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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第5章 ロイド辺境伯、今日から明日へ、明日から未来へ
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第百十一話 ロイド、政務に追われる毎日を送る。そしてレティカの懐妊

 俺はひとつため息を吐いてペンを置いた。いくら何でも仕事が多すぎだ。そりゃそうだ地方都市の役所レベルで国政をする様なもんだからな。

 現在、人員は千人あまりだが、五千人は欲しい。しかし現状ではこれ以上増えたら食糧難になる。無論、食糧難にならない様、貨物の半分以上は食糧を手配している。

 陛下肝いりで豊富な補助金ありなのだが、毎日びっくりするほどの金が飛んでいく。元平凡な大学生の俺としては驚愕の日々だ。


 いやしかし、思えば遠くへ来たもんだ。転生して貴族になって両親の早すぎる死によって家督を継いだ。そして一年、なんとも展開が早くて吃驚だ。


 話しは変わるが北都の政庁のトップが決まった。

 アマデウス・デア・デプロールという恰幅の良い初老の男だ。彼の立場は行政執行代表代理だが、来月には代理の表記が消える。まあ簡単に言えば首相就任だな。

 ここで簡単に俺と彼の立場を説明すると、たとえば橋の建設の許可を出せるのは俺で、橋の改築の許可を出せるのが彼だ。まぁ小さな橋はアマデウス君でも建設の許可を出せるのだがね。

 逆に政庁の職員のあれこれには俺が口を出せない。

 ちなみに立憲主義だが民主主義ではない。市議は選挙で選ばれるが、それを俺が認可するのだ。見込みの無いヤツ、贈賄などしでかすヤツは当選しても弾かれる。つまり立憲専制主義(造語か?)という話しだ。そして専制ゆえに俺に対するリコールは出来ない決まりになっている。


 しかしそれはさておき、助かった。俺の仕事が百分の一に減ったからだ。これからの俺の仕事は事業の方向性を指ししめたり、軍(工兵隊)の仕事の割り振りだったり、大口の陳情を聞いたりするのだ。いや勿論雑多な仕事もあるけどね。何はともあれ仕事量が減ったのだ。まぁアマデウス君の方も面倒な案件をこっちに振るに決まっている。


 そうそう、どさくさに紛れ俺の考案した書式と判子制度と有給休暇制などを取り入れた。

 しかし問題もある。家令や婦長、乳母などの換えが効かない職掌の人々だ。乳母が複数居るのは不経済だしな。せいぜい二人までか……。

 どこまで行っても人員の適正化は難しい話しだ。こちらへ来て約三ヶ月たったがあまり上手くいっていない。

 さて、今日の業務も終いにしよう。本来なら残業もありなんだが、今日は体調がすぐれない。……宿痾か、ならば是非もない。だが、まだ上手くコントロール出来ていない。どうにかせねばならないのだが……。

 秘書官に体調がすぐれない事を告げ、馬車を用意させる。



 領主館に戻った。ロビーに入ったらなんとレティカが居た。彼女は俺を見るなり足を速めてこっちへ来た。何事か?


「ロイド聞いてくれ、妊娠したよ!」


「なに? いやめでたい!」そうか無事妊娠したか。


 近づいたレティカを抱きしめる。おっと、自重せねば、彼女は大公妃なのだ。

 案の定というか彼女は拗ねた顔をした。

 俺は小声で謝る。


「すまないレティカ、ここは他人ひとの目がある」


 レティカはこれみよがしにため息を吐いた。で目線を上げ俺の目をみる。


「はしゃいで済まなかった。領主代行殿」


 とんだ茶番だ。俺とレティカの仲を知らぬ者は居ないのだが……。しかし公的には大公妃と領主代行だからけじめを付けないといけない。

 しかし、無事に妊娠したか。後は男児を産んでくれたら良いのだがな。そうすれば俺もレティカもエリアスも幸せになる寸法だ。


「ところで、ロイド、何か疲れていない?」


「ちょっとね。例の微熱さ」


 これを聞き、レティカは眉を曇らせた。


「すまないロイド、僕が感染させたも同然だ」


 なに? 何故知っている?


「誰から聞いた?」


「……ドラクル・ザーツウェルからさ。彼女から感染経路を調べる為に色々質問されたよ」


「そうだ。感染経路が明確では無かったが、君が候補に上がったのは事実だ。

 ところで悪阻つわりの方はどうだい?」


「ああ、うん。少し気分が悪いけどその程度さ」


「プリンシペッサ、御身よく厭うように。では食事の時間にまた会おう」一礼して彼女から離れた。




 自室にてソファに体を預け、先の事を思い返していた。


(レティカの妊娠は慶事だ。だが産まれてくるのが女児であったなら?)その時は厄介だがエリアスを男児として押し通す。

(できれば男児を産んで欲しいな……)

 男児が産まれれば抱き上げて『この子の為に、より高みを目指そう』なんてやったりして。嘘です。余人に知れたら俺の地位と生命が危ない。なぜかって? 俺は今の地位のままで良い。より高みを目指すのは下克上に他ならない。そんなの御免だ。パロディネタは楽しいが自分の生命をチップにしてまでやりたい訳じゃない。




 その二日後、政務室に届けられた書類の多さに一瞬言葉が出なかった。


「……おいおい、なんだよこの量」


「はい、市民流入の増加により決裁すべき量が増えました。先週その書類に署名したのをお忘れで?」


「そうだった……」


 秘書官の冷静なツッコミに俺は愕然とするのであった。

いよいよ夏も近づきましたね。電気代が跳ね上がるのが憂鬱です。

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