第九十五話 ロイド、コレットの能力を存分に使う
コレットと工藤のセットは上手く作用しているようだった。共に人的被害は出ていなかった。
夕方、彼女らは本部に帰還してきた。
「おかえり、ずいぶんと激しそうだったろうね」
「ロイド様、やはりダーサの女王種はこの近辺には居ませんでした」
「苦労。では捜索範囲を広げるか」
「そうですね。見つかった女王種は劣化型でしたから、捜索範囲を広げて見るのも良いですね」
「そーいや、劣化型とはずいぶんと違うのかい?」
コレットは頷いた。
「形はあまり変わりませんが、子宮房の大きさが全然違います」
「あまり変わらないのか」
「細やかな違いはありますが、見た目そう違いはありません」
「ふ〜ん。…工藤!」
「何でしょうか閣下」
「ダーサ共は与し易かったか?」
「はい、相手が積極的に出る前に攻撃は届きますから」
「よろしい。報告書は明日の昼までに仕上げれば構わない、今日はゆっくり休め」
「はい、ありがとうございますロイド様」
「ハ、感謝いたします閣下」
コレットは一礼、工藤は敬礼をして本部を出ていった。
彼女らを見やりながら幕僚のひとりが口を開いた。
「お告げに攻撃魔法ですか、この組み合わせはすざましいですな」
「俺としては『神』のお告げが信じられんよ」
「そうですな。しかしこれは精霊様のいち形態と見るべきでは?」
「いいや、違いがありすぎる。第一精霊様はお告げを言い渡さない。それとも君はそんな話しは聞いた事があるかね?」
「いいえ、ありません」
「だよな。しかしそれなら『神』の意図するところは何だろうか?」
「意図、ですか?」
「コレット君にただ付き合って来たのか、宗教的に何らかの意図をもって参加してきたのか。
前者なら有り難くうけとるが、後者ならなんらかの供物なりが必要となる。あるいは『信仰心』の要求かもな」
「自分は典型的な機会主義者ですから『信仰心』の接収はごめんですな」
「俺もそうさ。だが何が知らの対価は払わねばな」
さて、どうしたものやら……。
翌、昼前。コレットの提出した書類を見ながら彼女に言った。
「コレット君、きみには礼の言葉もないが、何もしない訳にもいかない。そこで俺からは何をすべきか教えて貰えんかね?」
「どう、とは?」
「この世界では精霊信仰が一般的だ。だが、特定の『神』を信奉する者もいる。宗教の勧誘は害悪ではないがあまり褒められたものでもない。
それを踏まえて君の『神』の拠り所を建立しても良いのかと思ってな」
「……では礼拝堂を設けて下さる事ですか?」
「そうだ礼拝堂だ、手配しよう。……これで君の去就は決まったな」
「はい、この地にて自分の信仰を守ります…ですが」
「何かね?」
「ロイド様が良ければ、私はロイド様の元にも居たいのです」
「何故に?」愛の告白? いやさすがに違うか。
「ガブリエル様のお告げです」
「具体的には?」
「必要な時、必要であるように、です」
「ダーサの残党が現れるとでも?」
「それもあります。
今現在ダーサ討伐に軍は動いています。このままでもダーサの大半は殲滅できます。ですがその脅威は殲滅しきれません」
「君自身が警鐘を鳴らせばいい」
「勿論です。ですが私個人では軍は動かせません」
「君の発言を無下にしないよう通達しておこう」
「残念ながらロイド様の発言は日が経てば軽んじられましょう」
「警報機たる君でも職務は果たせないか……」失礼な話だが仕方ないな。
「私は大天使ガブリエル様の御使いですが、ダーサ討伐の警報機ではありませんよ」
「これは失礼した」ではどうしようか……。
「……では月に何日かは北都に居て、のこりは俺の元へ来るかね?」
「それで構いません」
対ダーサ要員に付け加えねばな。あとは工藤か。
「工藤、どうするかね、連隊率いて北都に駐屯するか?」
「……連隊は配置を組んで持ち回りにしたいとかんがえます。基地は閣下の館の下にありますから」
「そうか……君らの意見を無下にはできない。側にいればいいさ。それとコレット君、俺は俺の主義主張でうごく。大天使ガブリエル様とやらもその範囲から逸脱はしないぞ」
「構いません」
「君は使徒だろう? そんな扱いで構わないのかね?」
「確かに私は使徒ですが、神の御心まではうかがいしれませんので」
大天使ガブリエルか、何を考えている? 信仰心の無さは一流の俺だと知っていてもおかしくない。それとも昨今の神々は無償で奉仕するのが流行りなのか?
まあいい、便利使いして罰があたるまでは好きにさせてもらう。
コレットもだが、工藤の性根がわからない。この女は見かけ以上に腹に何かを飼っている。当面は好きにさせるがどこかで首に鈴を付けねばな。
大机に北都を中心にした大地図を広げた。さてコレットの能力はどこまで使えるか?
「コレット君、これが今ある最大の地図だ。この範囲でダーサの本拠地は分かるかね?」
「…少々お待ちください」半眼に目を据えた彼女は地図の上に手を滑らせる。
しばらくなぞると地図の端で手を止めた。
「……ここに大量の…万単位でダーサが集まって居ます。……この大きさは…女王ダーサです。それと見た事のないダーサが交じっています」
「この期に及んで新型か」
「それだけ切羽つまっているのでは?」
「なるほど、工藤はそう思うか。
それで敵さんは万単位もまだ居るのか」
「強襲をかけるべきです閣下」
「強襲か……」
「軍一般では内部に侵入するのは難しいです。それなれば是非とも特務連隊を使ってください」
「工藤、いくらなんでも万単位の集団に攻撃を仕掛けるのは厳しいんじゃないか?」
「厳しいといえば厳しいですが不可能ではありません」
言い切る工藤に眉をひそめた。
「いや、やはり軍を動かし通常の攻撃を仕掛けるべきだ。それから浸透戦術で工藤らが内部に侵入する」
連中は振動を感知して行動をおこす、地上なら主力を抑えられるし、数も把握しやすい。工藤ら戦闘魔術集団もその方が動きやすかろう。
「よし決めた。コレット君、きみは敵主力の動向を探れ。工藤は敵主力の打破にあわせ内部に侵入。女王ダーサを討ち取れ」
「了解です」
「ハ、承知しました」
「苦労をかけるが対ダーサ戦はこれを持って終わりにしたい。無論、今後も残党が出るであろうが主力の壊滅が一番だ。
さて、ではコレット君、敵主力を詳しく探ってくれないか? 戦務幕僚、作戦幕僚、情報幕僚集合!」
各幕僚が集まる。俺はコレットの能力を力説し、工藤らの能力を説明した。反感はあろうが既に実証している。どうにか反感を抑え、作戦案を実行に移すべく話を持っていった。
しかし、神か、そんなもんに頼るのは健全たる男子には忸怩たるものがある。自分らで研究、解明してはじめて実積足りうるのだ。神にあやかるなんて前時代的だ。くそが。
まあいい、精々利用させてもらうさ。
ロイドは科学至上主義でもありませんし、神の存在も否定的です。
ただ精霊は(なんとなく)信奉しています。まあ機会主義ですね。