第19話 検証 後編
後編、検証回です。
しかし、検証になってない?
能力についての応用案とかありましたら、感想に書いてくれると嬉しいです。
さて、さっそく検証に移る訳だが。
その前に、新たに使用可能になった技能を確認しておこう。
まずは深狼の咆哮だ。
これは名前そのままの、咆哮による威嚇行動だ。
深狼の技能は、深狼固有の力を必要とする。
俺は長年深狼と共に生活し、ほんの僅かにだが力が染み込んだようで、技能自体は獲得できた。
しかし本来なら、声に力を乗せて対象にぶつけ、対象を硬直させるものだが、
俺自身に深狼の力が僅かにしかないので、この技能はただの威嚇程度にしかならない。
実に残念な技能だが、ただ叫ぶより効果はあるようだ。
他の深狼技能も似たり寄ったりだろう。
次に大いなる獣の眼光。
力を乗せた眼光で対象を麻痺、或いは即死させる技能だ。
もっともこの技能も、深狼の力を僅かにしか持たない俺には、ただの睨みつけにしかならない。
一応、自分より弱い相手の行動を縛る呪縛効果はあるようだが、現段階ではその威力は
未知数といえるだろう。
いまいち、使えるかどうか解らない技能だ。
そして獣の本能。
これは、野生の勘のように、一瞬の判断力や危険感知を向上させるもののようだ。
高Lvなら未来予測すら可能なようだが、如何せんMAXLvが1なのでそこまで効果は高くない。
せいぜい、少し勘がよくなる程度だが、ないより幾分ましだろう。
さて、新たな技能の確認はこれだけでいいだろう。
次は、いよいよ能力検証だ。
自身の能力がどれ程のものなのか、確認しておく必要がある。
まず第一に、重力操作だ。
能力の意味は名前の通り、重力の操作。
しかし、重力の操作といっても、どこから何処までが可能なのか確認していない。
発動条件は?
有効範囲は?
効果時間は?
何が可能で、なにが不可能か、まずはそれを検証しよう。
まず、発動条件の確認だ。
これは既に試している。
まず、能力を使用するには、声に出して発動キーとなる言語を発しなければならない。
重力操作の場合は、「付与」が始動キーの1つとなる。
これは時間操作も同様だ。
始動キーとなる言葉と、次に使用したい技能の名前を口にする必要があるようだ。
頭の中で思考するだけでは発動はしない、必ず言葉にしなければいけないようだ。
また、続けて使用する場合は、前の能力の効果時間中ならば技能の名前のみで良いようだ。
時間停止中に、重力操作を使う事は、事実上不可能だが、
重力操作使用中に、時間停止を使う事は可能だ。
有効範囲だが、試した限りでは今の所自身の周囲と、俺が触れているものに限られるようだ。
技能にレベルが設定されている事から、LvUPすれば変化が見られる可能性もある。
今の所はそれでいい。
LvUPしてからもう一度確認する必要があるだろう。
効果時間、能力を使用すると僅かだが疲労する。
駆け足した低度の疲労感だが、確かに能力を使用すると疲労するようだ。
所謂、MPとかのように、能力使用にはスタミナを消費している模様。
ずっと能力を使い続ける事は出来ないようだが、これは鍛錬次第で改善できる。
体力次第で、効果時間を伸ばせる事がわかったのは行幸だろう。
次に、神の言っていた能力使用中の防御だ。
神は、能力の使用中は傷つかないと言った。
これの確認をしておかなくては、危なくて能力を乱用出来ない。
俺は平らな地面を探し、そこの土を掘り起こし柔らかくしておく。
「付与」
始動キーを唱え、使用技能の選択を行う。
「重力操作」
まるでコマンド選択のように感じた。
すると、自身の中で何かが蠢くような感じを受ける。
これで既に能力は発動している。
あとは、能力の可能不可能の確認だ。
まずは、重力のベクトル操作。
これは既に使い慣れたものだ。
兄弟たち相手に、早すぎる動きに追いつく為に使用していた。
簡単に言って、重力の向きの操作である。
今俺の重力は、大地に向かって掛かっている。
コレを上に向ければ、俺は空を飛べる訳だ。
いや、どちらかと言えば空に落ちるといった方がいいのかも知れない。
ベクトルの向きを無にすれば、所謂無重力のように、ふわふわとその場で漂う事になる。
もっとも、風などの圧力は受ける。
その場合、圧力の掛かったほうに移動してしまう。
常にベクトル操作を行えば、空間を自由に動き回れるのだ。
それこそ空を自由に舞い、縦横無尽に飛び回る事も可能になる。
今の所、閉塞した場所でしか試していないので開けた場所で行うには勇気がいるが。
ふわり、と身を浮かべる。
少し上昇し、身体を仰向けにする。
そのまま、柔らかくした土の上にベクトルを操作して叩きつける。
