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冒険とかしてみる。  作者: 日向猫
二章 冒険者、はじめました
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第17話 スタートライン





 まるで死人のようだ。

翌日、顔を洗おうと水を汲み、覗き込んだ際に見た己の顔を

そう評価した。

青白く血色の引いた顔(褐色に近い色のなのでわかり辛いが)。

死んだ魚のような目。

全体的に生気がない。


昨晩は遅くまで寝付くことが出来なかった。

隣のベットで眠るおっさんに、これほど殺意を抱いた事はない。


余計なことが、次から次へと頭を過ぎる。


今更考えても仕方のない事まで。

無性に暴れだしたい気分になった。


なんとか寝付いたのが明け方近く。

今日はほとんど眠れなかった。


冷たい水で顔を洗う。


今すべき事は、基礎能力の向上と

力の検証。

それと、どれだけ守りが有効かという事の確認。


とりあえず急いでするのはその三点。


それに平行して、ギルドの依頼と、日々の鍛錬もせねばならない。


期間は昇級まで。

それ以後は、時間が取れなくなる可能性もあるのだ。


日々のスケジュールがおっさんの手によって組まれている。

生活を保障されている俺にとって、それに逆らう事は出来なかった。

借金もあるし。



そんな訳で、能力の検証をしたい訳だが場所がない。

人目につく場所で、力を使う訳には行かない。

俺は、未だこの世界の一般常識を知らぬ身だ。

そんな中で、異端ともつかぬ力を揮えばどうなるか?

その先を想像することが出来ない以上、無闇に使うべきではない。


一応、スケジュールの合間には休息日が設けられている。

今はそれを待とう。

守りの検証も同様だ。


とりあえず今やれそうなのは、基礎能力の鍛錬だ。

どうもLvは、ステータスの総合量から計算されている様だ。

レベルが上がるから能力が伸びるのではなく、能力が上がるから

レベルが上がるのだ。

身体を鍛えれば筋力が伸びるように、何かしらの行動が

経験値を貯め、基礎能力の上昇に繋がっているらしい。


面倒な、どこの育成ゲームかと思わなくもない。

しかし、この状況を希望したのは自分自身。

誰かにあたることも出来ずに、過去の自分を殴り飛ばしてやりたい気分だった。



とにかく。

今は基礎能力の向上こそ急務なのだ。

ここ一週間の間に、知力と精神力が急上昇していた。

結果、今の現状があるわけだが。

ここ一週間と言えば、接客の依頼バイトに肉屋の依頼バイトだ。

知力が思考力を意味するなら、接客のように、柔軟な思考を必要とするものを

行えば上昇すると見ていい。

ここ一週間で色々学んだから、知識も重要かもしれない。


精神力はどうだろう?


肉屋の依頼バイトが、関係しているのは間違いない。


抵抗感を感じるものを、行えばいいのだろうか?

肉屋の仕事は、食材となる肉を切り分ける作業だ。

売れるように、下ごしらえをする工程も作業に含まれる。

血抜きをしたり、皮を剥いだり。

始めは抵抗感を覚えた。

つまりそう言う事だろう。


精神力が、決断や精神的な抵抗力に大きく影響するなら、

抵抗を感じる事をすれば鍛えられるという事か。

嫌だが仕方ない。

そう割り切って動くしかないのだ。

どこに落とし穴が潜んでいるのか、そんなものは歩くまで解らないのだから。


備えられることは、備えられる内に。



午前は、おっさんと鍛錬を行う。

まず基礎的な、戦闘術を叩き込まれた。

この体の学習能力は異常だ。

乾いた土が水を吸い込むように、技術を吸収していった。

足捌きや剣の振り方、弓の取り扱い。

無手での戦い方も学んだ。

おっさんは持てる技術を余さず俺に伝えるように、あらゆる技術を教えてくれた。

技術は大体身についた。

後は実戦で経験を積むだけ。

一週間という短い間に、こと戦闘に関しての技術力は凄まじい上昇をみせていた。


午後は仕事である。

おっさんの方針で、一日一件は依頼を受けなければならない。

朝食を済ませ、おっさんと共にギルドにやって来た俺は、ギルドの入り口で

おっさんと別れた。

おっさんはおっさんで仕事がある。

子供の引率よろしく付き従う訳じゃない。

俺だってそこまで子供じゃない。


受付にて、ベキーのおばちゃんに仕事をもらう。

基本雑用中心。

依頼は、日雇いバイトのようなものがほとんどだった。

中でも、接客や抵抗感を覚えそうな仕事を中心にこなした。


それこそ良い悪い関係なくだ。

汚物処理から、死体の運搬、人が集まる所には人の嫌がる仕事も多い。

しかし、そう言う仕事のほうが身入りもいいし、基礎能力の向上に向いていた。


夜は基礎知識や、一般常識を学んで就寝という流れが出来ていた。

一週間後、出来上がった防具を受け取ると、後は貢献点稼ぎに集中することになる。


この一週間で、基礎的な事は大体学んだ。

まだまだ足りない所はあるだろうが、基礎的な事は十分だろう。

いっぱしの駆け出し冒険者としては悪くない。


後は経験から学ぶしかないのだからとおっさんは言う。

伝えるのは簡単だ、だが真に身に着けるためには経験がいると。


そんな訳で、軽い鍛錬を済ませると、午前も午後も依頼に集中する日々が一週間ほど

続いた。



さらに一週間後。

この街に来て、大体三週間たったある日。

昇級試験を受ける許可が出た。


ここ三週間で基礎能力は大幅に増えた。

ちなみに、今の基本ステはこんな感じだ。


器用度 13

敏捷度 15

知 力 8

筋 力 18

生命力 15

精神力 10


これで満足など出来ないが、短い期間の中ではまずまずだろう。

だが貢献点稼ぎに集中したため、力の検証を行うための休みがなかった。


そこで、試験前の一日を休みに当ててくれるように、おっさんに頼む事にした。

結果、おっさんはそれを許可。

ようやく、力の検証を始める事が出来る。





翌日。

俺はゆっくりとした足取りで、街の外へと向かって歩き出したのだ。



ようやく、スタートラインに立った気がした。





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