あなた方が散々虐げた私こそが本物の聖女です。殿下、今のお気持ちはいかがですか?
前世でプレイしたゲーム「薔薇の聖女」の悪役令嬢エルガー・トーベンに転生したと知ったのは学園の入学式だった。
聖女候補は二人。
十五歳の誕生日に、腕に薔薇の蕾の痣が現れた乙女。
一人は公爵令嬢で王太子の婚約者の私。
もう一人は、ヒロインのミーナ・ケルナー男爵令嬢だ。
三年間の学園生活の中で、数々のイベントをこなし、攻略対象の好感度を上げ、モンスターと戦いレベルを上げ、卒業パーティーでどちらが本物の聖女か発表される。
攻略対象は王太子のアデル、宰相の息子カシュ、私の義理の弟ルッツ、騎士団長の息子ディックの四人。
本物の聖女の薔薇の蕾の痣が、卒業パーティーで花開くのだ。
薔薇の花が咲いたら、聖女はチート状態。
数々の聖女専用の上級魔法を使えるようになる。
本物の聖女はミーナ。
そして私は、ミーナに数々の嫌がらせをしたとして、卒業パーティーで断罪され処刑される悪役令嬢。
私は、最初破滅フラグを折ろうと思っていた。
浮気ものの王太子とも、ヒロインを盲目に信仰する側近の三人とも、ぶりっ子なヒロインとも仲良くしようと思っていた。
波風を立てないように、平穏に過ごそうと思っていた。
だが、相手はそうではなかった。
ミーナは転生者で、ハーレムエンドを狙っていた。
王太子と側近の三人を自分の味方にし、私を敵認定し、罠に嵌めようとしてきたのだ。
周囲の生徒たちも彼女たちの味方だ。
ノートにインクをかけられた。
体操服を切り刻まれた。
二人きりの時に階段から突き落とされた。
お弁当に毒を入れた。
人を使って襲おうとした。
などなど、数え上げればきりがない。
王太子を始め、側近の人間は私の意見を全く聞かず、ヒロインの言い分だけを聞き、「お前は悪女だ!!」と決めつけ、集団で叩いてきたのだ。
ここまで、学園に入学してわずか二カ月の出来事である。
彼らと仲良くしようとか、冤罪を晴らそうとか、穏便に済まそうとか、話し合いで解決しようとか、色々と努力をした。
ある時、ふと……悟った。
敵意をむき出して、「この悪魔! お前なんか生まれてこなければよかったんだ!」と言ってくる人間と和解は不可能だと。
私の前世はハッカーだった。
ゲームと同じ世界が成り立っているのだから、この世界は何者かによって、ゲームを真似て構築されているに違いない。
なので、私はこの世界をハッキングすることにした。
とはいえ、この世界にはパソコンもスマートフォンもない。
しかし、魔法や魔法陣はある。
これを使えば、世界を構築しているシステムに侵入できると考えたのだ。
私は、図書館に入り浸り、古文書を読み漁った。
そして、神々がこの世界にメッセージなどを通して、介入していることがわかった。
相手から干渉できるなら、こちらからもアクセスできるはずだ。
そこからは、早かった。
悪徳令嬢の地頭の良さと、前世ハッカーのスキルを活かし、システムへの介入方法を探し当てた。
ハッキングを想定していなかったのか、システムはガバガバで、あっさりとハッキングに成功した。
どうやらこの世界は、創造主である神にだいぶ前に飽きられて放置されていたようだ。
それでも、ゲーム「薔薇の聖女」のシステムだけは構築されていた。
転移呪文を覚えて逃げるか、変装のスキルを取得するか……いや、待て。
ふと、あるアイデアが浮かんだ。
ヒロインが本来授かる聖女の力を、私のものにしてしまったらどうなるだろう?
卒業パーティーは大混乱に陥るだろうか?
