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くも膜下出血で倒れた理容師が、復帰して小説を書き始めた話  作者: antomopapa


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第4話

僕は先生に聞いた。

「どれくらいの確率で生きられますか?」

先生は、数字で答えた。

三分の一が亡くなって、

三分の一が重い障害が残って、

三分の一が軽い障害で復帰できる。

三分の一。

その言葉が、やけに重かった。

“希望”みたいに聞こえるはずの数字なのに、僕には“くじ引き”みたいに感じた。運が良ければ戻れる。でも運が悪ければ、戻れない。命も、体も、生活も、全部が。

だけど僕は思った。

絶対に復帰する。

理由は簡単だった。

家族のところに戻る。

それだけだ。

コロナ禍のひどい時だった。

面会はできない。家族はそばにいない。扉の向こうにいるのに、いない。声をかけたくてもかけられない。顔を見たくても見られない。支えにしたいものが、世界から切り離されている感じがした。

だから僕は、一人で静かに祈りと決意を固めていた。

生き延びたら、必ず復帰する。

やりたいことを、もう後回しにしない。

……そんなふうに、かっこいい言葉で自分を支えようとしても、ICUは現実だった。

寝ていると、トイレに行きたくなる。

「すいません、トイレに」

そう言うと、返ってきたのは確認だった。

「大ですか、小ですか」

「小です」

「尿瓶でしてください。絶対に立たないで下さい」

寝ながらトイレするって、あんなに大変なんだと思わなかった。

寝ていると出ない。もれそうだ、と思っても出ない。体は動かないのに、意識だけが焦る。立ちたくて仕方ない。でも立ったらだめだと言われる。

僕は頑張って、頑張って、ようやく出した。

おしっこって、頑張って出すものなんだ。

そんなことを、ちょっと笑ってしまった。

笑うしかなかったのかもしれない。ICUの中で、たぶん僕が「自分」を保てたのは、そういう小さな可笑しさだった。

手術当日の朝。

七月なのに、すごく寒かった。

病院の空調のせいなのか、自分の体のせいなのか分からない。寒くて、歯が鳴りそうだった。

「寒いです」

たぶん僕は、看護師さんにもそう言っていた気がする。

言ったところでどうなるわけでもない。けれど、言わないと自分がどこかに消えてしまいそうだった。

……そして、ここから一週間くらい、覚えていない。

ICUの中にいて、頭が痛くて、それしか覚えてない。

朝も夜も分からない。

目を開けて、閉じて、その繰り返し。

痛いと思って、また沈む。

僕の中の一週間は、そういうふうに消えている。



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