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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
序章 ロイド辺境伯、第一歩をふみだす
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第一話 ロイド、日常が終わり……

投稿は2作目となります。前作との繋がりはありません。

頑張って完走させますが、時間がかかります。申し訳ありません。

 俺はロイド・アレクシス・フォン・ファーレ。

 ファーレ辺境伯の息子をやってる。まぁいわゆる公子というやつだ。あと別に法服貴族として成人してからアレクシス伯爵というやつもやっている。

 補足しておくと、伯爵位から皇太子までの成人男性は伯爵位の法服貴族となり、子爵と皇女は子爵位の法服貴族となる。

 で、話しは戻して俺の歳は19、もうすぐ二十歳になる。兄弟はいない。

 いや、正解に言えば弟がいた。居たが生後間もなく亡くなってしまった。母はそれ以降生殖能力に自信を無くし、子を成す事を放棄した。

 父親は随分と好色なので、女性を侍らかせているから他に兄弟が居る可能性は高い。しかしまぁ、嫡子は唯一俺だけだ。


 さて、辺境伯公子(あるいは伯爵)とこう記せば、さぞかしイケメンだと思うであろうが、ところがどっこい俺は完璧なまでの『ブサメン』君だ。正直キモい。鏡を見るたびにイヤになる。

 で、身長は6エンド(約180センチ。エンドは約30センチ)ちょい。体重4ドール(約120キロ。ドールは約30キログラム)越えの巨漢デブ。187ちょいで巨漢扱いなのは、この国の成人男子の平均身長は170くらいだからだ。180あるヤツはめったに居ないんだよね。


 そして俺の見た目はオークの親戚がお似合いの豚面。体型は見事なまでのデブ(ついでに薄毛。なので、今はツルツルに剃っている)

 勿論、完璧な運動音痴。マジ辛いです。


 かろうじて魔法が使えるけど、使えるのは炎と光の付与魔法のみ。魔力はなんとか中級くらいのレベル。しがない二流魔法使いさ。


 ……あとはまぁオツムの出来は悪くないが、天才という訳ではない。せいぜい秀才レベルかね。うん。勉強は好きでもないが、それなりに努力しなくちゃならないから頑張っている。頭が悪くても貴族でいられるが、そんなレベルでは生き残れない。

 

 貴族が貴族でいられるのは、家柄・頭脳・手腕・カリスマ等の能力なのだ。常に誰かに見られて、常に競争させられている。能力の有無は全く重要だ。

 確かに劣っていても貴族でいられる。しかし、そんな貴族は見下される。皇帝から、同じ貴族、そして使用人や市民領民臣民までまんべんなく。

 見下されたら最後、こいつは下らない貴族だよねってのレッテルを貼られてしまう。レッテルを貼られていてもそんな視線を無視できる面の皮の厚いヤツは居るさ、だが俺は嫌だね、耐えられない。なら、努力あるのみだ。

 別に領民に崇められたい訳じゃないし、有能過ぎて悪目立ちしたい訳でもない。だが二流扱いだけはされたくない。全てに一流たれと有りたいのだが、俺は運動苦手だし、軍事の才能もない。

 家を継ぐレールが敷かれているので(厳密には継ぐには審査があるのだが)官僚になる必要はないけども、貴族家の一員としての矜持がある。辺境伯として領地は蛮族との戦いを挑む最前線で、皇帝から許可された専用の軍事力を持つ。付け加えるなら、通常の貴族領は警備隊以上の戦力を持てないシステムなんだよね。ために、辺境伯として俺は試されているのだ。ならば、頭脳で勝負しかない。故に勉学を真摯に学び、努力を続ける。

 しんどいっていやしんどいが、見下されるよりかはましだ。小心者故に見栄をはり、貴族の矜持故に努力せざるを得ない。我ながら愚かだと思わないでもいるが、他に方法もないんでな。つまるところゴーイングマイウェイなんだよねコレ。



 閑話休題。


 

 そんな俺は帝都の最高学府である学術院にて、真面目に授業を受けているの真っ最中…いや、年末には卒業だ。

 全ての受講課程も終了しており、今はサークル内で経済や経営等の議題を検討する日々を送っている。

 

 サークルの構成員は貴族や上級市民の子弟で、男女問わず秀才の集まりだ。卒業後は官僚に内定している様なエリート達。まぁ女子の方は大抵結婚するのだが(帝国社会は男性優先主義。制度上仕方ないとはいえ前時代的過ぎる。しかし、それらを覆すような下地も出来つつある)それでも勉学に熱心だ。彼らの将来はかなり明るいと言っていい。自慢の友人達だよ。


 さて、時刻はそろそろ午後の一刻半になる(地球でいう午後3時に該当する)

 区切りも良いのでお茶の時間にしてもいいと思い、手を挙げた。


「諸君、良いかな? 一旦お茶にしないか?」 


 皆を見渡す。うん。反応は良さげだ。


「良いね、ロイド」


 最初に賛成したのはまとめ役のアレックス…アレックス・ヘルマン・フォン・ベルデナント・グーン大公公子だった。

 

