プロローグ的冒頭
ぐぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
木々を揺らす咆哮が森に響いた。
凄まじい音量の咆哮を上げ、赤々と輝く眼光鋭く睨み付けて来る。
ソレと対峙した瞬間、頭の中が真っ白になり、剣を持つ手がカタカタと震えた。
ちらりと周囲に眼をやり、仲間達が自分を見ていない事にホッとする。
情けない姿を晒す事等したくない。
誰だって無様な姿は見せたくないのだ。
手の震えを隠すように、ぎゅっと力一杯剣を握り締め、精一杯目元に力を込めソレを睨み付ける。
ソレはトロールと呼ばれる醜悪な魔物だ。
普通、トロールとは太った醜悪な大男のような外見をした、人型に近い魔物だ。
悪食で怪力、高い生命力で知られる厄介な相手。
だが、今目の前に対峙するトロールは普通のものと違っていた。
普通のトロールより二周りほどでかく、胸元や手足が黒い剛毛に覆われ、口元から天に突き出す
様に牙がある。
赤く光る眼光も、手にした巨大なこん棒も、一般的にトロールと呼ばれるものから逸脱していた。
既に二つの村と、14人の冒険者が犠牲になっている。
辺境から、中央に向けて徐々に進む魔物は、進行方向の村々を食い荒らした。
難を逃れた村人が冒険者ギルドに駆け込み、討伐依頼が出された。
しかし、討伐に現れた14人もの冒険者を難なく喰らった魔物は、進行速度を緩める事は無く。
ただ真っ直ぐに中央を目指して進んでいた。
猶予はあまり無い、そう感じた冒険者ギルドのマスターは、実力派の冒険者に討伐を依頼。
そうして俺たちは此処にいる。
これで俺たちがしくじれば、ギルドから国に知らせが行き騎士団が対応する事になる。
それはギルドの信用が幾ばくか失われる事も意味する。
なんとか此処で仕留める。……高額報酬のためにも。
そうして、奴と俺の睨み合いは続いた。
粗暴なトロールの割りに、頭が回るのか無闇矢鱈と仕掛けてこない。
此方の出方を伺っている。
やり辛い、そう感じた。
此方から仕掛けるか。
仲間に合図を送り、牽制を頼む。
合図に答え、仲間の弓使いがトロールに向かって矢を射る。
同時に魔道師が術の詠唱を開始する。
そして俺もトロールに向かって駆け出した。
牽制の為に射られた矢を、トロールは難なく受け止めた。
矢は身体に刺さる事無く、奴の素肌を叩いて落ちる。
鬱陶しそうに手で散らすトロールを視界に納めつつ、奴の死角に移動する。
その俺の動きに気付いたのか、俺に向き直ろうとした所に魔道師の術が発動。
奴の顔目掛けて炎が吹き荒れる。
威力こそたいした事はない見せ掛けの炎だが、事生物にとってよく効く。
炎は生物に根源的な恐怖を与える。
ソレが一瞬で目の前に現れたらどうなる?
ぎゃぉぉぉぉぉ!!
困惑の叫びを上げ、他の野生動物と同じく、奴もまた硬直し動きを止めた。
決定的な隙が出来る。
この瞬間を待っていた。
「付与」
「重力操作」
俺の二つのスキルの一つ、重力操作。
自身に付与し、重力カタパルトを展開。
トロールに向かって放り出す。
ドンっと人体が出す音として有り得ない音と共に、生身では有り得ない速度でトロール肉薄する。
それに気付いたトロールが慌ててこん棒を高々と振り上げる。
遅い…!
「時間停止」
俺の二つのスキルの一つ、時間停止。
止めていられる時間に制限がある上、条件も割かし厳しいが魔物一匹仕留めるには十分だ。
止まった時間の中、重力操作を駆使して動き、一撃で仕留める。
これが俺の戦法だ。
卑怯とか言うなよ、生きるのに必死なんだ。
生きるのには金が要る、特に街中では。
楽に稼ぐ手段があるんだ、だったら使わなきゃ損だ。
もっとも命を奪う、その事には今だ慣れないが…。
手にした剣を、トロールの首に突き刺す。
其のまま切り離す。
いくら生命力が高いトロールでも、首を断たれて生きることは不可能だ。
止まった時間の中で何故自在に動けるのかとか深く考えない。
そんな事を考える暇があるなら手を動かす。
切断した首を上に放り投げ奴の背後へと移動し、時間停止を解除。
傍から見れば、牽制後に高速で駆けた俺がトロールの首を切断し背後に立ったように見えるだろう。
高々と舞った首が地面に落ち、続いて思い出したかの様に断たれた首から大量の血が噴出した。
まるで噴水のように噴出す血が大地を濡らし、力を失った身体がドスンと音を立てて倒れ付す。
それまで油断無く武器を構えていた仲間たちは、漸く緊張を解き口々に賞賛の声を上げながら
俺の元に集まってきた。
俺も軽く手を上げて答え、いかにも疲れたように装い膝を突く。
後方に控え、守りの加護を敷いていた神官が、慌てて俺に駆け寄り癒しをかけてくれた。
騙している様で悪いが、疲れているのは本当なので助かった。
スゥと疲れが消えていく。
魔法、スゴイよ魔法。
短く礼をし、屠った獲物を見る。
既に仲間の盗賊と狩人が、獲物の解体と討伐証明の部位を切り取っている。
これで余り労を掛けずに金貨50枚を手に出来る。
一人頭、金貨10枚にトロール亜種の部位買取でもう少し儲けが入るだろう。
稼ぎとしては十分だ。
一人ズルをしている気分の俺は、安全に大金を手に出来るのだから許してくれと自己弁護しつつ
仲間たちに撤収の合図を送った。
素材の剥ぎ取りは終わった。
もたもたしてると、血の匂いを嗅ぎ付けて森の獣や魔物が集まってくる。
とっとと帰ろうと合図を送った。
仲間たちは頷いて、駆け足でその場を離れる。
先頭は斥侯も兼ねる盗賊で、殿は俺だ。
チート体質だからこれくらいしなけりゃ罰が当たる。
後方の安全を確認しつつ、俺も走る。
何だが遠くに来てしまった。
そんな感慨を抱き、昔の自分を思い出して苦笑する。
そうして仲間たちと森の外で合流し街を目指す。
暖かい寝床と旨い飯が待っている。
それが今の俺の日々だ。
俺こと、ロム・ルフは元日本人の転生者である。