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冒険とかしてみる。  作者: 日向猫
一章 たのしい狼一家
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閑話1 大狼、子供を拾う



初めにそれに気付いたのは匂いだった。

我が子の匂いがする。

しかし、可笑しな事もあるものだ、我が子らは確かにここにいると言うのに。


自身にもたれるようにして眠る我が子らを見る。

年の初めに生まれたばかりの子供たちだ。

ヤンチャ盛りで、何にでも興味をもつ。

手もかかるが、何より愛おしい我が子らだ。


そんな我が子の匂いが、寝床としている洞窟の外からする。

森に異変は感じられない。

何かが森の外界から入ってきた気配はない。

はて、これは如何いうことか。


しばし思案して、ムクリと身体を起こす。


折り重なるようにして眠っていた子らが、コロコロと転がり目を覚ます。


『むう?』


『ごはん?』


『おでかけ?』


『ねむい』


口々に囃し立てる子らを尻目に、洞窟の外を目指す。


『いいかい、子供たち、母が戻るまで洞窟から出るんじゃないよ』


きちんと釘を刺すのも忘れない。


『わかった!』


『ごはんとりにいく?』


『いってらっしゃい』


『ねむい』


そんな子供たちの声を背に、のそりと洞窟から出た。

我が一族が代々守護する森だ。

幼き日より駆け回り、知らぬこと無き深緑の森。

匂いを辿り、その場所を目指して歩み出した。














その場所が近づくにつれ、匂いが強くなる。

一応念のため、周囲を警戒して身を屈める。

この森に我を害せるものなどないが、注意するに越したことは無い。


ガサリガサリと茂みをかきわけ、視界に大きな岩が見える。

森の中央に程近い場所にある、通称真ん丸岩だ。


周囲に敵意はない。

ムクリと身を起こし茂みを抜ける。


くんくん、と匂いを辿る。

我が子の匂いを強く感じる。

視線を落とすと、そこに毛色の違う人の子がいた。


身を寄せ匂いを嗅ぐ、強く香る匂いは、間違いなくこの子からだ。

偽って居る訳でもなく、我が子の匂いがする人の子。


酷く弱っているように見えた。

先ほどから動かない、声も発しない。


癒すように、我が子にする様に舐めてやれば、我が子らのように、甘えた鳴き声を発した。


やはり弱っていたようだ。

ひとしきり舐めてやり、口に銜えると、抵抗せずに身を任せてきた。


それに満足して、子らが待つ巣穴へと踵を返した。







銜えた子に負担が掛からないように、ゆっくりと歩む。

そうしてのんびりと歩み、しばらくすると巣穴の洞窟が見えてくる。


我の匂いに釣られたか、歩む足音に気付いたか、洞窟から愛しい我が子らが飛び出してきた。


『おかえりおかえり』


『ごはんごはん』


『おなかへった』


『ねむい』


はしゃぐ子らが足元にじゃれ付く。


子らを踏まぬようにと、ゆっくり歩む。


『おかあさん、それなぁに?』


子の1匹が口に銜えてた存在に気が付いた。

我はそれに答えず、巣穴に入る。

子らもその後に続いて巣穴に戻った。


ゆっくりと、巣穴の一番奥、ここで最も安全な場所に銜えた子を横たえた。

抵抗らしい抵抗もせず、されるがまま寝かされた人の子。

よほどに弱っていると見える。

だからこそ、この巣穴で一番安全な場所に寝かせたのだ。

弱っている獣は、外的に襲われやすい。

だが此処なら我が守ってやれる。


そうして見ていると、弱った人の子に興味を抱いた子らが人の子に近づいた。


『なんだなんだ?おまえなんだ?』


『くんくん、なんだが、かいだことのあるにおい』


『ぼくたちと、おなじにおいがするよ』


『ねむい』


子らに揉みくちゃにされながらも、なんら動きを見せぬ人の子に心配を抱く。

この子は弱い、せめて強く大きくなるまで我らが守ってやらねば。

不思議と他の我が子のように、この人の子が愛おしく感じた。


『子供たち、よくお聞き』


我は子らに語りかける。

子らは人の子にじゃれるのをやめ、我を仰ぎ見る。

子らの視線が我を向いたのを確認して、子ら一匹一匹に語りかけるように呟いた。


『この子は、お前たちの新しい兄弟だ、今は弱って元気がないが仲良くするんだよ』


そういって我は人の子を包むように座りこむ。

それに習うように、子らも人の子を包むように集まった。

その姿を愛おしげに眺め、一匹一匹舐めてやる。



この日、深緑の森の狼一家に家族が増えた。

それは毛色の変わった人の子であったが、大狼は他の子らと変わらぬ愛情を注いで育てた。

兄弟たちもまた、毛色の変わった新たな兄弟を愛した。



その絆は、毛色の違う兄弟が外界に出ても途切れることは無く、

生涯変わることは無かったと言う。



















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