Act.2
「こんちはー」
と挨拶しながら部室のドアを開けると、一橋と鈴沢がいちゃいちゃしていた。「ほら、口を開けろ。あーん」「あーん」
鈴沢の口に放り込まれるラムネ菓子。なんか羨ましい。
「すいません、失礼しました」
俺は回れ右をして部屋を出ようとする。
「おい待て葛城。これは演技だ」「演技?」
「そうだよー。こういう演技、遊びなの」
「他の所でやろうとすると『え? 何こいつキモい』って言われるだろうが、ここでは日常茶飯事だ」
「はあ、そうなんですか。ところで部長はまだですか?」
俺がそう言った瞬間、部室のドアが勢いよく開いて笹川が現れた。
「あ やせいの ぶちょうが あらわれた!」
鈴沢がいかにもゲームっぽく淡々と言った。
「かつらぎ は どうする?」
一橋が繋げる。
「かつらぎ は ボールをなげた!」
仕方なく繋げてみる。
「……やったー! 部長をつかまえたぞ!」
笹川が自分で言い、さらに続ける。
「かつらぎ は 729のダメージ! かつらぎ は しんでしまった……」
「……もういいですか」
「うん、満足。さて、今日はゲームをしよう」
「「「ゲーム?」」」
俺と鈴沢と一橋が同時に訊いた。笹川は板のような胸を張って答える。
「そうだ! ゲームだ! ルールは簡単、最初に喋った奴が負け」
「ものすっごく寂しいゲームですね」
「拒否権は認めないよー!3、2、1、スタート」
「……」「……」「……」「……」
五分経過。
これいつになったら終わるんですかという目線を一橋に送る。
一橋は、そのうち終わるさという目線で返してきた。 十分経過。笹川が俺の頬をつっついたり脇をくすぐったりしてくる。かなり鬱陶しい。
十五分経過。みんなそれぞれ声以外でコミュニケーションを取り始めた。手話だったり筆談だったりジェスチャーだったり。
二十分経過。笹川が踊っている。何を伝えたいのかよくわからないが、見ている分にはかなり面白い。やがて鈴沢と一橋が便乗して踊り始めた。いずれ俺も踊る空気になるだろう。
二十五分が経過し、さあ俺も踊るぞと意気込んでいたその瞬間、部室のドアが開いた。
「ちょっとあんたら、うるさすぎ……」
現れたのは、腰まで届く長い髪を後ろで束ねた女の子だった。部活中だったのか体操服を着ている。
「……なにしてんの」
意味不明な踊りが蔓延している部屋を見て、彼女がようやく紡ぎだした言葉がそれだった。
「はーい!由加の負け!」
「は?」
どうやら由加というらしい女の子は明らかに戸惑っている。当たり前だけど。「いい勝負だったぜ」
「接戦でしたねー、私うっかり喋りそうでしたよ。でもまさか由加ちゃんが出てくるとは」
「うっ」
「そうだな。まさか由加ちゃんがなあ」
「ぐっ」
「うむ!これも運命だな!そうだろう由加ちゃん?」
「ううう」
由加は泣きそうな顔をしている。だがしかし、こういうときは便乗。
「残念でしたね、由加ちゃん」
「わーん!」泣いた。
「なんだよなんだよ!知るかバカ!いきなり負けとか言われてもなんのこっちゃだよ!みんなまとめてハゲてしまえー……」
最悪な捨て台詞を吐いて由加は走り去っていった。
「あっはっは!相変わらず由加は面白いな!」
笹川は快活な笑みを浮かべている。
「今の人、誰ですか?」
「うん?今の人は岸和田由加だよ。私のクラスメイトであるのだ」
「面白い人でしたね」
可哀想な人の間違いだったかなという疑惑は無視。
「そうなんだよ!何回も日常演劇部に誘っているんだがな、断られっぱなしだ」
「ほー……」
由加の気持ちは分かる。こんな変人ばかりの空間に進んで飛び込むのは同類である変人だけだ。
彼女は普通の人間として生きたいのだろうか? あるいはただの恥ずかしがりなのか?そんな疑問がふと湧き出て、すぐに消えた。




