WANNA BE AN ANGEL
「貴女方こそ理解しておられるのかな?彼女こそ、この俺の永遠の恋人、愛しき妻となる女なのだと」
その言葉とともに、ぐい、と引き寄せられ、と同時に周囲から甲高い絶叫が響き渡る。
許されるのならば、私の方こそ絶叫したい。
――――――ゲーム時間も終わって何年も経ってるのに、こいつのこの『(現実離れしたありえない)甘さ(もはや砂糖てんこ盛りではなく練乳ダダがけレベル)』は、ホントどうにかならんの!?……と。
そしてこうも思うのだ。
いやそれはどうにもならん。なぜなら彼の『コレ』はゲームのLLEDでも盛大に炸裂していたし、2次創作でも大抵『アレ』だったじゃないか……と。
社会人になって数年。
世界に名だたる王者空条、その御曹司の婚約者なんて立場になってしばらく。
さる企業主催のパーティーにて私、こと央川櫻は、婚約者(何の根源であるかは言わない、後が怖いから)である空条明日葉に抱き込まれながらも、それを現実と認めたくない一心で必死に意識を余所へと飛ばしていた。
―――『そんな場合』ではない事を、重々承知していながら―――
学園の高等部在籍時代、それはもう大変にお世話になったのは事実だ。
だけどその頃にはこんな風に―――婚約者(真)な関係になるなんて思いもしなかったし、実際大学時代に先輩後輩としてパシられてた時も、なるたけ親密にならないよう動いてた。……少なくとも、そのつもりだった。
乙女ゲーム『夢恋☆ガーデンティーパーティー』のメイン攻略対象、空条明日葉……明日葉先輩。
“ゲームがリアルに”なっても、その美形度と他を圧倒するカリスマは健在で、見惚れるなと言う方が無理な話だったろう。
けれど、本来ならば知るはずのない彼についての情報を知る自分にとっては、近づく事さえはばかられるほど厄介な事情持ちでもあって。
だから大学で絡まれた(語弊)時も出来るだけその場だけの対応で、間違い無く回避前提で動こうとしていた……筈だったのに、卒業後も縁が切れずよりによって空条への就職が決まり、さらに成人も数年過ぎた辺りで気付けばいつの間にか逃げ道が全部塞がれていたとか、それでもあがこうとする自分に容赦なく既成事実(意味深)でとどめさすとか。
打ちひしがれるのは、正直仕方ないと思うの。
……ってか、どんだけ逃がすつもり無いのせんぱ……いや明日葉氏。てか気付こう?自分よ。
当初はさ、いくらイケメンで周囲もうらやむ人のエスコートだったとしても「ないわー」って思ってた。
でも、カクカクシカジカ諸事情あった前婚約をぶっちぎった末のお付き合い(笑)つかデートでは、当人の気が向いた物を見に行く事が多かったのに、誰に聞いたのか、いつの間にか私の興味を引く内容になってたり、自分がやるんだから文句は言わせんな俺様が、何かするにしろ「いいか?」ってちゃんと許可取る様になってきたり……これはまあ、自分の“教育”の成果もあるんだろうけど。あと『何か』の部分については触れてくれるな頼むから。
……などと、こうしてよくよく思い返してみると、いやー順調に距離縮められてるわー。
誰か止めようよ空条周辺関係者。君らには思惑もプライドもないのかい!?
いやその前に事件起こしてログアウトったおバカがいたから、引くのも仕方ないとは思うけどね!
……ヒロインの代わりに私がイベント起こしましたが何か?しかも本編時間中じゃなくてその数年後とか予想外にもほどがあるっちゅーの。
あーあ、大学時代大型2輪の免許取ったのだって、明日葉との距離とる為だった筈なのに……どうしてこうなった!
確かに、自分でも「やらかしちゃったなあ」と思う事もあったよ?
疲れてそうだと思ったから、ゲームの内容思い出して手製の焼き菓子差し入れたりね!(←間違いなくフラグ)
でもそれだって秘書のイケメン筆頭に渡してもらうようにお願いしたし、同じ部署の東条君にも勧めてみたりしたし!こう上手くフラグすれすれのところを狙ってだな!……結果このザマだよorz
しかし2度も公衆の面前で抱きしめられるとか聞いてない、聞いてないよ!?現在進行形ですが何か!?
まさかの2度目キターーーーーーってこのシチュバラしたのボディーガードの『元隠しキャラ』天上さんかあああああっ全国の250万乙女のみなさん全力でごめんなさいイイイイイ!!!
