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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第4章 ロイド辺境伯、異界戦役2nd Season
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第九十二話 ロイド、年長四人組にちょっと偉そうな口をきく

 レティカの出産は無事に済んだ。残念ながら女児ではあったが健康な赤ん坊だ。これからが難儀だが、まぁなるようになるさ。

 ……しかし、本当にこれで良かったのか?


 俺はひとつ溜息をつき、サインした書類を決算済の箱に置いた。

 次の書類はサインと判子が必要だ。

 内容を確かめサインする。そして書類に必要な判子を順に押していく。

 もう一度確かめ、決算済の箱に置いた。


 書類には決まったサインと判子がある。サインは従来通りだが、判子は俺の改革プランのひとつである。

 書式に従った判子も以前からあったのだが、そこにひと工夫する。


 書式Aには①と②の判子、書式Bには②③、書式Cには①③、書式Dには①②③という風に押す判子を決める。一見無駄にも見えるが、偽造書類が出来にくいという利点があるのだ。

 少なくとも係長以上や執事以上の人間には徹底してある。平社員や執事補佐には伝えていない。彼らには偽造書類を作る者と作らない者とのバッファになってもらう。

 念の為、あえて間違った書類を作り配布した事もある。

 そしたら、見事にその書類が帰ってきた。この抜き打ちチェックは今後も定期的に行なう予定だ。


 さて次の……って、もう無いじゃん。


「ロイド様、今日の書類はもう終いです」執事のひとりがそう告げた。


「今日は少なかったな」


 山盛りの書類というのは実はあまり無い。つーか山盛りの時点で山盛りにした責任者の怠惰が伺えるのだ。なぜならよほどの事(決算期)がない限り俺の元に書類の束なんて来ない。

 もし俺に漫画みたいな書類の山が来るのなら、それは俺に上げる書類を整理する担当官のせいである。ちょっと目端きくのならちゃんと書類を選ぶ。


 まあこういう日もあるか。

 ここで俺が『ちょっと仕事手伝おうか?』などと言ってはいけない。なぜなら余計な仕事を増やされてはかなわないからだ。いや、それもあるが部下の職掌の侵害にもなるからである。

 まあいいや、今日はもうめだ。他の部署でも見に行くか。


 そういや年少、いや年長四人組は何してるんだろう? 見に行ってみるか。


「今日はこれで上がるが、俺が関与すべき仕事はあるかな?」


 執務室の一座を見渡す。……どうやら無いようだ。


「旦那様、特にはありません」


「うん、そのようだな。君らも偶には早上がりも良いぞ」


「ありがとう御座います」


「ではまた明日な」


「はい、お疲れ様でした旦那様」


 執務室を後にする。さて……連中は図書室か?。

 執務室を出て階段を下がる。玄関ホールから大広間へ入り向って左側のエリアに入る。こちら側には広間、談話室、図書室があるのだ。


 図書室に入る。するとやはり四人は居た。

 目ざとくザビーネが俺に気づく。


「ロイド様っ!」


 彼女の声に気づく残りの三人。


「ロイド様」


「ロイド様、今日は早いんですね」


「ロイド様、私達きちんと勉強していますよ」


 フリッツ、クライブ、エリーが次々に声を掛けてくる。みな愛想が良い。


「今は何の勉強をしているんだい?」


「はい、新聞別に同じ記事の内容を比較していました」


 それを聞いて俺は大きく頷く。


「多角的にモノを見るのは良い事だ」


「ありがとうございます」


「……ロイド様、一番正しいと言うのは何なのでしょうか?」


「フリッツ、その質問ではなんの事なのか分からないぞ」


「失礼しました。……え〜と、……例えばですね、このA紙の紙面ではロイド様の政策を批判的に書かれています。で、B紙では同じ題材でもまるっきり正反対、肯定的に捉えられています。C紙では明言を避けています。これではロイド様が分裂症の様に見えてしまいます」


「……フリッツ、その三紙は正しい。

 俺を批判するのも自由だし、肯定するのも自由だ。勿論、主語をぼやかすのもそうだ。

 では何を…どこに指標を置くか、それは明快単純、自分の好きにすればいい。ただし、毎度毎度見方を変えるんじゃなくて、まず自分の立ち位置を考えろ。その上で三紙を公平に見るんだ。そうすれば見えてくるモノが必ずある」


