第百十四話 ロイド、『追う』約束を果たす
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百十二話、百十三話、百十一話、百十四話の
順番です。小説置換の仕方がわからないのでご不便おかけします。
「で、ようやく完成した訳だ。苦労」
試薬の入ったアンプルをしげしげと眺める。
フランシア健護師は静かに微笑む。
「これで先生の柵を解く事が……」
「後は暗示を上手く処理できれば完璧だ」
「さっそく始めたいのですが」
「……そうだな」
「何かご懸念でも?」
「連中を生かしておくか処罰させるか、どちらを優先させるかをね」
「……前者ですと此方に問題がでても対処が早い。後者ですと憂いが無くなる代わりに対処に問題がでる、ですか」
「そうだ。悩ましいところだ」
沈黙が俺達を包んだ。
「摘発をなさる準備が出来ているのですか?」
「監視はさせている。が摘発も容易だ」
「では提案させています。摘発時に製造工場を制圧して製造方法を最優先で手に入れるのです」
「それは当然考えているよ」
「失礼しました」
「いや、その考えは当たり前だ。さて連中の捕縛、どうしたものやら」
「保険の意味で先生の暗示が解けるまで生かしておく。これでよろしいかと」
「(怖い事考えるな……)まあそれが妥当か」
「それで話を戻しますが、先生への処置、いつ行ないますか?」
俺は少し考えてから口を開く。
「来週、アンプルを受け取りに行く。その際に連中を一網打尽にする。生産設備を押さえた事を確認してから後、ドラクルの処置に踏み切る」
「承知いたしました」彼女はさっと一礼した。
さて忙しくなるぞ。なんせ連中の生産設備の拠点を探しださなきゃならん。手を汚す事も必要だ。俺にはアーベル・ルージュの手駒があるが、彼女は頭を使っての仕事は少々厳しい。ヒューレイルも居るが、彼は俺の護衛だ、役割が違う。やはり俺が出張るしかないな。
来週ってもあと四日、直ぐにでも動かねば。その前に書類の決裁と引き継ぎだな。幸いにして重要性の高い案件は無かった。
翌日、ツキハ君の跳躍で北都に向かう。溜まりがちな書類を前倒しでサインしまくる。
さらに翌日、帝都入りする。その足で情報局に向かった。
「何用でございましょうか」受付嬢は鉄面皮のようだ。別嬪さんなのに惜しい。
「我はファーレ辺境伯だ。先だって頼んでおいた案件で来た次第である」こちらも負けずとふんぞり返って言った。
受付嬢は書類挟みをめくる。ややあって顔を上げる。
「カザーナ商会の話ですね、担当をお呼びます」
五寸程まっていたら、汗を拭きつつ中年の男性がやって来た。
「お待たせしました、当案件を担当しておりますスチュアートと申します」
「よろしくスチュアート殿」
握手をするが、意外なほど彼の手はガッチリと握手してきた。
「立ち話もなんですし、応接室へどうぞ。
おいミザキ君、茶を用意してくれ」
「はい課長」鉄面皮の受付嬢はミザキというらしい。
応接室は華美という程ではないが、それなりに装飾はされていた。スチュアート課長は俺を上座へといざなった。
「カザーナ商会の監視は十分に行われております。それと幹部が密かに通っている建築物も把握しました」
「それが聞きたかった。で場所は?」
「失礼します、お茶を用意しました」
「うんご苦労さま。ささ、辺境伯様、粗茶ですがどうぞ」
「ああ頂こう。……うむ、美味い茶だ」ホントは大して美味い茶ではないがな。
「カザーナ商会から歩いて数寸の所にある工場です」
「そこに見張りは居るのか?」
「いいえ」
「ふむ」
「ところで基本的な事をお聞きしますが、カザーナ商会のどこに問題があるのです?」
「……麻薬作成、販売、転移人保護法違反、誘拐などだ」
「なるほど、ですから情報局を。警察局をいれなかったのは何故ですか?」
「君たちは捜査令状無しで踏み込めるからな」
「何か裏が有りそうですね」
「裏、という程の事じゃない。うちで預かってる客人の治療に必要な書類が欲しいだけだ」
課長はじっと俺の視線に合わせる。
やがて納得したのか、しきりに頷いた。
「ファーレ卿に二心ないと存じます」
俺はひとつ頷くに留めた。
「改めてご依頼、承りました。では……」
彼は書類挟みを開いてなにやらチェックとサインをする。そしてそれを俺に向けて渡した。なになに?
「要は事件の内容を漏らさない。得た物品から利益を得ない事を確約する事ですね」
黙って内容を確認してサインをする。取り引き終了だ。
「では作業内容を監視から捕縛に切り替えます。なにか必要な事がございますか?」
「……二日待ってくれ、こちらも人を呼ぶ必要がある」
「人ですか? まあ二日待ちましょう」
それから現地の情勢など、“詰め”に向けて話あった。
情報局を出てツキハ君に語りかける。
「ツキハ君、今日はゆっくり休んで(彼女はここ連日跳躍の回数が多かったからだ)明日ファーレ領に戻り、明後日クドー連隊長とムラべ大尉を連れてきてくれ」
「ハ、畏まりました」
連中は荒れ事にもなれているし機転も効く。本作戦には打って付けだ。
翌々日、ツキハ君は工藤と村部を伴って帰ってきた。
「ファーレ大将閣下、何故我々ふたりをお呼びに?」
「工藤連隊長、そうかっかするな、人助けだ」
「人助け?」
「ほうほう」
工藤はむっつりと、村部は興味津々とした顔をした。
「この後踏みこむ工場にて必要な書類を捜す。そうしたらドラクル・ザーツウェルの病気も治る寸法よ」
「どの様な書類を捜すのですか?」
「この……」成分表を書かれた(フランシア作)書類を見せた。
「これと同じか近似値の書類と精製法の書類だ」
「分かりました。で、突入の時間は?」
村部が尋ねてきたら、丁度、連絡員がやって来た。
「こちらは準備出来ました」
「こちらも準備できた」
「では開始します」連絡員はそう言って信号弾を打ち上げた。
「さて、こちらも突入だ」
「段取りもなくぶっつけ本番ですか、人扱いの悪い人だなぁ」
「君らはアドリブ有りの方がよく働きそうだからな」
「あどりぶって何ですか?」
「即興という意味だ。さてお喋りは終いだ」
「ハ!」
さてさて、以前スティラに約束した『追う』を果たすぞ。
次回でスティラに約束した事が果たされます。幾話か進んだら次は戦争パートに入ります。