第1話 俺が今こうしている訳
俺こと、ロム・ルフは元日本人の転生者である。
まぁ所謂テンプレ的なあれだ。
ネットで溢れているお約束的転生もの。
まさか自身が体験するとは思わなかったが。
すでにお気づきの方もいるかも知れないが、俺は所謂オタクである。
ゲームとか好きです、アニメとか大好きです。
ラノベもジャンル問わず読み漁った。
ネットゲーに嵌って引きこもった。
まぁ、そんな事してればリア友とも疎遠になる訳で…。
友達どころか、家族とも疎遠になり、ここ数年碌に会話してませんでした。
会話といってもネットゲで画面越しにキーボードで打ち込む会話だけ。
ここ数年喋ってません。
どうしてこうなった。
まぁ、自業自得なんだが。
事の始まりはお約束過ぎるくらいお約束的なものだった。
大学受験で挫折を味わい、やる気を失って趣味に逃げて引きこもった。
はは、俺どうしようもないダメ人間じゃん。
親の脛齧って生きてるダメ人間。
昔テレビとかで、引きこもりの特集番組見て、散々バカにしてたのに
今ではおれ自身がそれその物になっちまった。
はたと、今更気付いてしまった。
いや、違うな。
今更正気に返っちまったんだ。
正気づいて始めにしたのは、今の自身の確認だった。
ぼさぼさの頭に伸び放題の無精髭。
散らかり放題の薄暗い部屋。
煌々とついたディスプレイだけが明るい。
まんまオタクの引き篭もり部屋や!
ああ、頭を抱えて自問自答。
俺今まで何やってたっけ?
1.アニメを見る
2.ネットゲーをする
3.飯食う
4.たまにトイレ、風呂に入る
以降これを2年間エンドレスで繰り返す。
思い出して悶絶した。
のた打ち回った。
今更どんな顔して両親に会えと。
ふと、そう言えば両親が俺の事を怒鳴り付けた記憶が無いことに気付いた。
厳しい父が、今の俺になにも言わないのはなんでだ?
見捨てられた?
いや、だったらわざわざ部屋に食事を持ってくる事もないよな?
もしかしたら俺が立ち直るのを待っててくれた?
そんな希望がムクリと湧いた。
部屋のドアを開き、1階のリビングに向かう。
ドクドク逸る心臓を押さえ、ゆっくりとリビングの扉を開く。
見ると、正面にはソファーに腰掛け朝刊を読む父と、朝食の支度に勤しむ母の姿があった。
「お…は、よう」
うまく言葉が出なかった。
なんか顔が熱くなる、俺ってこんなだったっけ?
声に気付いて俺を見た両親の視線が痛い。
「あらあら、おはよう」
もう50近いのに若々しい母が、嬉しそうに挨拶を返した。
それとは対象的に、父はむっつりとしたしかめっ面でジロリと俺を見る。
「………」
居た堪れない。
自業自得とはいえ、視線が痛い。
すると、ふぅと息を吐いた父が
「もういいのか」
と呟いた。
ああ、やっぱり待っててくれた。
まだ俺はやり直せる。
「うん、ごめん迷惑かけて」
ああ、くそ、目頭が熱くなる。
鼻がツーンてする。
泣くな俺、格好悪いぞー、と思ったが今更か。
父は立ち上がり俺に近づくとポンと俺の肩を叩き
「母さん、ご飯にしよう」
そういって俺を席に誘った。
その日俺は2年ぶりに家族で食事をした。
うん、それで終わってれば俺はやり直して立派に生きて行けたんだろうし、
今こうして居る事もなかっただろう。
すべてはあのくそったれの神さまのせいだ。
ソレからの一週間は目まぐるしく過ぎた。
2年の遅れを取り戻すため、部屋を片付け予備校に通う準備をした。
今更大学とかとも思ったが、もう一度挑みたいと両親に告げると
二人は特に否定する事無く受け入れてくれた。
だが2年もの間引き篭もっていたのは大きい。
学ぶ事は多いし、取り戻すのも一苦労だ。
仕方ない、自分の責任なのだからと、心機一転新しい日々を歩み出した。
歩み出したはずだった。
最初に異変に気付いたのは俺だった。
夜遅くまで勉強していた俺は、なにか焦げ臭いなと感じた。
両親は既に寝入っているはずだ。
おかしいと思って部屋を出ると、1階は火の包まれていた。
火事だっ!!
警報機がならなかった?
誤作動?
逃げなきゃと思うと1階は火の海だ。
このままでは2階もやばい。
慌てて両親を起こすと2階の部屋中の布団をかき集めた。
窓を開き布団をを落とす。
これで少しはましな筈だ。
父に先に行ってもらった。
父は問題なく降り、続いて母が。
しかし、その時ドオオンと爆発音が響きモウモウと煙が立ち込めてきた。
ガスに引火し爆発したのだろう。
そして火の手が強くなって一気に燃え広がった。
ゲホゲホ咳き込みながら、母を抱えて下に下ろす。
落ちた母を父が抱き上げ、俺ににも早く降りるように促す。
俺も頷き、窓に乗り出した瞬間、身近で爆音が響いた。
あ、スプレー缶か。
いつだったか貰ったスプレー缶が部屋の隅に放置されてた。
何本かあったのが一斉に破裂したのか。
ついてない。
衝撃で吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。
いてて、頭がクラクラする。
「_______________!!!」
声がする。
父の声だ。
朦朧とする意識の中で、俺が最後に聞いたのは父の声と遠くから聞こえるサイレンだった。
その日、閑静な住宅街で連続放火事件が発生した。
犯人は近所に住む18歳の高校生で、受験勉強からくるストレス解消のために犯行に及んだものと
見られる。
六世帯に渡る民家が全焼するも奇跡的に死者は1名のみであったという。