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冒険とかしてみる。  作者: 日向猫
一章 たのしい狼一家
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第10話 そして旅立ちの風が吹く







 「うわ、やり過ぎた」


兄弟とじゃれ合っていて、気付いたら周囲が凄い惨状になっていてた。

木は折れ、地面はえぐれ、岩は砕けていた。


やばい、母に叱られる。

母は怒ると怖いのだ。


戦々恐々としていると、兄弟が不思議そうに聞いてきた。


『黒、どーした?』


『いや、見ろよ、周りボロボロだろ?母に怒られるなって』


一瞬、怒られるのを想像したのか、兄弟の全身の毛が逆立つ。

大きな身体を縮こまらせて、何処と無く潤んだ目で言った。


『怒られるのやだ、どーする?』


『どーにかして、この惨状を直さなきゃ』


俺は、兄弟の身体を撫でながら答えを返した。


『それなら任せろ!』


尻尾を振りながら兄弟が前にでる。


『なんとかなるのか?』


疑問に思った俺は聞く。


『精霊に命じる』


精霊?

この世界には精霊なんているのか、もうなんでもありだな、ドラゴンだっているのかも。

さすがファンタジー世界だ。

そんな事を考えていると、兄弟が尻尾をピンと立てたのが目に入った。


するとどうだろう。

砕けた岩が元に戻り、えぐれた大地が復元し、折れた木が再生した。


「………」


言葉もないとはこの事か…。

これって魔法か?


『これは魔法なのか?』


『違う、精霊に命じただけ』


要領をえない。

もういい、チート生物って事で納得しておこう。


周囲をみれば元通りの光景。

ほっと胸を撫で下ろした。

これでとりあえず、叱られる事はなかろう。


安心した所で、日が傾いて来ている事気付いた。


『そろそろ帰ろう』


兄弟に促し、家路に付く。

少し進んだ所で、兄弟が着いて着ていない事に気づいた。

振り返ると、草むらに顔を突っ込んで何かしている。


『おーい』


呼びかけると、振り向いた。


『帰ろうっ!』


とてとてと近づいてきた兄弟に尋ねる。


『なにかあった?』


『木の実落ちた』


と返す兄弟。

どうやら、落ちた木の実を見ていたらしい。

まぁ、好奇心旺盛な兄弟だ、なにに興味を惹かれても不思議ではないだろう。

少し未練でもあるのか、時折振り返る兄弟を尻目に家路についた。



結論から言えば、俺たちは母に大目玉を喰らった。

森を荒らした事、それを隠そうとした事によって。

相変わらず、母の咆哮は体の芯に響く……、がくり。





















数日後。

俺はひとり、母に呼び出されていた。

何時にもまして、母の纏う空気がピリピリしている。

俺、なんかしたっけ?


『黒』


『は、はいっ!』


ビクッと、反射的に返事をする俺。


『お前も随分大きくなった』


『お、お陰様で』


て、なに言ってんだ俺。


『お前も、そろそろ外界に出てもいい頃だ』


『え?』


『優しすぎるお前を、外界に出すのは早いと思うたが、

 最近では大分マシになっている』


『はぁ』


突然の申し出に、困惑を隠せない俺は、気のない返事を返す。

しかし、なぜ急にこんな話に。


『先日、人の子が訪ねて来た』


そいつのせいか…。

なんて思わなくも無い。


『いずれこの日が来るのは覚悟していたが』


『………』


『しかし、お前ひとり、外に放り出すには気が引ける』


そんな時だと母は言う。


『その男が訪ねて来た時思うたのじゃ。

 その男は、外界でぼうけんしゃなる職についていると言う』


ほうほう、ぼうけんしゃ。

ぼうけんしゃ?冒険者!


うおっ!いきなりファンタジーの定番来たコレ。

ちょっと興奮してしまうが、その為に俺はこの森から追い出されようとしている。

直ぐに頭が冷えた。

ついでに、少し目が潤む。


『独り外界に出すより、信用の置けるものに託すのもありかと』


まるで俺の意志を確認するかのように問いかける。

その時、俺の目が潤んでいる事に気づいたのか、母は優しく俺の顔を舐める。


『案ずるな、我が愛し子よ』


項垂れる俺の頭を、母の尻尾が優しく撫でる。


『たとえ何処にいようと、お前は我の子だ。

 そして此処はお前の住処だ、いつでも帰ってきていい、だから外の世界を見ておいで』


この狭い世界で、お前の可能性を潰すのは勿体無いと母は言う。


『いずれ、再びあの男は来よう、その時話すつもりだ』


いつそうなってもいいように、準備だけは怠るな。

母はそう言って俺の背を押した。


洞窟の外では、他の兄弟たちが待っていた。

俺たちは駆け出す。

悔いなど残すまいと、思いっきりじゃれ合った。


兄弟たちも、詳しく聞く事無く、別れの時が近いことを悟っていたのかもしれない。

なにも聞かずに、俺に付き合ってくれた。


タイムリミットが近づいていた。

再びその冒険者の男が現れたとき、俺はこの森を出る事になるだろう。







旅立ちの風が吹こうとしていた…。








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