逃げるだけではつまらない。
散々嫌がらせされたんだ。
彼らにも絶望を味わって貰おう。
私はデータを書き換え、自分を本物の聖女に設定し、ヒロインを偽物の聖女にした。
それだけでは面白くない。
王太子と側近とヒロインの数値を改ざんしてやった。
このゲームの登場人物の初期ステータスは、固定値ではなくランダムで決まる 。
なので高い数値が出るまで、冒頭を何度も繰り返すプレイヤーもいる。
HP、MP、スピード、根性、腕力、賢さ、幸運……など初期ステータスを最低値に設定した。
レベルが上がった時の成長率の設定もいじった。
本来なら、各数値は0から10ポイントの幅でランダムで上昇するのだが、その上限を1にしてやった。
奴らはレベル99まで上げてもザコだ。
MPだけは、上昇値を0に固定した。
奴らの初期MPは5。
上級魔法や特技を覚えても、MP不足で使えないのだ。ざまぁ。
王太子と側近の三人とヒロインの数値をいじるだけではつまらない。
学園の全生徒の数値も調整しよう。
陰で「死ね」だの、「人間のクズ」だの、「くそビッチ、滅びろ」だの言っていた奴らだ。
モブだからといって見過ごせない。彼らにも罰を与えなくては。
奴らの上昇値はMP以外1に固定した。
MPの上昇値は、王太子たちと同じ0に固定してやった。
モブは、その他のステータスが確定で1上昇する。
王太子が外れ値の0を引き続けた場合、モブの方が強くなる。
どんぐりの背比べレベルだが、普段雑魚と見下している一般生徒が、自分たちより強いとわかった時の、王太子たちの悔しがる顔が見れる。
自分が雑魚以下のミジンコだとわかった時の彼らの顔を想像しただけで、口角が自然と上がってしまう。
もちろん自分のステータスをいじるのを忘れない 。
初期ステータスを最大値にし、レベルが上がった時の上昇値も最大の10にした。
細工は流々、卒業式が楽しみだ。
◆◆◆◆
三年後、卒業式。
卒業パーティーの最中、ヒロインをエスコートし、王太子が壇上に登った。
彼らの背後には、側近の宰相の息子、私の義理の弟、騎士団長の息子が控えていた。
ミーナは「エルガー様にこんなことをされたんです! 怖かった!」と涙ながらに訴えていた。
王太子は「ミーナをこんなに怖がらせるなんて、貴様は悪魔だ! 貴様の悪事を白日の元に晒し、天誅を下す!」と私を糾弾した。
側近の三人が、私がしたことになっている悪事(もちろん冤罪)を読み上げ、「エルガー・トーベンの行いは非人道的であり、万死に値する!」と大声で叫んでいた。
会場にいる一般生徒は、「最低」、「人間のクズ」、「人でなし!」と私を罵った。
はい、原作通りの展開乙〜〜!
そうでなくてはつまらない。
「お前は偽物の聖女だ!
よって私との婚約破棄し、処刑する!
新たな婚約者には本物の聖女であるミーナを据える!」
王太子は震えるミーナを抱き寄せたあと、高らかに宣言した。
その言葉を待ってました!
「殿下、私を偽物の聖女、ミーナ様を本物の聖女とおっしゃいますが、腕の痣は確認したのですか?」
「そんなの確認するまでもない!
悪辣非道なお前が偽物で、清らかなミーナが本物に決まっている!」
王太子は皆の前で断言した。
アホでよかった。
きっと彼は、賢さで外れ値の0を引き続けたのだろう。
ミーナも、ゲームではヒロインが本物の聖女だったので、自身の腕を確認していないのだろう。
その油断が命取りだ。
「残念ですが殿下、私こそが本物の聖女です。
偽物はミーナ様ですわ。
証拠は私の腕にあるこの薔薇の痣です」
私は袖をまくり、上腕にある薔薇の痣が皆に見えるように、腕を突き上げた。
入学した時は、蕾だった薔薇の痣が完全に花開いていた。
花が咲いた方が本物の聖女。
会場が騒然となり、ミーナの表情から余裕が消えた。
「ミーナ様が本物の聖女だというなら、腕を見せてください」
偽物の痣は卒業式で消えるのだ。
ミーナは真っ青な顔で震えている。
「嘘よ……!
そんなはずない!
私は本物の聖女!
あいつは悪役令嬢……!
あいつの痣が花開くはずがない!」
聖女は右腕を服の上から押え、ガタガタと震えていた。
転生知識が仇となったわね。
パーティー前に自分の痣を確認しなかった、あなたの落ち度よ。
当初は私も、同じ前世の知識持ちならわかり合えると思っていたけど、無理だった。
私に何かされたから、やり返した……というのならまだわかる。
でも、ミーナは何もしてない私を悪役に仕立て、ボコボコにしたのだ。
彼女は最初から私を殺す気満々だった。
だから私は、こいつを助ける義理はないと判断したのだ。
「そんなのインクで描いた偽物よ!
