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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第5章 ロイド辺境伯、今日から明日へ、明日から未来へ
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第百六話 ロイド、新年会の準備をさせる

 日付は年末を示しており、幾分浮ついた雰囲気を醸し出している。

 この世界に日本式の忘年会は無いが(やるヤツは一定数いる)その分新年会は賑やかにやるのが一般的だ。一般家庭でも相当に騒ぐので、領主としてはそれ以上に騒ぐべきである。

 そうした次第で宴席で芸を披露する者は、空いてある時間を芸に磨きをかけてある。また執事らで構成してある楽団も楽曲の練習に余念がない。

 今回一番の注目株はグレッグを中心とする楽団で演目は(勿論内緒なのだがいくらでもバレる)ジンギスカンのモスクワだ。グレッグが魔王らしい。あの独特の役をやるのだから相当に気合いが入っている。

 ジンギスカン(グループ名)のジンギスカン(曲名)とモスクワ(曲名)は、この世界ではメジャーな曲で人気が高い。基本の五人組バージョンとは別に七人や八人、はては十人組で賑やかにやる者も多い。


 その他、何人も隠し芸の披露のための練習をしている。

 俺? 俺は主催者側で見ているだけだ。ぶっちゃけ、ジンギスカンには乱入したいくらいだが、楽しい輪の中に乱入するのは白けるからな。


 そんな事を考えながら書類にサインし、判子を押す作業を繰り返している。

 ……にしても、本年度の経済指数は緩やかに上昇したな。まあ劇的に上がるとは思っていなかったが、予想と変わらない上昇率だったな。だが来年はこうは行かないぜ。領内上昇率六部八厘は達成させてやる。その他の経済指数も上昇だ。まだまだ満足な数字でないが、潜在的に上昇傾向にある。

 戦略物資である代用ゴムは領内でも栽培方法が確率されたし、再来年あたりにはある程度の収穫は見込める。北都も開放されたし、物資の輸送率も跳ね上がる。イケイケだな。うん。


 ……そう言えば、そろそろスティラが帰還するな。ダーサの死骸から有益な情報を掴めるかだが、俺はあまり期待していない。だがスティラなら千匹調べて千の違いが分かる天才だ。なら何かを掴めるやも知れぬな。


 そんな事をつらつらと考えていたら昼過ぎにスティラが帰ってきた。

 応接室に通せと伝える。


 久しぶりに見るドラクルは少し痩せて見えた。だが相変わらず右眼はぎょろぎょろとあちこちを見ている。


「任務完了苦労であった」まずは労う。


「お前様…あ〜違う、大将閣下、報告があります」


「……うかがおう。それと俺貴様の仲だ、ですますは必要ない」


 ソファを指し示し、俺は対面に座る。


「女王ダーサは…あの場にいた女王ダーサは偽物だった」


「確証はあるのか?」


「女王ダーサは二種類存在する。……そうだな、母体ダーサとでも言おうか。連中いち個体に付き一種類しか『生産』しない。つまり通常型ダーサには専用の母体ダーサがいるし、銃兵型ダーサならやはり専用の母体ダーサがいる」


 そこまで言ってテーブルの上に備え付けられている煙草容れから、一本の葉巻を取り出し火をつけた。


「久しぶりの葉巻だ。うん美味い」


「(せめて断わってからにしろよ)そいつは良かったな」


 忙しなく葉巻を吸ってから(違うだろ、ゆっくり吸えよ)吸い殻を灰皿にぐしぐしと押し付けた。


「今のは仮定でも概念でもない。私が遺骸を調べるだけ調べた結果だ」


「十や二十じゃないな」


「千百二十七匹調べた。これくらいあれば調査に値するだろ?」


 素直に頷いておく。千百か、頑張ってくれたな。


「あと確実なのはダーサどもの『心臓』だ」


「心臓、あったのか」


「腑分けの大半が謎器官だ。だがわかった部分もある。それが心臓だった。

 通常型、銃兵型には拳大、母体型でその三倍。軽石の様な外観で実際軽い。ただこれは死骸に共通したやつで、死にぞこないのやつのは液体の様なモノが充満してあった」


「それのどこが心臓なんだ?」


「仮定だがね、その液体が燃料じゃないかと思ったからだ。死骸には無く、生きている個体に入っていたからでもある」


「電池みたいなものか」


「そうだ」


「……で話を戻すが、母体型と女王型の違いは、宿している幼生体が違う事か」


「そうだ。母体型の役割が各種ダーサの繁殖ならば女王ダーサは母体型を産みだす事に特化するはずだからな。

 これを裏付けるのに、幼生体は子宮房だけでなく、母体にも幼生体が何体かいる。それが発見された女王ダーサの胎内と子宮房のものとは違っていた。これが根拠だ。

 ま、詳しくは報告書をよんでくれ」


「わかった、苦労。夜の宴席まで休め」


「宴席? ああ年末だからな。ところでこの事実は発表しないのか?」


「出来ることは無いさ。所謂、政治的配慮だ。大体だな、それを発表すればせっかくの北都解放に水を差す」


「……わかった。黙っておく。

 では失礼するよ、おやすみ」


「ああ、いい夢でも見ろよ」




 忘年会が行われないのは先に述べた。しかし地味ながら夜会は存在する。除夜の鐘を聞き精霊に感謝し、年越しのカウントダウンを計るのだ。

 この夜会の特色は旧年の挨拶をしない事だ。終わった事は気にしない方針は未だに馴染めんが、まあそういう文化だと割り切れば楽だ。


 年が明ければ「新年明けましてお目出とう(ポージット・ヌイヤー)」と乾杯する。某銀河で英雄の伝説ではやたらと『プロージット』と連呼していたが『ポージット』の方が正確である。それが耳に残ってたから矯正するのに時間がかかった。

 

 それから夜通しで新年会だ。こちらは大人の新年会で、良い子のみんなはおやすみの時間である。

 大人達の宴会は基本、酒を呑むのに尽きる。呑んで談笑がメインだ。宴会芸は年明けの昼前からである。楽団で演奏したり、隠し芸だったりは領主館の横のコミュニティホールでやる。

 なんでかと言うと、領主ともなれば招待客の応対で忙しいからだ。それにプラスして宴会芸の鑑賞もある。宴会芸は俺に向けてだからパスは出来ない。新年なのにやたらと忙しい話だ。ま、これも公務と割り切れば良い。

 さてちょっと仮眠でもするか。微熱もあるし体調管理も大切だからな。

前回の後書きでも書いたとおり、ブルーライトのせいで執筆が遅れます。十分もモニターを見れば涙でボロボロなんですよ。

可能な限り月二話を提供させてもらいますが、遅れたら申し訳ありません。

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