第百八話 ロイド、新年会を催す・後編
なんとか月二話に成功しました。来月は無理っぽいかも(汗)
日付がかわる少し前、館の大食堂は賑わいをみせていた。
客は存分に酒を呑んで使用人らも業務の合間に一杯引っ掛けていた。そこらかしこで歌ったり踊っていたり、兎にも角にも無礼講だ。
こういう雰囲気は嫌いじゃない。だが客の中には好いていないヤツも混ざっている。例えば、いま俺と会話しているヤツとかな。
「すると君は一期造成に成功したから、引き続き二期造成も頭を務めたい訳だな?」
「は、自負する訳ではありませんが私以外に務まる者は居りますまいかと」
頭の中ですばやくソロバンを弾く。この男は俗物だが無能ではない。さもなければ会頭にはなれない。
気分的には嫌悪してるが、能力は問題ない。ならば任せるか。
「では貴様に采配をふるう事を許す」
「おお!」
「だが二期造成は一期と違い、その規模は格段に広い。同じ手法は使えぬぞ?」
ここで話題にあがっているのは、以前大都の郊外に造成地を造った話の続きだ。二期造成は大都より離れた場所に造る。単に離れているだけではない、大きく内部循環型の都市でもある。
ま、座長をしていたんだから大きなヘマはしないだろうよ。
「委細お任せあれ」
「うむ」
やりたい者がやれる能力をもってんだ。ならやらせりゃいい。
お、そろそろ日付が変わるぞ。
招待客も使用人らも大時計に注視している。
十…九…八…七…六…五…四…三…二…一、零。
ボーン、ボーン、ボーン。
「「「新年あけましておめでとう(ポージット・ヌイヤー)!」」」
そう言って皆が乾杯する。
お、除夜の鐘もなっている。
魔導蓄音機から景気の良い曲が流れており、優雅なステップで踊る者たち。ひたすら酒と豪勢な食事を楽しむ者たち。中には今年の経済指数を熱く語る者もいた。
俺はホストだから聞いたり語ったり、乾杯の酒盃を傾けたりと忙しい。
余談だが、ポージットと言うのは乾杯を意味してるが、どちらかと言えば健康を祈ると言う意味がある。ただの乾杯はポーストだ。
そういや銀河で英雄な伝説では『プロージット』と乾杯の音頭をとっていたが訛っているうえに健康を祈るだから笑える。あの作者、中国語は堪能なのにドイツ語はそうでもないのな。フォイヤーをファイエルと間違えているし。
しかし失敗した。
……乾杯のペースが合わず、俺は少々悪酔いをしてしまった様だった。ウップス、気持ちが悪い。
義務感で居座っているが、こりゃマーライオン一直線かもな。……醜態晒すまえに退却すべきだな。
よっと立ち上がる。いかん視界がグラグラしている。
「なにかお取りしましょうか?」側にいた給仕服の執事が声をかけてきた。
「悪酔いしたようだ」
「ば、バケツを用意しましょうか?」
「……ここで醜態をさらせん。少し早いが部屋に戻る」
「わかりました、何人か付けましょう」
俺は頷き広間を一巡した。
「諸君、どうも悪酔いしたようだ。醜態を晒すまえに退席するよ。君らも無理をしない程度に呑んで騒いでくれ」
「旦那様、明日もあるのでゆっくり休んでください」オリガ夫人が代表するように告げた。
「うい〜承知した」
かろうじて返事を返したが限界である。世界が回る。
左右二人に囲まれ大食堂をでる。
問題は三階まで登れるかだ。
それからは難行苦行だった。一段登っては酒臭い息を吐き、五段登っては一休みしの繰り返しだった。正直ギブアップしたかったが俺にもプライドがある。途中棄権はありえなかった。
どうにか自室に戻った俺は着替えもせずにベッドにダイブした。ホントは一度吐いた方が楽になるのだが、吐くという行為が苦手なんだ。
「坊っちゃま、お着替えなさいませ」
「……ユージーン、もう動けません。おやすみ」
ユージーンが何か小言を言っているようだが俺の聴覚は閉店だ。そこで意識を失った。
朝、目が覚めたら寝間着に着替えていた。俺は着替えた覚えがない。となれば誰かが着替えさせた訳だ。昨夜この部屋に控えていたのはユージーンだけだった。
この巨体から衣服を剥ぎ取り、新しく寝間着に着替えさせんだから相当な重労働だ。苦労かけたな。
まあそんな事より新年会だ。若干熱があるが、まぁこれくらいは許容範囲だ。
「おはよう兄さん、あけましておめでとうございます」
俺の側で寝ていたイライジャが起き出して新年の挨拶をしてきた。……いつも思うのだが、この児はいつ入ってきて俺の起床に合わせれるのだろうか?
