第7話 折れた剣
歳月と言うものは、実に早く過ぎ去るものだ。
ゴブリンとの泥沼の戦いを演じて、早2年の歳月が過ぎた。
この森に来て今年で12年になる。
相変わらず兄弟たちと、全力でじゃれあう日々を繰り返し、たまに母から魔物退治を
押し付けれる日々だ。
初陣で余りの無様を晒したものの、二度、三度と繰り返すと、少しずつではあるが
普通に動けるようになった。
といっても、世間的には最弱クラスの魔物一匹相手に悪戦苦闘を演じ、生き物の命を
奪うという行為には、今だ慣れないし、慣れたくもない。
だが命を奪うという行為は、この世界において生きていく事と同義である。
いずれ慣れなければならないのだが、前の世界の道徳観が邪魔をして罪悪感が消えないのだ。
すでに10を超える命を奪っておきながら…。
そしてなりより、命を奪う事に慣れる慣れないの前に、まず戦闘そのものに慣れない。
悲しいかな、自身が紛う事無き凡人であったと突きつけられた気分だった。
前の世界の本か、テレビか、とにかく何かにあった知識では、道場で無敵でも
戦場では実力の半分も発揮出来ず、ものの役にも立たなかった、なんて言うものがあった。
訓練と実戦は別物。
兄弟たちとのじゃれ合いでは、能力を駆使して、縦横無尽に駆け回れても、
いざ実戦となると、恐怖で身体が固まり、緊張で息が切れ、動きが鈍る。
能力を駆使しようにも、頭がパニックを引き起こし、まともな戦いにならない。
それでもなんとか生きているのは、神から貰った盾のお陰であり、陰ながら見守る
兄弟たちのおかげであろう。
そんな感じで、10を超える戦闘を超えてもなお、俺は実戦というものに慣れなかった。
それでも徐々にではあるが、能力の行使も出来るようになり、ある程度は
動けるようになってはいた。
傍からみれば、へっぴり腰の新米冒険者にも劣るだろうが。
そんな感じで、盾に頼り切っている現状をなんとかしようと訓練に励む日々。
ステのそこそこ成長した。
新しい技能も幾つか覚え、日々の成長を実感していた。
ちなみにステは今こんな感じ。
森の大狼の養い子
15才 男
器用度 8
敏捷度 10
知 力 2
筋 力 13
生命力 12
精神力 2
一般レベル 4
冒険者技能
ファイターLv2
レンジャーLv1
冒険者レベル 1
装備
鎧 毛皮の服(皮)
必要筋力0
防御力2
武器 古びた直剣(小破)
必要筋力5
攻撃力1
技能Lv 才能限界Lv
戦闘技能Lv2(MAX4)
剣戦闘Lv1(MAX4)
生活技能Lv2(MAX3)
生存術Lv3(MAX3)
鑑定Lv1(MAX3)
生産技能Lv1(MAX3)
調理Lv2(MAX2)
特殊技能Lv2(MAX4)
重力操作Lv3(MAX4)
時間停止Lv2(MAX4)
究極なる防害の盾Lv1(MAX1)
魔法魔技能Lv0(MAX0)
こんな感じで戦闘関係のステの上昇が著しい。
基本ステも上がると、自身の身体にも影響が出る。
筋力が上がると筋肉が付くとか、そんな感じの変化が見られる。
一時期、筋力だけが上がり、ムキムキマッチョ小学生みたいな感じだった。
さすがに見苦しいので、敏捷度を上げるように勤めると、無駄な筋肉が落ち
無駄の無い獣の様な体つきに戻った。
この体格が自分にはベストと感じ、以後この体格を維持するに努めた。
15になると身長も伸び、骨格もしっかりしてくる。
そこにこの基本ステである。
かつての世界の一般的な15歳に比べて、長身でがっしりとした体つき、それでいて
無駄の無い柔軟な筋肉に覆われた、正に理想的な身体を手に入れていた。
そう言えば、こちらの世界に来て一番驚いたのは顔の造詣が大きく変わっていた事か。
生まれ直したのだから当然だが、黒髪なのだから、変わったのは肌の色くらい
だと思っていたのだ。
だが、目の色を確認した時、自身の顔を見て、誰だこりゃ?とか本気で思ったものだ。
前の世界では、フツメンだった俺だが、この世界では野生的なイケメンだった。
これは将来いい男になる、自画自賛になるが、そう思わずには居られない顔だった。
髪の色も、目の色も、肌の色もこの顔によく似合う。
調和の取れた野生的な美形に俺はなっていた。
あの神のセンスの良さに戦慄を覚えたほどだ。
すわモテ期到来かとはしゃいだが、現在俺は森の中、絶賛引き篭もり中なのである。
女どころか人っ子ひとりいない。
むなしくなって、はしゃぐの止めた。
だがよくよく考えれば、こんな顔で太ったりしようものなら目も当てられない。
こうして俺は生涯、今の体形を維持する事が強制的に決まった訳だ。
まぁ、そんな姿は俺自身見たくもないので文句はないのだが。
いまひとつ難を言えば、ぼさぼさに伸びた髪が鬱陶しい事この上ない。
だが鋏がある訳でなし、伸ばしたい放題が現状だ。
町に行く日が来たならば、真っ先に散髪したい所だ。
しかし、この髪が兄弟たちには割かし好評だったりする。
長く伸びた髪は、獣の毛皮を連想させるようで、固まって眠るのに暖かいのだとか。
そんな感じで他愛も無い日々を過ごし、何時ものように兄弟相手にじゃれ合っていた。
そんなある日の事。
パキィィィン
と、鈍い音と共に、長年愛用してきた我が牙。
古びた直剣が折れたのだ。
『折れた』
『折れた折れた』
『生え変わり?』
『ねむい』
『うわ、マジかよ』
最後は俺。
しかし参った、訓練中にいきなり折れてまうとは。
まじまじと折れた剣を鑑定する。
折れた直剣(大破)耐久度0/100
必要筋力1
攻撃力0
あれ、耐久度なんて表示が増えてる。
しかし、攻撃力0って…。
まいったなこりゃ、完全に壊れてる。
『黒、直らない?』
兄弟の一匹が大きな顔を俺の腕に摺り寄せてきた。
兄弟たちは、すでに母と変わらぬほど大きくになっている。
ちなみに黒とは俺の事だ。
毛色で判断でもされているのか。
『これは直らないな、完全に壊れた』
兄弟の問いに念話を返しながら、喉の辺り掻いてやる。
グルグルと、気持ちよさそうに目を細める兄弟を見ながら、さて如何したものかと思案した。
母に相談しよう、そう思って折れた剣を持って歩き出す。
兄弟たちもそれに続いた。