もういい加減よそのおねー様方からちくちく言われるの慣れてきたからそれくらいならちゃんとかわして返せるからそこまで警戒して威圧しなくていいんですってばもうそれ過剰防衛の域ッスよ!?(ワンブレス)
……って何度同じ目にあっても慣れない乙女心()のままに内心で絶叫していたら、耳元のピアス型通信機から小さな警報が鳴った。
ぴ-っぴーっ
『央川先輩』
向こうから聞こえる声の相手は、後輩にあたる東条正臣君。
察して発した言葉は同時。
「『今です!』」
気分的には団扇でも持って、さっと腕を大きく一振りしたいところだけど。
さて?後は結果をごろうじろ、ってね。
「おい、どうした?何かあったのか?」
突如様子の変わった私に、隣の人は何が何だかわからん感じで聞いてくるけど。
「A secret makes a woman woman...」(女は秘密を着飾って美しくなるんですよ……)
人差し指を口元に当て、返すのは不敵な笑みひとつ。
うんまあ、そうかからない内に状況はわかるだろうから。
単に格好つけてみただけですってば。
間も無く黒服に身を包んだ元攻略キャラの椿先輩と、元職場だった情報統括部の部長、それに明日葉の専属筆頭秘書が駆けつけて来た。
お前はどこのドs執事だと顔を見るたび毎度毎度言いたくなるイケメン秘書が、明日葉にこそっと耳打ちする。
と、
「なんだと!?」
彼は、珍しくも素で驚いた表情でくるりとこちらに顔を向けた。
「おい櫻、お前いったい何をした?」
「んー、ちょっとOHANASHIしただけですよ。……ねえ明日葉、周の軍師って誰だかご存知です、よね?」
ご存じ?と問いそうになったけど、彼なら知ってて当然だと思い直す。
「周瑜か。それがどうした?」
「自分としては『こーきん』の方が親しみやすいんですけど、まあこの場合は周瑜で合ってるかな。そうそれでですね、周瑜といえばどんな作戦でしょう?」
ぴっ、と指一本立てて楽しそうに問いかける。
うん実際ちょっと笑いが顔から離れない。
演技と種明かしの楽しさ。半々くらいかな。
「は?何だ、いきなり?……周瑜の立てた策?それが一体何の関係があるんだ?」
思いつかないのか、珍しく混乱した様子の明日葉に、自分は笑みを深める。
ふふふ、赤壁とかの具体的な話もそうだが、我ら“経験者”は語るのだ。
そう、周瑜といえば、火計。
『火計大好き(腹黒)軍師』な訳ですよ、共通認識として。
「所謂1つの炎上商法ってやつですね。あ、使い方間違ってるのは分かってますから(笑)」
以前からしつこかったタチのあまりよろしくない某企業に、過去世で自爆した建築会社の名前教えてやったんですよ。
そしたらまあ、華麗に引っかかってくれまして。
ただ落とすだけだとその会社に勤める人たちが路頭に迷うから、それは本意ではないって言うので少しずつ株も買いーの、こっそり不良企業の優良健全再建が趣味の経営者候補探してみたり、たった今自爆建築業者に巻き込まれて誘爆炎上直後にのっとり成功させーので。←イマココ
ちなみに逝き付く先は『あーやさん2×歳新任検事の前』だ。……言い換えよう『あーやさん2×歳新任検事の下』と。
あれ、変わってない。
それはともかくとして!
名前出したのは自分だけど『だからどう』とは言って無いんだよねー。
ついでに言えば、空条上層そのものがかかわった事も無いので(子会社はいくつか……)向こうが何か言っても『知らぬ存ぜぬ噂程度で聞いただけですぅ(はぁと)』で通っちゃう。
ついでに買い占めも、空条では無く央川櫻個人(と後うちの実家)で買い付けたものなので……裏で空条の(都合のいい時だけ)お義父様に根回ししてちゃんと許可取った上での犯行(笑)だけど。
「明日葉、私ね、決めたんです。どうせこの状況から逃げられないなら、目指すべきかなって」
微笑んで見つめる私に、明日葉が目を見張る。
気付けば周囲もこちらを見ていたけれど、気にしない事にした。
……時にはしっかり大地に足をつけて立つ事も、重要だと思うから。(俺がガ○ダムだ!)いやガン○ム関係無くて。
流されて一緒にいたあの頃とは違う。
非情で非常に大人げない方法を使って退路を断ったのは、他ならぬ貴方自身。そうでしょう?
そこまでされたら、いくら逃げるばっかりだった私だって、いい加減腹をくくりますよ。
今回ここまでずっと黙ってたのは、そうまでさせた事への半分嫌がらせと、理解させるための覚悟を見せ付けたかったから。
――――――私は『あの子』とは違う。
どうしたって、違う。違ってしまう。
いつもみんなに愛されて守られていて、それでいて芯の強い、まるで天使みたいな『あの子』とはまるで違う。
貴方がかつて『画面の中で』恋をしていた『あの子』に、私は絶対になれないから。
けれど、それでも、貴方に恋をした。好きになってしまったから。
そうして好きにさせて、逃げ場をなくされて、じゃあそれで『違った』なんて言われたら、私はどうすればいいの?