「それは風見鶏ではないですか?」


「そうとも言うし、違うとも言える」


「? どういう事でしょうか?」


「立ち位置を鮮明にしろ、とだけ言っておく。これは俺からの課題だ」


 目をパチクリさせているフリッツを横目にエリーが手を上げた。


「ロイド様、昨今一部の新聞に資本主義を否定し、共産主義が囁かれていますが」


「エリー、君はどう思うかね?」


「私は資本主義を是としていますが共産主義の言う事も理解できます」


「どうしてだい?」


「だって、みんな公平に働けばお給金も公平に分配されるじゃないですか」


「では問うが、エリー、君とザビーネは同じ事を同じだけ出来るかい? 同じだけ掃除をして、同じだけ力仕事をして、同じだけ休憩する」


「…………」


「では出来る、と仮定してフリッツが監督役として君らの仕事を見ているだけなら」


「それは不公平です」


「それが答えだ。共産主義の悪いところは百人が百人同じだけ同じ事をさせているわりに百いち人が違う場所に立っている事だ。そしてそれは千といち人、万といち人『公平でない』人間を生み出している。それの何処に『共産』しているのかね?」


「…………」


「無論、今のは極論だが。しかし共産主義の矛盾はこうだ。少なくとも資本主義は働く人と賃金を与える人とを明確に差別している。

 誰もが個人特有の特徴がある。働く時間、体力、技能、千差万別だ。資本主義にはそれらを忖度する余地があるが、共産主義にはこれが無い。この違いは大きいぞ」


 などとちょっと偉そうな口をきいてみる。それにまあ、どのみち封建社会に生きている俺が、領民相手とはいえ共産主義を容認する訳には行かないからな。

 どこの領とは言わんが領民政府が社会主義に以降した所がある。その為、歪な社会構造となり問題が絶えない状態だ。


 それから暫くの間、五人でディスカッションしていた。質問があれば受け付けるし、課題をだす事もある。中々に有意義な時間ではある。

 


 やがて終業を告げる鐘が鳴った。それは別に終業だけで無く、『夜間』が訪れる鐘の音だ。その鐘が鳴れば館の使用人たちは照明用の魔法石(チャージ済)やライトの魔法をエンチャントした魔灯具を、食堂や夜間使う各部屋に設置していく。

 ある者は配膳に動き、ある者は洗濯物をたたみ、ある者は夜勤の者に申し送り事項を言い渡し、ある者は飼葉を与え、ある者は給仕服に着替える。こうして館は夜間を迎えるのだった。


「君たち、夕餉の時間だ。…そこで思ったのだが、君たちとの会食も週三から週五にしようかと。いかがかな?」


 四人組のリーダー格のザビーネに視線を向ける。

 すると彼女は頬を林檎色にそめた。年相応の可愛さがある。


「はい、是非に!」


「良かった。なら勉強道具を片づけて小半刻後に大食堂に集合だ。さあ解散」


「「「「はい!」」」」うん、良い返事だ。


 俺は図書室を出て三階の自室に向かう。いや、その前に配膳係の者に連絡だ。

 ちょうど大広間にて給仕服に着替えた執事と出会った。


「ノイザ。ちょうど良かった」


「はい、何でしょうか旦那様」


「ザビーネ、エリー、フリッツ、クライブの四人の夕餉は俺と共にする事にした。今まで週三だったのを五度に変更する事も伝えておく。予定の調整を計ってくれ」


「はい、畏まりました」


「ではその様に」


 言い捨てて大広間を後にする。玄関ホールの主階段を上がり自室に戻った。


 衣服を改めて食事の準備が整うを待つ。


 居間の扉がノックされた。『失礼します』と入って来たのはユージーンだった。


「坊っちゃま、夕餉の準備が出来ましたとの事です」


「わかった、降りるよ」


「はい」ユージーンはうやうやしく一礼する。俺は素っ気なく頷くに留めた。さあ、今夜のおかずは何だろね?


 晩ごはんの後は一階の談話室を改装した猫部屋にて猫達と戯れる。イライジャに押されるかたちで戯れに来たが、いやぁ癒やされるわ。ただ猫達はなぜか俺に登ろうとする。何故に登る?

 しかし、なぜ猫は俺に懐くのに、犬からは吠えられるのだろうか? 変なホルモンが出てるのか?


 ま、こうして俺の一日は終わって行くのだった。

今日で三年目に突入です。日頃の御愛顧ほんとうにありがとう御座います。

誤字脱字の報告や感想お待ちしておりますので!


どうでも良い話ですが、自分、テレビを持っておりません。地上波停止時に処分したんです。あってもマスゴミがウザいですからね。メディアは主にパソコンから情報を得ています。メディアで頼りに出来るのは天気予報だけです。

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