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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第4章 ロイド辺境伯、異界戦役2nd Season
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第九十九話 工藤涼子、異界戦役を終わらせる

「工藤連隊長、次で第五層の四の間です」


 私は頷いた。


「連隊、索敵前進」


 この三の間は酷かった。広間に入った瞬間に四方八方からダーサ共が襲って来たのだった。

 通常型のヤツから三人、銃兵型から二人、負傷者が出た。

 すぐに後送したが護衛含めて十二人が減ったのは地味に痛い。だが護衛なしで送り返す訳にもいかない。まあ仕方ないか……。

 ダーサには弱点らしい弱点はなかった。弾の一発で倒れるモノも居るが、二三発いれて倒れるモノも少なくない。魔法での攻撃にも耐性がないのか、当たれば効果は高いが氷系魔法は役に立たなかった。


 四の間に入った。


「全周接敵!!」


「攻撃開始! 焦るなよ!」


「了解! 撃て撃て撃て!」


 今接敵した分隊は通常装備の隊だった。薬莢のない弾だがこの小銃はボルトアクション式だ。利点だといえば利点だが、それでも単発だから一発ごとに弾を入れねばならない点はそれほど有利ではない。

 連発式小銃の試射を行なった村部が後でその性能に苦言を呈したのは『連発の際に生じる動作不良ジャムが見過ごせないから』であった。後、集弾に難があるそうだ。

 その意味で単発式小銃は使い勝手がいいらしい。私は小銃に頼らないので小銃のメリットもデメリットもわからないが。


 ふいに村部がやって来た。


「我が方が優勢です……」


「何だ? 歯切れが悪いな」


「ハ、ただこれは戦闘ではなく『作業』の部類なのでいまいち集中力に難があります」


「『作業』か、確かに作業だ……」


「連中の戦術プロトコルは相当に簡略化しているものと判断しています」


「簡略化か」


「はい、まず間違いないかと」


「戦略的には?」


「それはまだ判断出来る材料がありません」


「分かった、ま、どの道殲滅するのだがな」


「はい。ところで話を戻しますが、単なる作業なので士気が下がっています」


「なら暫らくの間、私が前に出て戦おう」


「それも考えたのですが……」


「なんだ?」


「別に戦う必要はないかと。最前線で鼓舞が良いかと思います」


「何故だ、私が前に出て戦った方が効率は良いではないか?」


「……連隊長が強いのは承知していますが、なにも前線で戦う必要は無いのです」


「指揮に専念しろと?」


「もちろんです。ですが敵の親玉は連隊長が倒した方が内外のウケは高いです」


 村部は冗談を言っている訳ではなかった様だ。冗談ではないとしたら……。


「私が倒した方が私の株が上がるからか?」 


「有りていに言えばそうです」


「本音で話せ」


「……貴女が倒した方が後々、我々に価値が付帯します。またのちに政治的にポイントが入るからです」


「政治的に?」


「敵の親玉を倒した武者もののふとして取り上げられ名声を得ます。ならば今後、簡単に使い潰されない様になります」


「……簡単に言えば『生き残りたい』訳だな?」


「そうです。我が領主殿は利に敏い方ですから上手く勝利すれば我々を便利使いはしても使い潰す事は無いでしょう」


「貴様の存念は理解した。反対する理由はないな」


「ありがとうございます。あ、それと敵の銃兵型ダーサにはくれぐれも注意して下さい。連隊長が負傷しては問題です。その場合、我々の価値は下落しますから」


 私は鼻で笑った。


「フ、そうならない様に注意はするさ」


「ではお気をつけて」村部はサッと敬礼した。私も答礼で返す。


「工藤、前に出る!」




 一時間後、ようやく敵中枢と思われる場所に出る事ができた。

 ここはなだらかな盆地状となっており、その中心には巨大な子宮房を持った女王ダーサが鎮座していたのだった。


 アレが女王ダーサか……。

 この盆地にはまだ二百匹はいる。私の魔法でもその数を打ち倒せは出来ない。


「総員、くさび形陣形をとれ。私が穴を開ける」


 本来なら戦略的魔法を使いたかったが、残念ながら存分に振るえる広さが足りなかった。

 仕方ない、広域魔法を使うか……。

 

 私はひと呼吸おいて口を開く。ここは魔破斬魔・破山だ。


「魔破斬魔・破山! ……総員続け!」


 魔破斬魔・破山で十数匹のダーサが切り刻まれた。ここを起点に全員で切り込む。さあ付いてこい!


