表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

空条家の日常

おまけその1:彼女はおかあさん。


「寒くない?」

「うん!あっ、あっち、おハナ!おかあさん、おハナさいてる!」

「あっ、ほら、急に走ると危ないって!」

 空条本社ビル最上階、プライベートフロア、その屋上は花が溢れるガーデンテラス。

 そこでは警備員に見守られながら、1人の女性と小さな子供が昼の暖かい日差しの中、散歩を楽しんでいた。

 だが、ふと見つけた小さな宝物に、子供は夢中で周りが見えていないらしい。

 駈け出した子供はあまりに小さく、案の定バランスを崩して転んでしまった。


「…………ふ」

「ふ?」

 母親は慌てる警備員を目で制し、それから駆け寄って、身を起して泣きそうな表情の我が子の顔を覗き込んだ。

「………………」

 ぐず、という鼻をすする音が1度だけ聞こえたが、それだけだった。

 その幼い子は、泣くでも喚くでも癇癪を起すでも無く、ただひたすら耐えたのだ。小さな子供にはいささか大きな衝撃と、痛みを。

 それを理解した母親は、大きく破顔した。

 顔をくちゃくちゃにしながら涙を懸命にこらえる子供の頭を、母親は優しくゆっくり大きく撫でる。

「良い子ねー。ちゃんと我慢したんだ?エライ偉い」

 それから、もう一度顔を覗き込んだ。

「痛いところはどこ?」

「…………」

 黙って我慢する我が子に、彼女は苦笑した。

「我慢したのはすっごく偉いけど、痛いところはここ、って、すぐに言わないとダメ。言わなきゃ、おかあさん分かんないんだから」

 今度は手を伸ばさなかった。


 小さな子供は、おずおずと「ここ……」と膝を指さす。

「そっか。じゃあ、お医者さんに診てもらおうねえ」

「………おいしゃさん、キライ」

 空条本社の医務室にいるおじいちゃん先生を思い出したのか、顔をしかめた小さな子に、夫と同じ表情を見つけて苦笑する。

「だーめ。痛いの治らなかったら困るでしょ?もっと痛くなっちゃうかもしんないし。ほら、立てる?」

 母親は手を差し伸べた。

 だが、決して自ら抱き上げようとはしなかった。

 母は知っている。

 この“空条(セカイ)”では、自ら立ち上がれもしないか弱き者に、生き残る術は無いのだと。

 だからこそ、手を差し伸べるだけで待っているのだ。

 泣かない事にはきちんと褒め、痛い所は黙っていないできちんと申告させる。そうして、きちんと自分の足で立たせる事。

 それが、彼女の我が子に対する教育。

 だが、その母の強い思いと助けたい気持ちの葛藤を、ふいにする奴が現れた。


実蕾(ミライ)、どうした?」

 その長いコンパスで颯爽と歩み寄り、声を上げる間もなかった母親の後ろから、ひょい、と我が子を抱き上げたのは、子の父親であり、母親の夫でもある――――――空条の中でも異例の若さで専務となり、後に空条の頂点、支配者の椅子に収まる事が決まっている『空条明日葉』その人であった。

