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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第4章 ロイド辺境伯、異界戦役2nd Season
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第九十八話 ロイド、決戦の地に立つⅢ & 工藤涼子、出撃す

ロイドパートと工藤パートが混ざってしまい、自分の力量のなさに情けなさでいっぱいです。

 対ダーサ戦もいよいよ終盤だ。ちまちまだが確実にダーサの数を削っていく。今日あたりで残り千だろう。


「コレット君、ダーサの討伐数はどうなっているかね?」


 俺の側に座っているコレットに尋ねた。


「……はい、残り千と少々です」


「よろしい。では作戦最終段階に入る」


 周囲の幕僚達を一巡する。その中に交じっている工藤涼子に目を合わせた。


「工藤特務連隊に命令する。ダーサ共の巣穴に突入し、敵を殲滅せよ」


「ハ、工藤特務連隊、敵を殲滅掃討して参ります」


 工藤は敬礼すると風のように走りだした。無理するなと言おうとしたがその言葉は出なかった。


「これで終わると楽でよいのだがな」


 誰に伝えたい訳でもなかったのだが、つい口に出してしまった。


「そうですな、彼女らの力量は知っていますが楽観は出来ませんから」


「スミカワ准将、それでも期待したいのだ。ああそれと忘れていたが臼砲と曲射砲の砲撃は中止だ」


「ハ。おい、臼砲と曲射砲の砲撃は一時中止しろ。ダーサが出てきた場合は平射砲と銃兵で対処せよ」


 スミカワ准将の言葉を復唱した伝令兵が本部陣地より出ていった。


 やがて全ての火砲の砲撃音が途絶えた。


「工藤特務連隊、巣穴に突入します」観測員が報告してくる。俺は軽く頷いてそれに応えた。





「これより我が特務連隊は敵巣穴に突入し、これを殲滅する!」


 私の言葉に隊員たちは歓声を上げた。意気軒昂良し。


「続け!」私は駆け出す。目標七百メートル先の巣穴の入り口だ。


 幸いに出入り口まで敵は出てこなかった。


「突入!」


 地下一層に入った。さて本番だ。


「灯りを」


「ハ!」


 残念ながら私の隊には灯りを点す魔法を使える者が居ない。あの太った総司令殿からライトの魔法を使える兵を借りてきたのだった。


 ライトの魔法で周囲は明るくなった。これで楽に動ける。


 この地下は地下迷宮の類ではない。少なくとも地下一層は広間、トンネル、広間だけだ。

 この広間には敵はいなかった。なら前進あるのみだ。


「索敵体制を組め、前進する」


 先頭は即応性の高い魔法を使える隊員を配し、横隊を組ませた。私は列のやや真ん中に入る。


「連隊横隊、前進」命令を下す。


「「「「ハ!」」」」


 広間を抜けトンネル部にはいる。トンネルは横隊が楽に展開できる範囲がある。


 五分ほど進む。

 次の広間に入った。


「敵発見! 数……二十。掃討します! 状況開始」


 最前列にいる渡辺三尉が声を上げた。事前の打ち合わせで自動的に戦闘に入る。


「スラッシュ!」「斬!」「……!」


 様々な魔法が飛び出した。


「状況終了。敵は排除しました」ものの三十秒で最初の戦闘は終わった。だがまだ初戦だ。残りはまだ千は居るのだから。


「いや、後続を確認、状況再開」


「少し押し出せ、三分隊で対処せよ」


「了解」


 戦闘範囲を広げる必要があった。三分隊もあれば十分だろう。


「最後尾、索敵を疎かにするな」無いと思うが最後尾の分隊にも命令をくだした。


三度みたび接触、掃討します」


「無茶はするな、五分後、第四、五、六分隊前へ。交代したら最後尾へまわれ」


 幸いにもかどうか判断に迷うがダーサ共の攻撃は単なる力押しにすぎない、従ってこちらも力押しで対処しかないのだ。今のところ、はだが……。


「村部、何層あるか判断出来るか?」


「ハ、ダーサの体格と数から判断して…、最低でも三層。最大でも十層はありません」


「ここで千は削れないか」


「この広間で片付けてながらでも二百匹が限度です」 


「なあ村部、我々はずいぶんと遠くに来たな」


「なんですか急に。……ま、確かに遠くに来ましたね」


「今は日本語だけども帝国公用語で話すのも普通になったしな」


「ええ、隊員のほとんどが帝国公用語に慣れました」村部は僅かに苦笑した。


「慣れた…か。ほんとうに遠くに来た。おい一分隊から三分隊、後方にまわれ!」


「了解!」



 十五分もすればダーサの死骸が邪魔になってきた。


「前にいる分隊、退避する際にダーサ共の死骸を退かせ。ああ、壁にするんだ」


 戦場清掃の間は攻撃を控えてもらいたいものだが、相手はお構いなしにやって来るだろう。対策らしい対策が立てられないのが悔しい。


「敵、来ます!」


「射撃線を中央に指向!」


「了解!!」


 今は魔法使いと一般隊員を別にしているが、混在させるのもアリだな。村部はなんと言うか? メリットが無いとでも言うのか。

 しかし我々の装備を返してもらえないだろうか? さすがに八十九式と単発式小銃では攻撃力が違いすぎる。

 いや、確かに補給の件は無視できない。それはわかっている。しかしこの戦いだけに言えば旧装備の方がマシだ。


 ああ、これは単なる愚痴だ。いま文句をたれても意味がない。

 さて頭を切り替えよう。私もウォーミングアップしたいな。


「第三、四、五分隊、交代だ。私が出る!」


「連隊長!?」


「村部、私もウォーミングアップしておきたいのだ。だから出る」


「……三交戦までですよ?」


「分かった。よし交代する!」


「御武運を!」


 村部の声を背に私は前に出る。

 ちょうど前から十数匹のダーサが迫って来るのが見えた。


「……魔破斬!」腕を振るう。私の得意な風系の魔法だ。


 この一撃で迫ってきたダーサ共を打ち倒す。


「良し」だがこの程度ではウォーミングアップにもならない。


 次の相手は少し間が空いた。

 次も十数匹の少数団だった。やはり魔破斬で始末する。


「連隊長、次で終わりにして下さいよ!」


「分かっている」やれやれ村部は心配性だ。私は小さく笑う。


 三交戦目が終わり、私は後退した。しかしこれではウォーミングアップにもならない。だが約束だからな、仕方ない。


「第七、八、九分隊前に!」


「……物足りなさでいっぱいって顔してますよ」村部が苦笑していた。


「村部、実際物足りない」


「まだ初戦です、我慢してください」


「分かったよ」


 まだ始まったばかりだ。気を張っても仕方ないか。

 私は灯りの届かないトンネルに目をやった。そういえばダーサは気配も薄いな。他の動物と比べてどうなのだろうか……。

 ふん、らちもない。ダーサはダーサだ。気配が薄かろうが全てを殲滅するまでだ。

本年、ありがとう御座いました。来年もよろしくお願いします。


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