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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第5章 ロイド辺境伯、今日から明日へ、明日から未来へ
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第百十六話 ロイド、提督になる

お待たせしました。

 俺はツキハ君の跳躍でアレックスの館にお邪魔していた。

 今、彼の館の会議室には俺、アレックス、あらいづも代官ガイウス氏、同弁務官ボルジア氏、当案件担当課長グッドマン氏、軍部からあらいづも駐留准将アインスバッハ殿、海軍大将ズタ殿と錚々たるメンバーが集まっていた。


 会議は粛々と進んでいく。あらいづも代官のガイウス氏が進行役だ。


「……であるからして、東夷の連中は交渉の場に出ませんでした。従ってあらいづも代官として軍の出動を要請します」


 弁務官のボルジア氏が席を立った。


「帝国弁務官の立場からも賛同いたします。彼奴らは自分達の主張だけを声高に発し、こちらからの意見をのらりくらりと躱し、常にあたかも被害者として振る舞います。

 これは非常に恣意的で、同時に挑発的です。ここでこちらが引けば連中はに乗る事必定。引いてば帝都におわす皇帝陛下の宸襟をみだす事でしょう。ここは俄然強気で押すべきです」


 弁務官って公平的な立場なんじゃなかったかな? まあ良いさ。

 さて、この会議もニ刻を越えた。そろそろ評決をとって終いにしたい。で、俺は挙手した。ちなみに俺の立場は夷狄討伐総司令だ。臨時に提督の地位を有するのが予定されている。


「さてお集まりの方々、そろそろ評決を取りたいのだが? 賛成の方は挙手をお願いしたい」


「賛成」「私も賛成」「賛成」「賛成だ」文官派は賛成にまわった。意外な事に軍人二人は反対であった。また文官のひとり、グッドマン氏も反対していた。

 しかし賛成派が多く、決議は決まった。


「それでは当案件を御前会議に奏上して、裁可が降り次第、本作戦を決行したいと存じます」


 作戦は決まっている。陸上兵力が水際で防衛し、海上兵力が敵船団を破壊する。その後、虱潰しに敵民族を根絶やしにするのだ。

 参加兵力陸上、一個旅団。

 海上、三個戦隊。

 旗艦巡洋艦彗小ヒューシャオ以下巡洋艦二隻、駆逐艦六十隻のほぼ全力が投入される。

 

 余談になるが、ティガ・ムウ大陸の南側にはアフリカ大陸並みのサンゴ海が広がっていて、吃水の浅い船しか運用出来ない。また風の凪いでる地域も広く帆船はあまり出番がなく、主な水上船舶はガレー船だ。一応漕ぎ手を守る防盾あるが絶対ではない。巡洋艦は蒸気機関だ。

 戦艦が無いのは戦艦クラスでは吃水下にサンゴ礁にぶつかる可能性と、戦艦をつぎ込んだ海戦が亡くなって久しいからでもある。


 さて上奏文はアレックスに持たせ、彼は帝都に旅立った。俺とツキハ君は海軍工廠に向かい新造艦の受領を行なった。


 ほっそりとした艦影は武張ったイメージにそぐわない。どちらかと言えば華奢に見える。だが戦闘力はトップ3にはいる、いや戦闘力はトップに位置する強者つわものだ。

 一番艦ランプーアダムス、二番艦ミームアリフヌーンと竣工時期が違うため、兵装に違いがある。三番艦ヒューシャオには異界戦役後半に登場した新型後装式平射砲が装備されている。

 また同艦よりCICを設けられているのも特色だ。魔導レーダーと観測手スポッターのリンクにより最大八艦との戦闘も可能なのだ。……実際には八門あってもニコイチで運用するから八艦相手にはしない。ただし、砲軸上に重なるなら一門一艦も可能だ。


「当艦は就役しましたが、事情がありまして実戦投入は二ヶ月先になります」


 艦を案内してくれた士官は申し訳なさそうに告げた。


「事情?」


「はい、試作兵器が無事試験を終えたので、それを配備しようと只今工廠で量産化している最中なのです」


「機密兵器の類か?」


「はい、いいえ違います。……そうですね機密は解除しましょう。兵器は魔導通信機の運用小型化です」


「ほう! それは朗報だな」


「はい! これの実戦化により戦場はより有機的なものとなるでしょう」士官は嬉しそうに語った。


「しかし、そのですね…」


 打って変わって歯切れが悪くなる。視線も俺よりかツキハ君の方をチラ見している。


「君、何か副官に用があるのかね?」


「ハ、その、…当艦は、海軍は女人禁制でありまして……」


「ああ、そういう事ね」


 さて困った。制度上は禁制なのは分かったが、俺の場合、ツキハ君を押し付けたのは軍制のトップ軍務尚書なのだ。

 そこのとこを踏まえて、三人であーでもないこーでもないと議論に及んだ。だが結局俺はツキハ君の意見を却下する。

 彼女は『いざ、という時の私です』という論調で意見を言う。それは正しくもある。だが艦内の秩序を乱しかねない彼女の存在はあまりにも女性的でありすぎた。平たく言うなら野獣の檻にエサをぶち込むようなものだからだ。

 

 どうにか説得は成功し、副官の代わりは村部を呼ぶ事となった。


「ツキハ君、一旦館に戻り、村部大尉を呼んできてくれ」


「あ、はい。畏まりました」




 翌日。


「何だって自分を呼んだのですか、閣下?」


「貴官を臨時の副官に抜擢したい」


「はあ?」


「さて出航式だ、ついてきたまえ」


「え? 出航?」


「そうだ。臨時の副官として貴君を招聘した」


「聞いてません!」


「まあそう言うなよ。俺も何故か提督になったんだ、諦めてついて来い」


「どうして提督に?」


「知らん。陛下がお決めになった事だ」


「自分、明日から休暇だったんですが、代休頼みますよ」


「承知した」


 村部を副官として、俺は旗艦ヒューシャオに乗りこむのであった。これから二ヶ月間艤装と訓練に明け暮れることになる。

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