「あーっ!!」

「何だ」

 いきなり大声を上げた母親に、怪訝そうに振り返った明日葉。

「もうっ、すぐに抱きあげちゃったらダメじゃないですか!せっかく自分で立たせようと思ってたのに!」

「転んだんだろ?すぐに医務室に連れて行かなくて良いのか?」

「分かってますよ!だけどちょっと転んだだけだし、それくらいなら自分で歩けるでしょうっ」

「“おかあさん”は“スパルタ”だなー」

「甘やかしの“筆頭”が何言ってるんですか!!」

 先程までの慈愛に満ちた母親の表情は何処へやら。

 すっとぼけた言い方で子供に話しかけた夫を見上げ、怒りをぶつけるその顔は、年相応に若い。

「良いからとっとと医務室行くぞ。ほら、お前も来い」

「だからっ、ああもう、抱き癖付いたらどうするんですか!私だって我慢してるんですよ!?」

「わかったわかった。留意するから、ほら」

「おかあさん、けんか?」

 両親がいさかいを起こしていると誤解した子の言葉と、子を抱き上げたまま下ろす気の無い夫が差し伸べた手を見て、妻は溜息を吐いた。

「櫻」

 婚約当時と変わらぬ、優しく甘く呼ぶ大切な人の声に、櫻は、

「……もうっ、仕方ないですねー」

 負けを認めてその手を取った。



注:甘やかしの筆頭、という事は、甘やかしのその下(義父と義母とイケメン秘書軍団)がいるという事です。




おまけその2:櫻おかあさんによる昔話。


その1:かちかちやま

 夕食後、子供に絵本を読み聞かせる櫻。そしてそれを見守る明日葉。

「そのウサギは言いました『狸さん、私と契約して、山へ芝刈りに行って下さい』」

「……それはどんな兎だ」


「そこへ芥子……じゃなかったウサギちゃんが、小さな壺を持ってやって来ました。『お薬はいりませんか~、ハクタク印のよく効くお薬はいかがですか~』(ウラ声)」

「ウサギちゃん、カワイイ!」

「……その兎、妙にキャラがしっかりしてないか?後『ハクタク印』って何だ、どこから出て来た」


「今更泣いたところで許すと思うか、狸イィ!!」(ドスの利いた声で)

「っびえ!!」

「おい、本気で息子が怯えてるんだが」


「う~ん、う~ん」

「おい、うなされてるぞ、実蕾のヤツ。……ハア、何も、そこまで怯えさせる必要は無いだろうに」(溜息)

「何言ってんですか、本来のカチカチ山は、こんなもんじゃ済まない壮絶な復讐劇ですよ。何たって(芥子ちゃんの)狸汁……じゃなかった、ババァ汁に泥船ですからね」

「……」(手遅れなものを見る様な目)

「そこまで言うなら……次はあまり怖くない話にしておきましょうか」

「ぜひそうしてくれ」(溜息)

「幸せ逃げますよ?」

「だが断る」


その2:したきりすずめ

「(野太い声で)『ぢゅんっっ!!』(普通に戻って)『ヒィィィッッ、親分が、感動してなさるぅぅぅっ!!』」

「……(舌切雀の親が極道……?)そんな描写、あったか……?」


その3:桃太郎

犬の場合:

「ねえねえ桃太郎、そのだんごおいしいねっ、何ていう食べ物?何ていう食べ物?」

「あ、ああ、これはきび団子というんだ。俺のばあ様が作って持たせてくれたんだよ」

「そうなんだ!あっ、じゃあさ、桃太郎に付いていけば、俺もそのだんご食べてもいいんだよね?」

「俺の仲間になってくれるのか?よし、じゃあ好きなだけ食べていいぞ」

「うわーい、やったー!俺、桃太郎の事だいすき!」

「こちらこそよろしくな……って、いきなり全部食べちゃったら、この『お話』終わっちゃうだろー!?」

「え?なあに?何か言ったー?桃太郎」


~~~~~~~~~~~~~~~~~

旦那「いきなりメタ発言か」



サルの場合:

「あっ、見てみて桃太郎!あそこに誰か倒れてるよ!」

「本当だ……って、何でこんな所に、まるで『囲炉裏から出て来たクリに顔を直撃され、冷やそうと思ったら水おけの中から出て来たハチに刺され、びっくりして家から出ようとしてうんこ踏んだ挙句、屋根から落ちて来た臼に潰された』みたいな状態のサルが……?」

「分かった桃太郎!このお話は、鬼退治の話じゃなくて、本当はサルをこんなにしちゃった犯人を見つける『火曜サスペンス劇場』だったんだね!」

「いや、普通に冒険活劇だから……」

「…………とりあえずまだ死んでないんで、早いとこ団子下さい……」(ひんし)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

旦那「子供に『火サス』も『冒険活劇』の言葉もまだ早いだろう。というかその猿『サルカニ』の猿か。混ざってるが、いいのか?」


キジの場合:

「旨い団子を分けてくれてありがとうな。これからずっとあんた一人だけに忠誠を尽くすぜ。俺の事は「桃太郎チームの“ロケットランチャー”」と呼んでくれ」

「“ロケットランチャー”だって!かっこいい!!ねえねえ桃太郎、俺もなんかそういうの欲しい!何かいいの無いかなあ、無いかなあ!」

シ○(いぬ)は“バカ犬”だろ」

「俺バカじゃないもんーーー!!」

「ばーかばーか」