しかも“先客”がいれば現れない。いったい何を考えているのか分からん。
「あけましておめでとうイライジャ。今日は苦労をかけるが我慢してくれ」
「うん」
苦労云々は今日のイライジャは俺の妻の役を演じてもらうからだ。館の使用人らにばバレているが招待客には知られても困る。
二人して食事を取り、正装に着替える。
良し、準備は万端だ。
「では行こうかアーデルハイト」
「はい、旦那様」
館の隣に併設してある多目的会館へ入る。
会館は満席だ。
「皆の衆、新年あけましておめでとう!」
「「「あけましておめでとうございます」」」
手を振りつつ舞台の正面の席に付く。過剰警備かもしれないが、俺とイライジャの左右と後ろは空席でその周りを警備スタッフ(執事、軍、警察)が囲っている。
これくらいせねばならないとは俺もほとほと有名人だな。
「皆さん明けましておめでとう御座います」
司会が挨拶を始めた。
この会は昨夜のそれよりランクが一等低く、招待客は公募で選ばれた市民も入っている。それ故、警備はいちランク上がっている。
見世物の題目が渡された。
最初はうちの女中達によるフレンチカンカンだ。
「さぁ、まずは御当家の女中有志によるカンカンです!」
その声に合わせ、派手な飾り付けの衣装を付けた女中達が現れた。顔ぶれは派閥でもあるのか雑役女中に洗濯女中、台所女中だった。
意外やコーラスラインも高いレベルで合わせていた。
ダンスが終わり、拍手に溢れた。ここでは採点システムは無い。俺としてもそれで良いと思う。
その後も演目は続いている。歌に手品、変わったところで組体操なんてのもあった。
辻漫才が終われば次は少女歌劇団の出番だった。二微(六分)がそれぞれに与えられている時間なので何をするのかと思っていた。……合唱らしい。曲目は『ありのままに』だ。
日本のアニメ『夢のクレヨン○国』のエンディングテーマであり、帝国でも人気の高い歌だったりする。合唱用にアレンジをかえている。
拍手拍手拍手の嵐だ。第一歌手を務めるレオノーラの可憐さと相まって拍手せずにはいられない。
さてトリはうちの執事を中心とした曲でジンギスカンの『モス○ワ』だ。この歌も人気が高い。
魔王(笑)役をグレッグが務める。黒も蛾次郎も禿もよく合わせているな。
……女性二人は客間女中からだ。うん、よく似合っている。
曲が始まった。出だしは好調。グレッグ魔王、脚が長いから絵になるな。禿は禿らしくダンスに失敗している。いや予定通りか。
フリーダムな魔王に陽気な仲間。良い。実に良い。グレッグはダンサーになっていても大成したかもな。
『モスクワ、モスクワ…………アハハ、ヘイッ!』会場も大盛り上がりだ。『モス○ワ』マジ超ウケ。
だが新年会はこれで終わりだ。名残り惜しいがここまでだ。……さて、幕引きをするか。
壇上に上がり、マイクを受け取る。
「新年会に集まった皆の衆、芸はこれで終いだ。今日の良き日に集まってくれてありがとう。
今年は昨年よりもより良いいち年にしたいと念ずる。最後にもう一度、ポージット・ヌイヤー!」
「「「ポージット・ヌイヤー!」」」
さぁて今年は忙しいぞ。
アーデルハイト≒イライジャを伴って館に戻った。そして北都より招喚しておいた念話者のニコラス・ベルノを呼び出した。
あまり待たせず彼はやって来た。
「回線は空いてます」
「相変わらず話が早い。アレックスにひと言『ポージット・ヌイヤー』だ」
「はい」ニコラスは虚空に向ってひと言ふた言呟いた。
「返信『ポージット・ヌイヤー、我が親友。来月の頭にでも顔を出してくれ』です」
「貴信受信、了解」
「ヤー……送信完了」
「ありがとう、下がって良し」
「ヤー」
しかし念話者とは実に便利だな。そりゃあ携帯電話やスマホに比べると段違いだが、比べる事がおかしい。
それよりも来月の頭にか、……軍絡みだな。できれば遠慮したいが、はてさてどうなる事やら。俺は北都の面倒も見なきゃならんから忙しいのに……。
ブルーライトカット入りレンズの眼鏡買ったはいいが、フレームに問題があり使用には注意が必要……。