だから、『私はあの子とは違う』んだって知らしめたかった。
1人でもこれくらいは出来るんだって、思い知らせてやりたかった。
結局、いろんな人の手を借りることになってしまったけれど、それでも。
『あの時』何度も何度も言った事。
実感が無いのか興味が無い風に流されてしまったから、今度は徹底的に見せ付ける事にしたんだ。
―――本当は、そんなに心配する必要無いってわかってる。
だって『現実の明日葉』は『ゲームヒロイン』と恋に落ちなかった。
だから、私が偏執的なまでに固執する必要も無いんだろう。
―――ヒロインと違うからその内飽きて捨てられるとか、その内『本当の恋』に気付くんじゃないかとか。
訳あって婚約者演じてくれてた天上さんにも言われたけど、おかげで目も覚めたけれど、それでも心のどこかに信じ切れていない迷いみたいなもやもやがあって。
だから、はっきりさせたかった。
少しは、驚いてくれたかな。
そんな気持ちで、しっかりと相手を見据える。
―――私はゲームヒロインとは違うけど。
あそこまで純粋に、純真なまま慕ったりできないけど。
……それでもいいと言ってくれたこの人の為に、出来る事をやりたいの。
違う手段で、でも同じように、貴方の隣に立ちたいの。
――――――その、覚悟を。
「源頼朝の正妻、しってますよね?」
脈絡も無くそう言うと、驚くばかりだった“その人”は、にやりとした笑みを深めた。
「尼将軍か?俺はそうそう易くは儚くならんぞ」
「んー、間違って無いですけど、そうじゃなくてですね」
ふ、とこちらも笑みを深める。
「源頼朝といえば、ダキニテン信仰ですよね?」
「あ、ああ」
そこはさすがに分からないよなあ。苦笑するのは私。
この2つがイコールで直結するのは、某シリーズの3をプレイした乙女()くらいのものだろう。
「北条政子にダキニテンが悪魔合体したら最強。目指すなら、そこかなって。あ、さっきの「うーまんうーまんの人でも可」
「……いやな予感しかしないんだが」
あれ?むしろ引かれた。
ん?ちょっと待て。これって素か?それともニュータイプ感覚か?(多分経験なんだろうなあ)
まあでも、
「いいじゃないですか。三国覇王だか第六天魔王だかの嫁がダキニ憑きの北条政子。ほら、最強だ」
ついでに言うなら「東条正臣」も「真央くん」も控えてるんだぜ。ほらやっぱ最強の布陣じゃないですかー。
「くくっ、そうか、俺は魔王か。そうだな、そのタッグは初めて聞くな」
お、どうやらツボに入ったらしい。口元に手を当て、くくくく笑ってる。
「いいだろう、おもしろい。俺の隣りに並ぶというのであれば、そのくらいでなければな。せいぜい目標に達するようがんばれ」
「当然」
甘い雰囲気とはかけ離れた熱い友情物のドラマみたいに、私たちはこぶしを軽く突き合わせた。
そうしてうっそりとほほ笑む。
「貴方の為なら『天使』にだってなれるわ」
ゲーム本来のヒロインとはまた違う『私らしい天使』に。
「そういえばお前、あの時急に何か言っていたろう。結局あれは何だったんだ?」
「東条君が、タイミング合わせの合図を送って来たんです。今回彼には裏方全般の陣頭指揮をとってもらっていたので。……今つけてるこのピアス、通信機能を持ってるんです。だから、場面に応じて何をすればいいか、これを通じて(向こうの)東条君が教えてくれる事になってるんです」
「ちょっと待て。あいつは“俺たちごと”『爆弾』で吹き飛ばしなさいとまで言ったのか」
「言ったのはお義父様ですよ?」
「……」
色々言いたい事が出来たが、とりあえずお説教タイムin!
「そういえば、よく見つかったな」
「何のことでしょう?」
「経営再建が趣味だとかいう奇特な奴だ」
「ああ、それ。私もびっくりしたんですけど、いるところにはいるんですねえ、まんまピンクい背表紙のヒーローみたいな人が。まさか本当に実在するとは思いませんでしたよ。とはいえ外資は外資ですから、後あと考えないといけないんですけどねー、伴天連追放令……という訳でその辺は任せますから、(東条)秀吉君や(西条)家康君辺りと相談しておいてくださいね、信長さ・ま」(ぽん、と肩をたたく)
「おいこら。…………というか、お前こそ実は光秀だったりしないだろうな」
「えー?(笑)」
おそまつ!