~~~~~~~~~~~~~~~~

嫁「こうして、『犬猿の仲』という言葉は出来たのです」

旦那「絶対違う」



いよいよ鬼ヶ島:


「いよいよだな」

「カギ、あけたぜ!」

「行くぜ野郎ども!」

「俺、いーっぱい噛み付くから!」


ごごごご、という音と共に、重い扉が開いていく。

そして


まじめそうだけどM な ごくそつ が あらわれた!

てんねんだけどげいじゅつか の ごくそつ が あらわれた!


そして


じごく の ほさかん “さま” が あらわれた!!


「…………なあ、これ、勝てる、か?」

「多分無理じゃねーかな」

「あっ、補佐官様だ!どうしたんですかー?こんなところで!」

「仕事ですよ」

「…………(((((;゜Д゜)))))」


 えんまさま と からしちゃん が こっそりうしろからみてる!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

息子「ほさかん、すごーい。カッコイイ!」(キラキラした目で)

旦那「……どう収拾付けるつもりだ?これは」

嫁「え?どうも?」

勝てるわけ無い。


嫁さんの昔話の元ネタは、鬼徹と大神あたりから。



その3 櫻おかあさんの怖い話


「実蕾君、どうして勝手に1人でエレベータ乗ったの。ダメだって言ったでしょ?エレベータ1人チャレンジはまだ早いって、前におかあさん言ったよね?実蕾君に何かあっても、おかあさん急には助けてあげられないのよ?」

「……」

「あのねえ……これを言うのは本当は気が進まないんだけど……あのエレベータ、『悪い子食べちゃう』怖いエレベータなのよ?」

「!?」

「(ちょっと具体的な描写)とかになっちゃうんだよ?」

「!!!!」

「怖いでしょう?だからね、あのエレベータに、子供は1人で乗っちゃいけないの。必ず誰か大人の人と一緒に乗ってね?」

「!!!!(こくこく)」(必死)

「あ、だからって、知らない大人の人についてっちゃだめだよ。誘拐されちゃうかもしれないから。誘拐って分かる?この前ちゃんとお話ししたよね?」

「……」(思い出して顔が青ざめる)

「思い出したかなー?ならもう分かったよね?あのね、エレベータは遊び場じゃないの。だから1人で勝手に乗らないで、誰か大人と一緒に乗る事。でもだからって、知らない人と一緒にエレベータに乗ると……おかあさんも怖くてたまらなくなる様な怖い事(イタズラ)されちゃうから、気をつけてね?」

「はい!もうぜったいひとりでのりません!!」(滂沱)


 明日葉帰宅後。

「おい、実蕾が恐怖におののいているんだが、何かあったのか?」

「ちょっと怖がらせすぎましたかね」

「……何をやった、お前は」

「実はかくかくしかじかで」

「……トラウマになるぞ」

「もうなってるかもしれません」

「……」

「でもまあ、今回は教育的指導という事でワザと怖がらせているんですから、これくらいで」

「……いいかお前、物事には限度という物がだな」


 むしろ教育が必要なのは妻の方じゃないだろうか。

 そう旦那さんは思ったといいます。


 そして奥さんには、妹に対して似た様な事をしていたという前科が。(ぶっちぎれお正月話参照)






 おそまつ!




************************************************

参考までに。

櫻ちゃんは、このお話だと専業主婦化しています。

直接経営には参加していませんが、ご意見番というか、乞われてアドバイザー的に裏から意見を出す事はあります。



息子さんは、幸いにも夢に見る程度で済んだとか。



これでホントにおしまい!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