第12話 冒険者ギルド
第3話にて、感想にありました外的要因うんぬんの説明を追加
させて頂きました。
読まなくとも、作品に特に影響はありませんが、若干の違和感は
拭えないかも知れません。
気にならない方は、読み飛ばしてしまっても構いません。
気になる方は、確認をお願いします。
二日の行程を経て、俺達は商工都市フリアスに到着した。
途中、魔物に襲われるなどのトラブルもあったが、特に問題も無く到着した。
さすが熟練冒険者と言うべきか。
コボルトのような犬人間の群れを、難なく退治したおっさん。
一応俺も逃げ回りながら、弓矢を構えたコボルト相手を相手に、
石を拾って投げつけたりと援護したものの、まるで必要がなかったようだ。
コボルト(仮定)6匹など、熟練の冒険者にとっては、
路傍の石に過ぎないような活躍だった。
瞬く間に切り伏せられたコボルトたち、魔物とはいえ、命が失われた現場にいながら、
俺はその見事な動きに見惚れていた。
これが冒険者というものなのかと…。
そんな感じで道中は問題なく進み、今こうしてフリアスにいる。
商工都市フリアス。
偉大なる先人フリアスが興した街。
商人であり、鍛冶師でもあったフリアスは、自身の拠点とすべく1つの町を作った。
それが時と共に、人が集い、物が集まって、商業と工業が盛んな町になった。
その結果が、今では商工都市と呼ばれるフリアスという訳だ。
とまあ、道中で聞いた話はともかく。
俺は今、そんなフリアスの街中をおっさんに連れられて歩いている。
人通りの多い大通りを行く。
物珍しいが、流石にキョロキョロして逸れましたなんて、いい年して恥ずかしすぎる。
そんなお約束してたまるかと、おっさんの後を付いて行った。
そうそう、そう言えば、どうも他人のステは確認出来ないようだ。
おっさんも、道行く人も確認出来なかった。
神はテストケースって言ってたし、ステ表示があるのは俺だけなのかもな!
おっさんは1つの大きな建物の前に立ち止まり、俺を振り返った。
「いいか坊主、ここが冒険者ギルドだ」
建物を示して、そう告げるおっさん。
頷きを返しながら、俺は建物を見る。
黒塗りの壁に、デカデカと看板らしきものが掛かっている。
この世界の字はまだ読めないが、恐らく冒険者ギルドとでも書いてあるのだろう。
それを示すように、看板の横に、交差した剣と剣の下に詰まれた金貨の絵が描かれていた。
看板の下にぶら下がる、酒瓶マークの看板は酒場も兼ねているのだろう。
建物に入るおっさん、俺もそれに続いた。
建物の中は、喧騒に包まれていた。
リアルモン○ン来たコレ。
受付には受付嬢達がおり、冒険者らしき人物の相手をしている。
他にも、依頼人らしき人影も見える。
視線を移せば、掲示板らしき物の前に冒険者の人だかり。
更にその向うには、酒場らしき場所が見えた。
「あまりキョロキョロするな、余計な因縁をつけられるぞ」
おっさんの言葉に、視線をさっとおっさんに戻す。
そう言う事は先に言え、べ、別にびびってる訳じゃないぞ、俺は!