 またもちょっと寄り道。グーン大公は帝国東部を納めるハートランドに位置する大公領である。


 彼アレックスは俺と歳も同じで、名前も近いのでやたらと親しい。そして真性のイケメン君。やや冷血気味なのだが、高圧的ではない。貴族らしい貴族精神の隙がない青年である。

 大公の長男でありながら、爵位を受け継ぐまでは財務官僚を目指し、上級閣僚を望む大望を持っている。きっと彼なら財務官僚の主幹となるだろう。ちなみに彼はベルデナント伯爵でもある。

 また彼は大公公子故に帝位継承権を有し、その将来はどう転んでも安泰だ。ぶっちゃけ、今の皇太子より清廉で、どんな帝位継承権を持つ連中よりもマトモなんだよね。冷血気味なのは、公人としてふさわしい態度だとそう思っている。

 ちなみに皇太子は時代錯誤を極めた尊大な極上の男性優位主義者である。彼の人気は押して知るべし、だ。可能なら排斥したいのだが、俺の身分じゃ話にならない。俺には帝国議会の参政権があるが(参政権を有するのは貴族階級の成人男性のみ。ただし、各領にあるそれぞれの自治体の地方会議には臣民階級までの成人男女に参政権が付与される)継承権問題を提起するのが精一杯だ。リコールに至る政治力なんてないんだな。まぁ、誰かがリコールに乗り出したら喜んで票を投じるさね。


 そんな彼だから周囲の皆は反対もしない。気のきく年上の友人オットー…オットー・ヴァン・フォン・ヘイゲルコーン子爵公子(彼の家は法服貴族だ)が従者を呼ぶ。 

 アンネ…アンネルーゼ・エーリス・マリーネ・フォン・クロイツェル伯爵公女とユーノ…ユーノリアル・シズ・ファリオン…彼女の父親は軍務参示官が顔を見合せ、何かを囁いている。何か発表でもあるのかな? 


 まぁ、とにかくお茶の時間だ。彼女らは何か話題でも提供するのだろう。俺は自分の従者に自作の新作菓子を取りに行かすため腰を浮かせた。ちなみに、俺は菓子作りを趣味にしている。

  


 そしてそれが、俺の人生に波紋を投げ入れた瞬間だった。


 腰を浮かせて、従者を呼ぼうとした時、俺の視界に従者とは別に一人の紳士が歩いて来るのをとらえた。

 その紳士は俺を見つめ、迷うことなくこちらへと近づいて来た。


「失礼いたします。ロイド・アレクシス・フォン・ファーレ辺境伯公子様でいらっしゃいますか?」

 紳士は一礼し、俺に確認をとった。


「はい。自分がロイドですが。貴殿は?」 


「失礼しました。私は国務尚書、オイゲン様より言伝てを持って参りましたブリタニア一等書記官と申します」

 

 何故に大臣が? しかも国務尚書? 皆目見当もつかない。ブリタニア一等書記官が続けて口を開く。


「オイゲン様からファーレ辺境伯公子様に『可及的速やかに内府へと参内せよ』と」そう告げてきた。

 

 これは重要だ。なにやら不穏だが、事件かもしれない。いや、事件なのだ。領地にてなにやら事が起こったみたいだ。

 俺は努めて冷静になろうと呼吸を整えた。一つ深呼吸して書記官を見、頷く。


「承知しました一等書記官殿。すぐに参内せよとの事、これより参内いたします」


 そこで皆を見やり、俺のキモいブサメンを笑いに歪め軽く頭を下げる。


「まぁ、そう言った次第でお茶は退席するよ。申し訳ない。あっと、お茶受けを持って来させるから食べてくれ。では失礼」


 女性陣の一人、レティカ…レティカ・エリザベート・フォン・マイルズ侯爵公女がなにやら言いたげに口を開けかけたが、姿勢を正し黙礼する。

 アンネとユーノ(とレティカは皆、俺と同じ19歳)が再び顔を見合せ、やはり口を開けかけたが、二人も押し黙り黙礼だけをした。

 アレックスとオットー、そしてつねに笑顔を絶さないフランク…フランク・ダスベール。彼の実家は穀物の豪商で、とにかく金持ち…帝国最大級の大店で、その資産額は侯爵に匹敵する政商。また単なる穀物メジャーではなく実際は多角経営…も神妙な表情で頷いた。


「お茶受けは俺がこさえたシュークリームって菓子なんだ。聞いたことないお菓子だろうが是非食べてくれ。自信作なんだがね」


 この世界にシュークリームは存在しなかった。これは俺が記憶にあった思い出を元に再現したやつだ。このシュークリーム、見た目は不恰好だが、生地は変わらない筈だと思う。再現率は七割程度かな?