「っ」
ドスンと音がして、身体に衝撃を受ける。
だが、思ったような痛みはなく、地面に叩きつけられた感触もなかった。
あったのは、衝撃のみで、一切の痛みは感じなかった。
「ふー」
まずは問題ない。
徐々に高度を上げ、何度か試す。
森の木ほどの高さから叩きつけても、痛みも感触もなく衝撃のみにだった。
一応、能力使用中の守りは働いているようだ。
次に、ある程度の高さで能力を切る。
自由落下に任せて足から落ちる。
ドスンと、衝撃と足に鈍い痛みを感じた。
どうやら、途中で能力が切れた場合、防御も効果を失うらしい。
「いたた」
ちと高すぎたか。
鈍い痛みを抱えて、これは貴重な情報となった。
能力の使用中は無敵でも、切れた場合はその限りではない。
不慮の事故での死亡率が高くなった事を意味する。
害意ある攻撃は無効化されても、自然災害や、事故などの突発的な自体には弱いらしい。
これが故意によるものなら防御も可能だろうが、一応防衛手段を考えておいた方がいいか。
高所から落ちれば死ぬ。
そんな当たり前の自体を突き付けられた。
能力の使用は慎重に行うべきだろう。
防御手段の構築。
これには、案がある。
昔、ゲームだったかアニメにあった重力を使った障壁の構築だ。
自分の周りの重力を高めて、丸い球体のように大気密度を圧縮できないだろうか?
自分の周りだけ膜のように空気の球体を作るのだ。
そうすれば、空気の壁で物理的なものは弾けるのではないだろうか?
応用すれば、水中でも活動可能になるだろうか?
名前はどうしようか?
あれの名前も、もう随分前の記憶なので曖昧だ。
とりあえず、空圧障壁でいいだろう。
イメージを思い描き、重力を操作する。
大気を高圧縮したためか、目に見える形で半透明の膜のようなものが俺を囲む。
なんだがあっさり出来たが、1人では有効か判断が出来ない事を思い出した。
しかし、見た目はなかなか頼もしそうだ。
渦巻く空気の渦とでも言えばいいのか、このまま何かにぶつかったらどうなるだろうか?
なんか危ない事になりそうな気がする。
とりあえず、出来たと言う事で満足しておこう。
重力による空気の圧縮が思いのほか上手くいった。
これは、使いようによっては凄い武器になるのではないか?
使えるのが、自分の周囲だけとはいえ、重力など惑星上ならば何処にでもある。
空気のように当たり前のものだ。
これをうまく使えば、ブラックホールのようなものだって作り出せるかも知れない。
まあ、ブラックホールなど惑星上で作れば大惨事確実だが、
俺の力は世界に影響を与えない。
その世界が惑星を指すなら、ブラックホールを作り出しても
被害を出さないのではないだろうか?
不味そうなら、直ぐに止められばいいと考え、試してみる事にした。
イメージは、掌サイズの珠。
光すら吸い込む高重力の渦。
「……だめだな」
これは出来ない。
イメージが足りないか、俺の知識が間違っているのか、これは出来ないと判断した。
俺の知識じゃこんなものか、こんな事ならもっと勉強しとくんだった。
能力の応用など、知識がなければ出来ないし、取り合えず思いつきで試してみよう。
ま、ダメで元々だったので損はない。
元々、ゲームなんかで聞きかじっただけの知識で出来るものでもないだろう。
すっぱり諦めて、じゃあ重力によって空気を圧縮し指向性を持たせたらどうなるか試してみた。
これは少しイメージが掴みにくかったので、剣を使って行った。
剣身を砲身の様にイメージ。
切るタイミングで発射する感じで。
振る!
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!
「…………………………」
なにが起こった?
大地が抉れ、一直線に断層が出来ている。
深々と抉れた地面と、もうもうと舞う土煙の中で、俺は唖然としていた。
街から離れた場所でよかった。
結構大きな音がしたが、流石に街までは聞こえないだろう。
朝靄が出てて良かった。
心底そう思った。
しかし、予想外の出来事が起こってしまった。
高重力で圧縮した空圧を剣身から射出した。
そう言う事なのだろうが、かまいたちの様に剣の刃の様な形で飛んで行ったと言う事だろうか?
一直線の断層が、途中から扇のように広がったクレーターの様に途切れている。
あの辺で、能力の効果が切れたようだ。
扇のように広がっている傷跡は、圧縮した空気が解放されて扇状に広がった結果だろう。
地面の抉れ方からして、広範囲に向けた攻撃にも利用出来そうだ。
飛んでいった光景は、障壁と違って目に見えなかったので判断に迷うが、これはこれで有りだろうか?