本物の聖女は私よ!」
ミーナは自分こそが聖女であると主張し、「偽物扱いされて悲しいわ!」と言って、顔に手を当てて泣き出した。
「それでは、あなたが本物かどうか確かめさせていただきます」
私は初級の風魔法を操り、ミーナを目掛けて放った。
風魔法は彼女の右腕の布を切り裂き、彼女の二の腕が顕になる。
入学当時、彼女の腕にあった薔薇の蕾の痣は消えていた。
本物だと主張するなら、自分の腕を見せればいいだけだ。
それが出来ないのが、偽物である何よりの証拠だ。
王太子はミーナの腕に痣がないことを確認し、表情を強張らせた。
側近の三人も同じような顔をしていた。
ミーナは左手で右の二の腕を押え、キッと私を睨んだ。
「酷いわ! 私に魔法を使うなんて!」
「そうだ!
これは聖女への反逆行為だ!」
「殿下の目は節穴ですか?
ミーナ様の腕に痣がないことを確認し、なおも彼女を庇い立てするのですか?」
ミーナへの盲信か、恋が目を曇らせているのか、それとも散々虐めてきた私が聖女だと今さら認められないのか。
理由はともかく、愚かな男だ。
「うるさい!
きっとミーナの薔薇の痣は別の所に移ったんだ!
後で確認する!」
そう来たか。
「痣は人に見せられない所に移動した」とでも言う気なのか、それとも足などに薔薇の入れ墨を掘る気なのか。
何にしても、痣だけあっても聖女の力が使えなければ何の意味もない。
「私が本物の聖女である証に、聖なる魔法を披露しましょう!
空に舞え、薔薇の花びらよ!」
私がパチンとならすと、色とりどりの薔薇の花びらが天上から降ってきた。
これは聖女にしかできない。聖なる魔法だ。
この魔法に特別な効果はない。強いて言えば、演出魔法だ。
パーティーや結婚式で使ったら盛り上がる。
薔薇の花びらを拾って、お風呂に入れたら香りがする。
会場の全員が、ふわふわと舞う薔薇の花びらを見て固まっていた。
しばらくして人々は、私とミーナを交互に見比べ始めた。
ミーナは、真っ青な顔で震えていた。
「これは聖女にのみ使える特別な魔法。
殿下、並びに側近の皆様、私が本物の聖女だと信じていただけましたか?」
彼らににこりと微笑みかける。
側近の三人は、困惑の表情を浮かべ顔を見合わせている。
王太子は拳を握りしめ、鋭い目つきで私を睨んだ。
「……だ、黙れ!
お前が本物の聖女のはずがない!!
お前はミーナから聖女の力を奪ったんだ!
そうに違いない!!」
大正解。
私がシステムをハッキングして、ミーナの得るべき力を奪ったのだ。
だが、誰もそれを証明できない。
「エルガー・トーベンを捕らえよ!
奴の力をミーナに戻すんだ!」
王太子の命を受け、近衛兵が私を取り囲んだ。
「大丈夫だ。
奴を捕え、ミーナの影武者にすれば、全て丸く収まる」
王太子がミーナに囁いている。私は彼の唇を読み、何を話しているか理解した。
どうやら王太子は、私を影武者にする決断をしたようだ。
なるほど。なるほどそういう展開もありね、面白い。
「何をしている、さっさとエルガーを捕まえろ!」
王太子の二度目の命令を受け、槍を構えた近衛兵が私に攻撃してきた。
私はそれを、結界を使って防いだ。
結界に弾かれた近衛兵は、十メートルほど後方に飛ばされた。
頼りの近衛兵が役に立たなかった有り様を見て、王太子が唇を噛んだ。
いい顔ですね。無様で醜くて、あなたにお似合いです。
「皆様、こんなことになって残念です」
私は指をパチンと鳴らし、この場にいる全員に、拘束の魔法をかけた。
無様に喚く様を見たいので、首から上は動くようにしてあげた。
もう一度、指をパチンと鳴らし、私は前世で言うところの液晶モニター的な物を作り出した。
大きさは、映画館のスクリーンほどある。
「初めて使う魔法ですが、上手くいきましたわ」
スクリーンに私の姿が映し出され、そこから私の声が流れる。
これも聖女になると使える魔法の一つだ。
ゲームでは主に広報活動に使用していた。
聖女と王太子がモンスターを倒し、人々を救った。その様子を国中の人に伝え、支持を得るのだ。
「貴様! 何をした!?」
王太子が困惑した表情で私に尋ねた。
「私が聖女に就任したことを、お知らせするのです。
邪魔されたくないので、皆様には拘束魔法をかけました」
「拘束魔法だと!