 俺は職人でもないので、そっくりにはならなかった。けど味は保証する。頑張ったのは評価して欲しい、そんな出来だ。

 

 ああそうそう、俺はいわゆる転生者だ。説明は後にする。今は参内しなければいけないからな。


「それでは失礼するよ」


 ブサメンはクールに去るぜ。従者に菓子を持ってくるよう指示し、俺は図書館を去った。



 

 内府は最高学府である帝国学術院よりそう遠くはない。歩いても十数分ってところだ。帝都は広いが、学術院と内府はわりと近い。

 表に出ると、一等書記官殿は馬車を用意していた。馬車は一頭立ての小柄な軽快馬車だ。まぁ楽でいい。俺は控えめに言っても肥満体なのだ。楽するならそれが良いからな。


 そして俺達を乗せた馬車は走り出し、数分で内府へと到着した。本来なら正装で参内するのが慣わしなのだが『可及的に速やかに』なので、今回は大目に見てくれたようだ。実際助かる。俺はあまり堅苦しい正装が苦手なんだよね。

 パリッとした綿のシャツ(シルクだといいんだが、シルク製品は無い。蚕が上質な絹を作らないために希少)。その上から上着に伯爵位を示す深い緑の上衣。


 当然なくらい、内府や政庁、公共施設、おおよそ全ての建造物は地球と違いクーラーなぞ付いてない石造りの重厚な施設だ。コンクリートの建造物もあるのだが、こうした権威を示す建物は石造りだ。扇風機に近い、風を送る器具はあってもクーラーは存在しない。技術だけの問題ではない。図面をおこす能力はあっても、製品化させるには材料が必要である。そう、ここに問題があるのだ。まぁそれについてはまた説明するわ。済まんね。

 

 緊張故に汗が吹き出す。俺は汗を拭いつつ、内府を足早に歩く。巨漢の豚野郎が汗を拭きつつチョコチョコズンズン歩く訳だ。かなりみっともない。何時もの自己嫌悪に苛まれつつ、内府の廊下を進む。

 ほどなく内府の奥の院、国務尚書閣下の執務室へと到着した。何を知らされるのか若干不安になる。しかし、行くしかない。俺は覚悟を決め、一等書記官殿の後に続いた。

 

 執務室の扉を前に、書記官殿は振り向き、口を開いた。


「ファーレ辺境伯公子様。これより内府執務室でございます。私が先に入り、到着を知らせます。

 国務尚書閣下がお答えになられてから、入室して下さいませ。では」


 そう言って、書記官殿はノックをし、入室して行った。


 いよいよ本番だ。もう一度(汗で湿って重くなったハンカチで)汗を拭い、深呼吸。フゥ。


 

「国務尚書閣下、ファーレ辺境伯公子様が到着いたしました」


 ややあって返事がかえってくる。


「…うむ、入るがよい」  


 響きの良い声。初めて聞く国務尚書の声だった。俺は緊張しつつ入室した。


 執務室の内装は質実剛健。調度品は少ないが、品の良いシックなトーンで固められていた。こういう雰囲気は嫌いじゃない。俺の将来の執務室も、こうであるべきだ。

 おっといけない。この部屋の主人を忘れてはいけない。俺は国務尚書閣下に向き直り、一礼した。


「はじめましてオイゲン国務尚書閣下。ロイド・アレクシス・フォン・ファーレ、只今参内いたしました」


 よし上々だ。緊張はしているが萎縮はしていない。


 オイゲン国務尚書は50代半ばの銀に近いグレーの髪の男前のおっさんだった。我がモンスターペアレンツ、オーク顔の父も是非、見習って欲しい。まぁオークの息子もオーク。世は全て事もなし、世界は平常運転だ。変わることない現実に内心で苦笑する。なんの慰めにもならないがね。


「良く来てくれた辺境伯公子。ふむ、立派な青年だな。歓迎するよ」


 多分に世辞ではある。社交儀礼だな。国務尚書のおっさんはちらりと微笑を浮かべ、軽く頷いてみせる。だが、すぐさま表情を固め、姿勢をあらためる。そして本題を述べ始めた。


「急使が入った。君の両親についてだ。

 ……昨日…三日前だが、カドモス街道の難所にて君の御両親を乗せた馬車が峠より転落。……死亡と判断した。状況から御両親は即死とみられる。

 天候は豪雨故に、馬車の転落は事件性は無いとの報告だ。

 ……慎んで御悔やみ申し上げる」

  

 は? 転落? おいおい、どういう事なんだ?

 俺は混乱した。顔がひきつる。一瞬、足元が揺らぐが、どうにか踏ん張った。しかし、状況をまとめきれない。いや、冷静になれ冷静になれ。


 国務尚書は痛ましそうに俺を見ている。

 俺は今、どんな表情だ? いや、そんな事はどうでもいい。状況を整理せよ。冷静になって、事態を把握するんだ。


 帝国の冬は重く、暗い。外は早い夕闇が近づいて来た。


おまけ

 人類について覚書

 ティガ・ムゥ大陸における人類種『非A・21系列後期量産型ヒト種』平均寿命男性52才、女性58才。

 男性平均身長170センチ、女性166センチ。両者とも特に高い低いの幅が狭いのが特徴。


 アーベル・ルージュ(エルフ)は女系社会を形成している。その理由とは、男性の出生率と平均年齢である。

 女性の平均寿命は85才。男性は12才と隔絶している。出生率も8対2。なお、平均身長は女性177センチ、男性178センチ。横に伸びた耳と青白い肌が特徴である。

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