とりあえず、切り札的にものが出来たと思っておこう。
見えない空圧の刃か、なんと名づけよう?
とりあえず保留。
しかし、これは色々応用が利きそうだ。
今後の課題としておこう。
しかし、空気でこれならば、物質でやったらどうなる?
光も圧縮できるかな?
たしか、ブラックホールのような高重力なら光すら飲み込むんだよな?
無理か、そんな重力操作出来んし。
一瞬、光を圧縮しレーザーのように打ち出すイメージを作ったが頭を振って諦めた。
なんか出来そうな気がしたが、何処かからか科学舐めんなとか、ファンタジー舐めんなとか
聞こえてきそうなので止める事とする。
誰に言い訳してんだ、俺?
単純に、武器だけ重くしてぶつけるのでもありだろう。
圧縮した力も、手元を離れれば効果を失うようだが、一定時間の猶予はある事が判明した。
この辺を踏まえて、色々な力の使い方が出来るかもしれないな。
これも、今後の課題としよう。
色々と考える事は出て来たが、時間が押してきた。
とりあえず重力操作は、とりあえずこれくらいでいいだろう。
次に時間停止だ。
発動の仕方は、重力操作と同じ。
有効範囲ば自分自身。
効果時間は、息を止めていられる間と条件は少々厳しい。
だがこれは、肺活量を鍛えれば伸ばす事ができるだろう。
今の所は、せいぜい50秒から60秒といった所か。
自分以外の時間を停止し、停止した時間の中を自由に動ける。
反面、息を乱せば効果は失われ、止まった時は動き出す。
基本的には、重力操作のベクトル操作と同時に使った方が効果は高いだろう。
これ能力の応用は思いつかないな、とりあえず思いつくまではこのままでいいだろう。
肺活量の鍛錬てのはどうやるんだろうな?
息でも止めてればいいのか?
その辺も色々試して見るしかないか、と考えやる事の多さにげんなりした。
そして、最後に究極なる防害の盾だ。
害意ある攻撃を防ぐ究極の盾。
こう聞けば、確かにすばらしいものだろう。
一応、幾度も助けられたので文句は言えないが。
それでも色々穴のある技能だ。
これは既に、幾つか試しているが、まず害意のないものは防げないという事。
突発的な出来事には対処してくれない技能だという事だ。
害意とは、一体何処までが害意と言えるのだろうか?
明確に敵意は、害意と言えるだろう。
警戒心による、猜疑心も害意となるかも知れない。
しかし、無意識的な行動や、事故のような接触は害意とは言えない。
結果、究極の盾と言いつつ、防げるのは明確な攻撃意志のみと言う事がわかった。
その為に防御法の構築は急務だが、如何せん1人で出来る事には限界がある。
この情報は頭に叩き込んで忘れないようにしないと命に関わる。
この技能に関しては、あまり宛にしないのがいいだろう。
あって便利だが、これに頼りすぎるのは問題だ。
あとは色々と試すしかあるまい。
日が昇り、頭上を越え、傾いてきた。
そろそろ戻らねばならない。
街の門は夕暮れにはしまってしまう。
やはり、と言うか、やっぱりと言うか。
究極なる防害の盾は、あまり使えない事がよくわかった。
試しに地面に剣を叩きつけ、石礫を自分にぶつかるように試してみた。
だが、この場合でも盾は発動せず、俺の身体に当たった。
これは何かしらの副次効果は、俺自身に影響を及ぼすという事だ。
炎で火傷は防げても、炎の熱までは防げないみたいなものだろう。
穴だらけだ。
おのれ神め。
これが狙ってやったのなら一体なんの為に?
そうでないにしても、少々いい加減な仕事ではないか。
沸々と神への不信感は募る。
しかし、今更考えても仕方のない事か。
今は、明日に迫った昇級試験に全力で挑もう。
ランクが上がれば出来る事が増える。
それは、知識を得る上でも重要だし、経験を得るためにも必要な事だ。
今回の検証はここまでだ。
結局大した事は出来なかった。
一応、収穫らしい収穫があったのが救いか。
技能Lvが上がれば、出来る事が増えるだろうか?
これからの成長次第で、選択肢が増えるならばいいがと俺は街に向かって歩き出す。
さて試験は明日だ、冒険者としての最初の一歩だ。
門前にて、守衛に今朝方の爆音の事を聞かれた。
知らぬ存ぜぬで切り抜けたが、なんとも気まずいものだった。
今度からもっと周囲に気を使うべきか。
ほんとに、課題は多い。
後書き関連が不評そうなので、必要事項がある場合は
活動報告に上げようと思います。
また、他の話の前書き、後書きも随時消していきますので
宜しくお願いします。