なんと邪悪な!」
「殿下、発言にはお気をつけください。
この映像は、王都をはじめ国中の都市に流れていますから」
「なっ……! 国中だと……!」
王太子の顔から血の気が引いていく。
箝口令を敷けば、私が聖女であることを隠せると思っていたのだろう。
「シュタインハイル王国の皆様、ご機嫌よう。
この度、本物の聖女だと判明したトーベン公爵家のエルガーですわ」
私は作り笑いを浮かべ、愛想よく手を振る。
スクリーンには私の右腕にある花開いた薔薇の痣がくっきり映っている。
「王太子アデル様に婚約を破棄され、処刑を命じられました。
王太子殿下を始め、側近のカシュ・ゼーマン様、ルッツ・シュンカー様、ディック・ケート様も私が聖女であることを認めず、あくまでも男爵令嬢のミーナ・ケルナー様が聖女であると言い張るのです」
私は胸の前で手を組み、瞳に涙を浮かべた。
「殿下は私を捕まえようと近衛兵に命じました。
槍を持った近衛兵に襲われて、怖かったですわ。
おそらく、殿下は私を捕まえてミーナ様の影武者にしようとしたのでしょう」
私は嘘泣きをし、ハンカチで涙を拭った。
この映像は、城でも流れているので、国王と王妃も見ていることだろう。
「私の証拠だけでは、皆様は信じないでしょう。
皆様は、王太子殿下を清廉な方だと信じ、側近の三人を真面目で優秀だと思い込み、聖女候補であったミーナ様を慈悲深い方だと認識していたでしょうから。
ですから、証拠映像をお見せしますわ」
卒業パーティーでの断罪シーン、側近が私を罵るシーン 、ミーナが私こそが本物よと言って泣き崩れるシーンが全部流れた。
王太子が、私を偽物として捕らえるように命じたところもばっちり映っている。
国民がどのような顔でこの映像を聞いているのか、確認できなくて残念だわ。
「私は偽物扱いされて大変傷つきました。
王太子殿下を始め、側近の方々も、学園の皆さんも私を嫌っています。
学園に通った三年間、濡れ衣を着せられ、謗られ、侮られ、私の心はボロボロです」
私はか弱い少女の演技をしながら、国民に訴えた。
ハッカーではなく、女優を目指すべきだったかもしれない。
自分で言うのも何だが、なかなかの名演技だ。
「私はこの国の民にも失望しています。
王都では、ミーナ様を本物の聖女と決めつけ、王太子殿下とミーナ様の浮気を真実の愛だと持てはやした。
私を、『悪女』『悪魔』『人の皮を被った化け物』だとか言われて、深く傷つきましたわ」
国民は自分たちの行いを責められ、今どんな気持ちかしら?
せいぜい苦しんで、自分たちの行いを悔やんでください。
彼らが、どんなに苦しくても、私は知らん顔しますけど。
「どうやらこの国の皆さんは、私を悪役にしたいようですね。
国王陛下と王妃殿下も、王太子殿下がミーナ様と浮気しているのを知りながら、見て見ぬふりをしていました。
私の言い分を聞こうともせず、冤罪を晴らそうともしなかった」
国王と王妃は、どっちが本物の聖女でもいいように、どちらにも肩入れしなかった。
あの状況で何もしないのは、王太子とミーナの肩を持ったのと同じだ。
「私、そのような人たちを助けたいとは思いません。
なので、この国を去りますね」
会場から息を呑む音が聞こえた。
自分たちが虐めていたのが本物の聖女で、自分たちのせいで国を出ていくのだ。
全国民がそれを知っている。
その状況で、この国に残されたらどうなるか……。
賢さの上昇率が低くても、理解できたでしょう。
私が去った後、王太子とミーナと側近の三人はどうなるのかしら?
