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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第6章 ロイド辺境伯、東夷討伐
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間章 イェラのある日

遅くなりまして申し訳ありません。

 私は意識を集中し炎が爆ぜる事を想像した。

 次の瞬間、バチンッと炎が華開いた。成功だ!


 私の持つ魔法は着火を目的にした火の魔法とバケツ三杯分の水魔法だった。それを攻撃を目的とした魔法に切り替えるのは簡単な事では無かった。出来ない訳ではない。やり遂げる意思と行動力があれば可能とさせるのだから。

 単純と言えば単純。持っている魔法を『忘れる』事で上書きさせるの。

 忘却士という職業があって『忘れる』事を学び、術をかけてもらう。それからの数日(場合によっては数週間)自分の中にある魔法を忘れていくの。で、私は無事に火の魔法を忘れる事に成功した。

 身に付いた魔法を忘れるのは難しい。でも私はそれをやり遂げた。


 私が何故新しく魔法を覚え直す事を決めたのは、全ては兄さんの為だ。

 寝室という最後の砦で兄さんを守る事が出来るのは私だけ。私だけの特権だ。

 そうした事情もあり、私は攻撃魔法を学びたいと願った。それが炎の爆炎魔法。回数は二回。いや、せいぜいが三回かな? もっと練習しなきゃね。



 お昼からは舞の練習だ。オリガ夫人からではなくて地元のお婆さん。なんでも失伝しかけている舞で私が最後のお弟子さんだという。

 舞の名は『つくし舞』、異世界の国ニホンの舞で『尽くす』事をなぞった舞らしい。私がその担い手になれたのは光栄だと思う。たぶんだけど兄さんも同じ感想を持つと思うの。

 まだ序のニ段だから兄さんにお披露目するには拙いから、もっと一生懸命に覚えなくては……。



 ……今日の習技はこれでお終い。さて汗を流したいから風呂に行こう。

 脱衣場で服を脱ぐ。

 ……私は自分の裸が嫌いだ。何故男の身体なんだろう?

 自分の『男』の部分を切り取ってしまおうと刃物を持ち出した事もある。だけど怖くてそれは出来なかった。……自分の情けなさに腹が立つ。いっそクライブの様に男の子のようにいられたら? いいや違う、私は女の子なんだから。嗚呼、なんてもどかしい……。

 矛盾。どうしようもなく矛盾。それが悲しくて辛い。


 夜、兄さんの寝床に忍び込む。兄さんの残り香をかき抱いて眠る。早く兄さんに会いたい……。

 不意に涙が出た。兄さんに会いたい。抱きしめて欲しい。

 狂おしい程の情念が私を焼く。助けて…助けて兄さん。

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