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くも膜下出血で倒れた理容師が、復帰して小説を書き始めた話  作者: antomopapa


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15/19

第15話 



年末と違って、一月二月は店が暇な時期だ。

年末の無理が効いたのか、体が少しだけ慣れてきたのか。

それなりに仕事が回せるようになってきた。

一人で一日を任されるようになったりもした。

もちろん楽ではない。でも「回る」感覚が、少しずつ戻ってきた。

そんな生活が落ち着きだした頃、妻と娘が韓国のものにハマった。

妻は韓流ドラマ。

娘はK-POP。

きっかけは娘のダンスだった。

世界的に有名な七人組のボーイズグループの曲を踊ることになって、家の中にその曲が溢れた。気が付くと、二人でそのグループの曲を聴きまくっていた。

そのまま娘は、十三人組のグループや八人組のグループへと推しを増やしていく。

妻は妻で、そのままドラマの世界へ。

そんな二人がサブスクの動画配信サービスに加入するのは、自然だったのかもしれない。

ただ——当時の僕には、それが少しきつかった。

K-POPを聴くと、頭が痛くなった。

韓流ドラマを見て、字幕を追うと頭が痛かった。

嫌いとかじゃない。

ただ、頭がついてこない。痛くなる。

まだ“受け取る力”が戻っていない感じだった。

それでも娘と会話をしたいから、メンバーの名前は覚えた。

娘が大好きなものだから。

家族の話題に置いていかれたくなかった。

今思えば、そんな僕が異世界アニメにハマったのも自然だったのかもしれない。

四十四歳でハマるなよ、って思うかもしれない。

自分でも、ちょっと思う。

妻に勧められて韓流ドラマも見た。内容はとても面白かった。

でもその頃の僕には、映画やドラマみたいな実写のコントラストがつらかった。

暗いところ。光るところ。

表情。影。

全部が僕の目にははっきり映らなくて、影の中に暗い服の人がいると、どこにいるか分からなくなる。

爆破シーンがあると、目をそむけたくなる。

今は普通に見られる。でも当時はきつかった。

アニメの、はっきりした色のほうが楽だった。

輪郭があって、分かりやすい。

見ていられる。

初めは、それだけだった。

「楽だから見る」

ただそれだけ。

せっかく動画配信サービスに入ったのに、見ないと勿体ない。

その程度の理由で、僕はアニメを流し始めた。

でもたぶん、その「楽」が、僕を助けた。

“楽”っていうのは、怠けることじゃない。

まだ受け止められる形がある、ということだ。

僕の頭が、僕の心が、まだ何かを求めているということだったから。



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