一般生徒は、今まで散々私の悪口を言ってきたのは棚に上げ、彼らを責めるだろう。
しかし国民から見たら、この学園に通っていた者は全員、聖女を虐めてこの国から追いやった戦犯なのだ。
この学園に通っていた人間は、ひとり残らず国民のバッシングから逃げられないでしょう。
国民に袋叩きにされる未来が見えますわ。
「このあと、シュタインハイル国には、様々な災害が降りかかるでしょう。
どれも、聖女の私がいなければ、解決できない問題です。
ですが、王太子殿下は私を処刑しようとしました。
そんな恐ろしい国にはいられないので、私は国を離れます。
後のことは、自分たちで何とかしてください。
苦情は王太子殿下とミーナ様と側近の三人に言ってくださいね」
私は、にっこりと笑いながら映像を切った。
このゲームは、卒業パーティーで聖女が覚醒して終わりではない。
聖女に覚醒した後が本番。
最初のイベントは、増えすぎたネズミ問題。
卒業パーティーのあと、長雨が降る。
雨で肉食動物が減り、しぶとく生き残ったネズミが、捕食者がいなくなった環境で大繁殖する。
引き出しの中、タンスの中、机の中にまで至るまでネズミが溢れ、足の踏み場もないほどネズミが溢れかえる。
聖女が王太子たちと討伐に向かうと、全部のネズミが合体し、巨大な一体のモンスターになって襲ってくるのだ。
レベルを上げていれば、上級魔法の連打で勝てる雑魚だ。
1匹1匹でバラけていた方が倒しにくいのに、魔法が当たりやすいように合体したのは、制作側の都合だろう。
これは、聖女が特定の場所に立ったことにより起きるイベントだ。
つまり聖女である私が動かなければ、ネズミは国を荒らし続ける。
穀物を食い尽くしたネズミは、家畜や人を襲うだろう。
私がいなければ、彼らはネズミの餌になるしかない。
ネズミがよその国に移動したら大変なので、ネズミが外に出ないように、この国を覆う結界を張るわ。
ネズミだけでなく、人も出られないけど、どうでもいい。
国が滅びた後、ネズミが共食いし、数が減った頃合いを見計らって、退治してあげます。
ゲームでは序盤の雑魚敵だが、ステータスの外れ値を引き続けた彼らにとってはネズミすら脅威だろう。
レベル50でも、実質レベル5ぐらいの力しかないのだから。
彼らが雑魚だと思っていたネズミに、頭をボリボリ齧られて死んでいく様を直に見れなくとっても残念です。
「それでは皆様、ごきげんよう」
優雅にカーテシーをしたあと、彼らの束縛の魔法を解いた。
そして転移魔法を使い隣国へ移動した。
私はスクリーンの魔法を使い、私がいなくなった後のパーティー会場の様子を覗いた。
この魔法は、配信だけでなく、覗き見にも使えるのです。
会場は騒然とし、
「お前のせいだ! お前がエルガー様の悪口を俺に吹き込んだから!」
「お前は僕が悪口を言う前から、公爵令嬢を睨みつけてたじゃないか!」
「私は公開断罪なんて反対だったのよ! でも王太子殿下には逆らえなくて……!」
「私は悪くないわ! 王太子殿下とミーナ様の関係を浮気だと思っていたもの! でも、言える空気じゃなかったの!」
誰も彼もが互いに罪のなすりつけ合っていた。
ゲーム通りに進むとどうなるかを知っているヒロインは、「長雨の後、ネズミが繁殖するの! みんなネズミに食べられちゃう! 私、そんな死に方は嫌よ !」と言って泣き叫んでいた。
「大丈夫だ! そうなる前に国を脱出しよう! 俺たちだけでも生き延びるんだ!」
王太子がミーナの肩を抱き、励ましていた。
「僕たちは悪くない! エルガー様が本物の聖女だなんて知らなかったんだから!」
「今は犯人探しはあとだ。国民には悪いがこの国から出よう!」
「そうだ、国民より自分たちの命が優先だ!」
側近の三人も、祖国を捨てる決意をしたようですね。
彼らは、自分たちだけ生き延びられればそれでいいらしい。
私は卒業パーティーの会場に、再びスクリーンを映し出し、こう伝えた。
「ご機嫌よう。
王太子並びに側近の皆様。
言い忘れましたが、この会場の映像は全て記録され、国中に実況中継されております」
「……!」
彼らの顔が青を通り越し土気色になるのを確認し、私は会場のスクリーンを消した。
王太子たちのせいで聖女がいなくなった。
なのに彼らは、このあと起きる災害について知りながら、それを誰にも伝えず、国民を見捨て、自分たちだけで生き延びようとした。
彼らの行動は、国民の目にどう映ったかしら?
ネズミに食べられるより早く、暴動が起きて、八つ裂きにされるかもしれないわね。
民衆が、彼らの死体を生贄に私を召喚しようと試みるかもしれない。
国民全員が地べたに頭を擦り付けてネズミの駆除をお願いするなら、助けることを検討してもいいわ。
新しい住処とお茶とお菓子を確保したら、彼らが破滅する様をスクリーンで見て楽しみましょう。
当分、娯楽には事欠きそうにないわ。
――終わり――
最後まで読んで下さりありがとうございます。
少しでも、面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると嬉しいです。執筆の励みになります。