おっさんは、そんな俺の内心を見透かすように苦笑して「ついて来い」と促した。
内心、おっかなびっくりついて行く。
受付の前を通り過ぎ、一番奥の離れた受付に向かうおっさん。
「やぁベキー、元気か」
手を挙げて、受付嬢…とは言いづらい年配の女性に挨拶を送るおっさん。
「おやまぁ、カリュートかい、お早いお戻りだねぇ」
おっさんに笑顔で答えながら、ベキーと呼ばれた女性は答える。
「はは、思いのほか早く用事が片付いたんだ」
「そうかい、そいつはよかったよ。で?アンタがこの受付に用があるとは思えないけど?」
おっさんに笑いかけながら、俺に視線を寄越すおば、げふんげふん、女性。
値踏みされている様で気分が悪い。
「ああ、用があるのはこいつだ」
俺を示して、受付の前に立たせる。
「ベキー、こいつはロム・ルフ。坊主、彼女はベキーだ、これから世話になる挨拶しとけ」
そう言われて、俺も彼女に頭を下げた。
「ロム・ルフ、よろしく」
おっさんとの会話で多少慣れたが、やっぱり喋り辛い。
長年の引き篭もりの弊害か。
それでもベキーは気を悪くした風もなく、目元に笑みを浮かべ
「おやまぁ、またとんでもないのを見つけてきたもんだ、こちらこそよろしくね」
なにがとんでもないのか解らんが、にこやかに挨拶を返してくれた。
まさかと思うが、彼女は俺がとんでもない引き篭もりだと見抜いたのだろうか?
さっきの、探るような視線はその為か?
そんな事を考えていると、ベキーは俺から視線を外し、おっさんと向き合う。
「じゃあ、この子の登録でいいんだね?」
「ああ、よろしく頼む」
おっさんはベキーにそう返しながら、小さな袋から硬貨みたいな物を取り出して渡した。
「確かに」
硬貨を確認し、ベキーは頷く。
その後、ベキーが俺について来るように促した。
一瞬、おっさんに視線を向けるが
「行って来い」
というおっさんの言葉に従う事にした。
「ほら、おいで」
ベキーの言葉に従い、建物の中を行く。
細い通路の先で奥まった部屋に入る。
少しドキドキした。
「ほらここさ」
示された部屋の中はがらんとして薄暗く、中央に珠の様な物が鎮座していた。
「この珠を両手で挟んで覗き込みな」
ベキーは部屋に入ると、珠に後ろに回りそう促す。
その言葉に従って、俺は珠を両サイドから両手で挟み覗き込んだ。
掌に暖かな感触がする。
冷たいかと思われた珠が、暖かかった事にびっくりした。
この世界は不思議が多い。
不思議な珠を見ていたら、珠の中央が光り、一瞬室内を照らす。
行き成りで、目がチカチカする。
ぱちぱちと瞬きをして、違和感を消す。
「もういいよ」
ベキーの言葉で、珠から手を放し、自分の手をまじまじと見つめてしまった。
再び珠を伺うと、珠の中から、薄いプレートの様なものが浮き出てくるではないか!
一体どう言う構造になっているんだ!
ベキーは、プレートを掴むと俺に差し出してきた。
「ほら、無くすんじゃないよ」
恐る恐る受け取り、プレートを確認する。
プレートの表面には、この世界の文字と、俺の顔が映っていた。
もしや、この珠は此方で言うカメラなのか?
あの光はフラッシュだったのか?と、首を傾げた俺だった。
それと、プレートの文字は読めないが、何故か何と無く意味は解った。
内容はこんな感じだ。
ロム・ルフ(聖名)
フリアス冒険者ギルド属
ランクF
受諾依頼なし
備考、犯罪歴なし
というものだった。
顔写真と名前だけで、生年月日は無いが身分証みたいな感じだ。
つまりコレが、おっさんも持っていたギルドカードと言う物なのか。
あと聖名ってなんだ?
わからん事ばかりだ、この世界は。
もう深く考えるのは止めよう、無駄に疲れるだけだ。
半分、諦めの境地にいる俺である。
ベキーと共に部屋を出て、受付の前に戻る。
受付前で待っていたおっさんと合流した。
「その様子だと、きちんと登録出来たみたいだな」
疲れた感じの俺の様子に気付いたのか、苦笑と共に出迎えられた。
もしかしたら、俺の様な思いは、誰もが通る通過儀礼なのかもしれない。
「さて、今日はもう休もう、続きは明日だ」
そしておっさんと連れ立って外に出る。
今日はなんだか疲れた。
こんなので本当に冒険者などやって行けるのかと不安に思う俺だった。
フリアスでの、最初の一日は、そんな風に終わった。