幼なじみ
「りりちゃん、樹理くんにお菓子持って行ってあげて。樹理くんけがをして実家へ戻ってきてるらしいから」
部屋で推しの歌ってみた動画を見ていたら、これである。
「分かった。今すぐ行く」
仕方ないので、着替えてすぐ出かけることにした。そこで着替えてから、お菓子の入った紙袋を持って出かける。
一応樹理くんのことが気になったこともあるし。樹理くんは高校生になってからは会っていないのもあって、実はかなりお久しぶりなんだ。なんならどこの高校に行ったかは知っているけど、高校卒業後は何をしているのかは知らない。
とはいえ恐らく今は社会人か大学院生だろうな、年齢的に大学生はちょっとありえないはず。
ていうか怪我をして実家へ戻ってきているってどーいうシチュエーションだ、よく分からない。
「お久しぶりです。樹理くんのお見舞いに来ました」
実は隣の家なので、あっさりと樹理くんの家へつく。そしたらインターフォンを押したら、樹理くんの母親が出てきた。
「お久しぶり、樹理~、りりちゃんが来たわよ」
樹里くんの母親について、私は家の中を歩く。そうしたら中学生の時と同じく2階の階段近くに樹理くんの部屋があった。
樹理くんの母親が、ドアをノックする。
「お久しぶり~。りり」
シンプルなジャージがもったいないほどのイケメンは変わりなく、右足をやや引きずりながら樹理くんが部屋から出てきた。
「お久しぶり。怪我したって聞いたけど、大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。あっそれお見舞いの品、ありがと。2人で話すから、母さんは帰ってね」
「はいはい分かったわよ。ではごゆっくり~」
樹理くんの母親はいなくなり、私と樹理の二人きりになる。
「えっとそれでどうしたの? どうして怪我したの?」
紙袋を持って、私は部屋に入る。部屋の中はシンプルで物が少なく、中学の時と同じく学習机とベッドがあった。
「どうしたもこうしたも、恋人に包丁で刺されたんだよ」
ベッドの上に座り、右足のジャージをめくる樹理くん。そこには見事に包帯ぐるぐる巻きの包帯があった。
「なんで恋人に刺されるようになるの」
それって単なる犯罪のような気がするよ。
とりあえず落ち着いて会話をするために、近くにある学習机の前にあった椅子へと座る。よく考えてみ、恋人に刺される事なんてないでしょ? あったら警察沙汰でしょ?
「仕事がむなしくてむなしくて支えも救いもないしさ、僕にとって恋人だけがすべてなんだよ。だから仕方ない」
答えになっていないようなことを言い出す樹理くん。いやそんなわけあるか。
「いや仕方なくないでしょ。仕事なんて所詮金儲けのためだけにやっているんだし、嫌だったら辞めた方がいいよ。あと包丁で刺す恋人はヤバいやつだから距離をおいたほうがいいかも」
「そうかな」
腕を組んで目を閉じて、じっくりと考える樹理くん。いやいや考えるまでもなく、仕事は変えて恋人とも別れる。それ以外手段は無いでしょう。
刺されても仕方ないって思う、そのメンタルは問題だよ、樹里くん。だからストレス源から離れて、療養すべきだって。
「じゃあこれは母からのお見舞いの品ね。ちょっと忙しいから帰るわ」
お菓子の入った袋を樹理くんに渡して、私は樹理くんの家から出る。
実は樹理くんは私と同じく同性愛者なのだ。それが原因で職場とうまくいかず、恋人とも適切な関係を築けないのだろう。そんな感じがした。
そして帰宅してから、再び推しの歌ってみた動画を見る。やっぱり癒やしといえば歌ってみた動画だよね、なんちゃって。
夕方になってからはリビングへ向かう。これから夕ご飯の時間だから。
「見て見て、樹理くん実は男性アイドルだったらしいよ」
テレビを、母が指さした。
「えっそれはすっご」
そこには春野樹理、すなわち樹里くんが芸能界を電撃引退って書いてあった。どうやら樹理くんはあるボーイズグループに所属していたらしい。
えっ樹理くんってアイドルだったの? 全然知らなかった。ていうことは樹理くんのむなしい仕事は芸能活動だってこと? まあそういうの分かるはずがないし、問題ないか。