 先ずは六個分隊ほどで攻撃を開始する。この分隊の大半が魔法を使える。

 彼らは次々に魔法を繰り出しダーサ共を打ち倒す。


「魔破斬魔!!」


 魔破斬魔は広域型なので今の状況なら打って付けだ。

 私の魔法でさらに戦線を広める。女王ダーサまで半分を切った。しかし連中はよく動く。ある種の狂騒状態なのだろうか?

 混戦状態になりかけている。これは拙い。


「総員、冷静になれ! 目の前の敵を確実に仕留めろ!」


 怒鳴るように指示をだす。

  

 ……効果は出たようだ。各員が冷静に捌き始めた。

 さあ大詰めだ。私は魔法を範囲型から個別型に切り替える。まだ魔力は余裕がある。

 

 私以外の魔法を使う隊員は魔力切れを起こし始めた。すかさず村部が小銃班員に切り替えていく指示をだした。


 私の周りはダーサの死骸だらけだ。それらを乗り越え前進する。あと十メートルを切った。


「突刃! 突刃! 突刃!」消費魔力の少ない単体用攻撃魔法を放つ。今はただ前進有るのみだ。




 漸く女王ダーサの前まで来た。見た目には戦闘はできなそうだ。では直ぐに処理してしまおう。


「魔破!」


 ……女王ダーサは切り刻まれた。……後は残ったダーサの殲滅だ。


「総員、敵を殲滅せよ!!」


「「「了解!」」」


 隊員達は残党共を追い詰めていく。小銃に魔法、中には銃剣道を学んだ者が着剣してダーサに切りかかっていった。


 一匹一匹と『処理』されていく。まさしく『作業』に他ならない。


 それから十分後、全てのダーサ共は倒された。


「報告します! 全敵の掃討が完了しました!」


「分かった」


「工藤連隊長、よろしいですか?」


「何だ村部一尉?」


「女王ダーサの死骸の後ろに小さな穴がありました」


「中は何だ、確認しろ」


「ハ!」


 まさか脱出路か?


 一、ニ分後確認しに行った村部が戻ってきた。


「報告します。地下水路がありました」


「地下水路?」


「はい。なお地面にはダーサの足跡が残されていました」


「殲滅しきれなかったか……」


「連隊長、地下水路はダーサにとって何らかの理由があって使用していたともとれます」


「逃げた、と言う可能性と逃げる間も無かったと言う可能性もある訳だ」


「はい、ですが女王ダーサは連隊長が打ち取りましたから」


 私はひと呼吸おいて周りを見渡した。


「非戦闘型のダーサもいるな。そこのヤツも子宮房の大きさ以外は女王ダーサと変わりがないじゃないか。

 村部、そこから推論できるのは何だ?」


 村部は考え込む仕草をみせた。


 少し間をおいて彼は私に視線を合わせた。


「この仮称、小女王ダーサの群れから優秀なのが女王ダーサになった可能性があります」


「なるほどな、ま、それは学者先生に任せるか」


「はい」


「よろしい、では地上に帰還する。村部、誰か足の速いヤツを選んで一足先に大将殿に報告させろ。我々は見残しがないかを確認して地上に戻る」


「了解しました。……渡辺三尉、一足先に地上に戻り任務の完了を知らせろ」


 渡辺三尉か、確かに足が速かったな。


 渡辺三尉は『了解しました!』と言って走りだした。


 私はもう一度辺りを見渡した。……ここは最終の広間であってるな。


「隊伍を組め、地上に帰還する。索敵前進!」





「……以上、女王ダーサの退治を完了しました」


 地上に戻り、ファーレ大将に任務の完了を報告した。


「貴官の任務完了を受領した。良くやった。

 皆の者! 我々の任務はここで終了した。この後戦場清掃をして大公御嫡男エリアス様を奉じて北都に帰還する。大義であった。奉賀三唱!」


「「「奉賀、奉賀、奉賀!」」」


 場は熱狂に包まれた。

 心地の良い疲労感と共に私はようやく異界戦役が終わるのを感じた。


新年明けましておめでとうございます。

本来なら昨年中には異界戦役は終わったのでしたが……まあ仕方なかったかと。

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