閑話XX 神は嘲笑う
くはは、ふははははは!!!
何もない白い空間。
何処までも白く、限りなく続いていくような白の世界。
その中にたった一つの影があった。
かつて、1人の少年によって神と呼ばれた存在だ。
神と呼ばれた存在は、なにがそんなに楽しいのか高々と笑い声を上げる。
神の前には、スクリーンのようなものが浮かんでいた。
よく見れば、スクリーンには1人の少年が映っていた。
かつて、神が異界に放り込んだ少年だ。
神は実に愉快だった。
異界に送った少年は、神に娯楽を与えてくれた。
右も左もわからぬ世界で、自ら科した数値の縛り。
そして神の手によって施された、思考力と判断力を抑え。
それでも生きようと、右往左往する姿が可笑しかった。
愚かな人間が、無様に踊る、そんな喜劇だ。
しかし最近、反応が単調になって来た事に、神は不満を抱いていた。
しかし、そうそう世界に対して干渉など出来ない。
神とは、ただ生み出し見守るものでしかないのだから。
だが、少しの間なら世界を誤魔化せる。
その間に仕掛けを動かすくらい訳はなかった。
飽きが来た神は、抑えつけていた思考と判断力を緩めてやった。
するとどうだ。
あの人間は、自らの愚かさを知り、自身で科した枷に気付いた。
その後の行動がまた笑えた。
大いにうろたえた人間は、なにやら試すように行動を起こした。
その戸惑いと、困惑がまた笑いを誘う。
再び、面白おかしく右往左往しだした人間に満足感を抱いていた。
もっとだ、もっと踊り狂い、世界を引っ掛けまわせ。
この娯楽。
そのそもそもの始まりは、世界から弾かれた魂を見つけた事に起因する。
当時、娯楽という概念を知らなかった神は、その魂の言われるまま、
チート能力とやらを与えて異界に送った。
するとどうだ。
これまで単調で、変化に乏しかった世界の様子が一変した。
かの魂は、チート能力とやらで世界を引っ掻き回した。
急激な流れの変化が、世界に生まれた瞬間だった。
神はその光景から目が離せなかった。
神であろうと、完成した世界の理を大きく歪めることは出来ない。
少しの間、誤魔化すだけだ。
理に干渉しようとしても、すぐに弾かれてしまう。
なんとも忌々しいものだ。
自身が作った世界でも、完成してしまえば上の管轄になる。
自分には、ただ見ている事しか出来なかった。
だが、理から外れた魂は、容易にその理を捻じ曲げた。
そこからは喜劇のような展開だった。
世界の異物として、世界の害悪となった魂は、世界中の生物から追い掛け回された。
追われて追い詰められて、チート能力とやらでも限界はあったようだ。
結果、その魂は、世界を道連れに消滅した。
なんと楽しい光景だったのか。
長き時、この何もない空間にあって、ただ世界を見つめていた。
神々の世界にあって、自身は唯一無二の存在ではなく、幾億の神の一柱に過ぎない。
ただ長き時を、観察と創造に当ててきただけ。
それだけの存在だった。
時折、世界に干渉し、波風立ててみても、変化など起きもしない。
新たな世界を作っても、直ぐに完成して干渉出来なくなる。
つまらない。
自分で作った世界なのに、自分には干渉を許されない世界。
ただ覗き見るだけの、実につまらないものだった。
そう思ってどれ程立っていただろうか?
そんな時、神は娯楽と言うものを手に入れたのだ。
あの魂以後、外れた魂を見つけては、チート能力とやらを着けて異界に放り込んでみた。
何度、そうしただろうか?
回を重ねる事に、新鮮味は薄れ、退屈感は増していった。
大体の場合、魂たちが求めるのは同じものだった。
結果、結末は大体同じものになる。
これではいけない。
そう結論付け、積極的な干渉を思い立つ。
これまでは言われるがまま、能力や身体を与えただけだったのだ。
次回からは、此方から要望も付け足して送ろう。
そう考えるようになった。
初めての試みであるため、最初は手探り状態だった。
反発する者も居れば、受け入れる者、そもそも此方の言う事を聞かないもの様々だった。
器をこちらで用意すれば、たとえ世界の中でも理への干渉は極力減らす事が出来る。
直接手を出せずとも、器に干渉するには十分な時間だった。
だから器に仕掛けを施す事を思いつく。
それなら、干渉できずとも、ここぞと言う時に仕掛けを動かし、反応を楽しむ事が出来る。
つまらなくなったら、起爆剤代わりに使えばいい。
結果、世界の中で右往左往する魂たちが増え、それを見て愉悦に歪む。
神は楽しい楽しい、娯楽を手に入れたのだ。
人の世にある言葉で、ギブアンドテイクといったか?
其れなりの能力を付けてやる代わりに、此方は娯楽を提供して貰うのだ。
だが時折、思い上がった者も出てくるのが問題だった。
何をトチ狂ったのか、この神に挑む馬鹿者が現れたのだ。
下位の存在が、上位の存在に挑む愚。
軽く蹴散らして、魂ごと消し飛ばしたが、その結果ひとつ学ぶ事が出来た。
あまり強い力は、与えるべきではない。
増徴し思い上がるし、なにより見ていて面白くない。
そうなった時の為の仕掛けも施そうか?
制約のある力で、右往左往する様を見るのもいい。
それに興味がなくなれば、棄てればいいのだ。
世界は無限に存在する。
1つ、2つ壊れたところで、なんら問題ないのだから。
干渉の出来ない世界など、あってもなくても同じものなのだから。
そして見つけた今回の魂は、自身から枷を嵌めると言う。
所謂、縛りプレイを申し出てきた。
実に楽しい提案だ。
ついでに思いついた幾つかの仕掛けを施す。
思考力と判断力を抑え、精神的成長も押さえ込まれる人間。
変わりに、強靭な生命力を誇る器を与えてやる。
内面に仕掛けを施したので、破格のサービスに肉体的な成長度にも手を加えてやる。
これで文句あるまい、望みどおりの強靭な器だ。
そう簡単に死んでもらってもつまらないし、と自分本位な考えを抱く。
自身の都合のいいように、手を加えていく神。
魂に違和感を感じられないように、細心の注意を払って誤魔化した。
そして、自身の状態に気付く事無く、愚かなまま行動を開始した人間。
動物ひとつ捕らえるのに四苦八苦し、命のやり取りで苦悩する様は実に愉快だった。
だが、それも次第に反応が単調になる。
そこで拘束の一部を解いた訳だ。
画面の中で、苦悩する人間を見つつ。
この人間の、これからの行動に胸が弾む。
未来など見通す目など必要ない。
この楽しき娯楽が、意味を失ってしまう。
他の神々はなにが楽しいというのか?
未来など見てはつまらないだろうに。
私はただ、愉悦に歪む口に手を添える。
私はただ発破をかけるだけ、その結果、人がどう動くのか。
それを見て楽しむのだ。
さぁ、せいぜい踊って送れ。
狂る狂る、狂る狂ると、面白おかしく。
楽しませておくれ、お前は私のお気に入りの人間なのだから。
真っ白な空間にただ1人。
とこまでも続く白の世界で、神は1人嘲笑う。




