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くも膜下出血で倒れた理容師が、復帰して小説を書き始めた話  作者: antomopapa


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第16話



ただ楽しかった。

何も考えずに見られた。

それが一番大きかった。

心が落ち着いた。

見ていたのは、スローライフ系のアニメだった。

伏線とか、敵と戦うとか、考えなくていい。

ただ、ゆっくり農業する。畑を耕して、料理して、季節が巡る。

それを見ているのが、楽しかった。

当時の僕には、“考えなくていい時間”が必要だったんだと思う。

頭痛があると、考えること自体が負担になる。

考えれば考えるほど痛い。だから「考えなくていい」は、癒しに近かった。

最初は三十分くらいしか見られなかった。

それ以上見続けると、頭が疲れて痛くなる。

だから区切って、そこで終わり。

楽しいのに、終わらせなきゃいけないのが悔しい。でも、無理をすると全部が嫌になるのも分かっていた。

それでも少しずつ、見られる時間が長くなった。

気づいたら一時間。

そのうち二時間くらいまで伸びた。

二時間見られるようになると、欲が出る。

色々と見てみたくなる。

異世界で“便利な仕組み”を使って暮らすスローライフ。

扉の向こうが異世界につながっているグルメもの。

異世界と現実を行き来する無双系。

動物が賢者みたいに振る舞う、ちょっと不思議な作品。

王道のチートもの。悪役令嬢。

展開が早いものも、少しずつ。

そして、昔の名作アニメにも手を伸ばした。

中学生でアニメを卒業していた僕には、衝撃的だった。

「アニメって、始まったら完結まで放送するんじゃないのか?」

「一期、二期ってなんだよ。間、空きすぎじゃないのか?」

「深夜アニメってなんだよ」

「アニメは夕方の六時七時だろ」

ツッコミながら、結局見てしまう。

気づけば、四十五歳で異世界ものにハマっていった。

自分でも思う。

「何してんだ」って。

でもたぶん、あの頃の僕には必要だった。

考えなくていい時間。

ただ、落ち着ける時間。

それが、次の何かに繋がっていく感じがした。


農業のスローライフがもっと見たくて、コミックを買った。

でも続きが見たくなる。続きが欲しくなる。

そして僕は、原作のWeb小説投稿サイトに行った。

最初はやっぱり、頭に負担があったんだと思う。

一話しか読めない。

読めるけど、読めない。読むと疲れる。読むと痛くなる。

でも続きが気になる。

気になって、頑張って読む。

そしてダウンする。

それを繰り返した。

今思えば、頭のリハビリだったのかもしれない。

読むことって、こんなに体力がいるんだって、そこで初めて知った。

読むって、目だけじゃなく、頭も心も使うんだ。

でもその時、もっと大きいことを知った。

素人の書いた小説が、こんなに面白いなんて。

こんなに楽しいなんて。

勝手なイメージで「小説」って遠いものだと思っていた。

上手い人だけが書くものだと思っていた。

でも違った。

上手いとか下手とかじゃなくて、

面白いものは面白い。

続きが気になるものは気になる。

僕はそれに、驚いた。


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