝角を使う、その後接舷しての白兵戦だ」


「なんともまぁ……」


 そう、次元の違う戦い方だ。


「通常の海戦なら駆逐艇だけで終わらせる。対し巡洋艦を使うのは試験的な意味合いもある、何より補給に難がある」


「と言いますと?」


「汽船の燃料は何だ? 石炭だ。その石炭の補給基地の少なさ、備蓄量の少なさが枷になっている」


「どうして少ないのですか?」

 

「国内の産出量の割合のせいだ。あと予算不足」


「世知辛い話ですな」


「ま、そう言う事だ。さて仕事に戻ろう」


 話を締めくくり、教本を手に取った。覚えなくてはならない教本ばかりでウンザリする。




 翌日、俺はCIᑕにいた。三番艦より設けられた戦術管制センター…と言っても設備自体は簡素だが…に興味を覚えたからである。

 敵味方の識別はこれから観測手から報告さられる魔伝器がその役割を果たす。

 CICとしては地球のそれと違い未成熟だが、それでも進化と言えば進化だと思う。ここには八人のオペレーターが居て四人が射撃指示、四人が艦運用指揮を取る。四〇の目標が察知出来るシロモノだ。ここが俺の新しい戦場になる事に感慨深くもある。


 八日後、艦は最前線の港町カッパ (カパとも言う)に入港した。軍港地区に入り接舷する。

 軍港には既に何隻もの艦が並んでいる。隣には同型艦…たぶん一番艦ランプーアダムス…が居た。

 夕刻というのもあり食事は俺の挨拶会場となった。意外な事に俺に対する感情は好意的がおおよそ四割もあった事だ。それが何を意味しているのか分からない。

 食事の後、何名かの士官に囲まれた。いや、害意は持ってなさそうだ。その中のひとりが挙手した。

 

「ところで提督、先日起きた騒ぎがありまして」


「どんな話かね?」   


「我が方の情報局員が商会をでっち上げまして、連中の所に乗込んだんです。で向こうの役員に近づき取り引きを申しでたんです。

 『これから建造される巡洋艦なんですが、相応の金額を払ってくだされば、完成した後ひそかにお渡しできますよ』って」  


「おいおい、それは……」 


「で、連中はそいつを信じて金を集め、支払ったんです」


 一同爆笑。俺もつられて笑った。寸借詐欺もここまでくれば立派だ。しかし、馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、こうも馬鹿だと哀れにすら思える。


「で、艦は造るのかね?」


「確定はしていませんが、建造費はまるまるあるので造るでしょう」


 士官はそう言ったが俺はそうは思っていない。利便性に劣る巡洋艦を増やすメリットがなかったからだ。現状、海上敵性集団はひとつしかなく、他大陸(有ればの話だが)からの侵略もなかったからだった。

 海軍無用論を唱える訳ではないが夷狄討伐が終えれば海賊退治くらいなものだ。その海賊もこの二十年出ていない。一部みかじめ料を取る不届き者がいる位だ。大陸南部の沿海州側にある『回廊』には、なにかがあった場合の用心棒…もとい保険なのが海賊総力なのである。

 余談だが、北部周りは波が荒く接舷不可能な崖だらけで交流は無い。北部と東部には海岸線もあるが低湿地帯ばかりで無人だ。そのため、やはり交易ルートには向いていない。


「ま、戦力化するかどうかは分からんが、向こうの出鼻を挫いたんだ、初撃は我々にある。この調子でやりたいものだな」と言って話を締めくくった。

ロイドが提督になれたのは皇帝より上位の存在が絡んでいます。ですので当然ロイドは認知出来ません(その下のレベルでのあれこれは知っていますが)

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