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No Fantasy  作者: 緑川
第二章

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No.5 名前の由来

 不自然に生えた一本の樹、ぶどうにも似た実がなっている、名をオリーブと呼ぶそうだ。


 また、皆がよく集まるところでもある。


「いい天気、もう一人でも歩けるようですね」


「お陰様で」


「散歩ですか、ご一緒しても?」


「あぁ」


「ありがとう」


「確か、あの一本木までだったか?」


「えぇ、それ以上はウォリアの目が届かなくってしまいますから」


「――ステア、やはり目が悪いんだな」


「え、あっ……はい」


「いつからだ」


「幼少期の頃に、片目だけが次第にぼやけていって、今ではもう一方に頼りっきりです」


「それじゃ、私生活にも支障を来すだろう」


「いえ、特には」


「誤魔化すな、下手な嘘なら俺でもわかる」


「そういう意図は、ないんですが」


「ウォリアに相談したのか」


「……」


「無理にとは言わないよ」


「これ以上、負担をかけたくはないんです」


「……」


「あの家も毎日の食べ物もこの服だって全て、ウォリアとシスターが与えてくれたものなのに」


「ぁぁ」


「僕に出来る恩返しは精々、子供のお手伝い程度。そんな奴が我儘なんて、とても言えません」


「そのウォリアはいつも何処へ出掛けている? 現に今も見当たらないようだが」


「此処から遥か北の城郭都市に。ノエルと一緒に様々なものを運んできてくれています」


「お前の目を治せるモノもあるのか?」


「可能性としては」


「ハッキリ言え」


「あります」


「なら、いずれ」

 そう、落ちていた枝を剣代わりに振るう。


「俺にはこれし――」その様に見るなり、ステアは顔をぐしゃぐしゃに目に陰りを見せる。


「折角、自由の身になれたのに。僕なんかの為にそんなこと、やめて下さい」握りしめた枝を落とし、


「どうか」


 俺は腕を下ろされた。


「何が怖い」


「剣も、魔法も。僕らはもう、嫌なんです」


「……」


 ぼくら、ね。


 その奥のヘルトは木の剣に夢中なようだ。


 俺も同じく、曇り空の一本木の先で剣を手に幾度となく出来物塗れの掌に衝撃を伝う。


 無論、出来は良いが、木の玩具。だがな。


「凄え! ちょっと前までオリビアより下手くそだったのに」


 そして、二番煎じ相手にベタ褒めしてくれる遅番のご到着だ。


 何故に上裸かわからんが、俺とも奴とも違う。如何にも少年らしい風貌をひけらかしていた。


「ねぇねぇ、俺と戦お!」


「服を着ろ、風邪を引くぞ」


「着たら戦ってくれる!?」


「ハァ」


 血の気の多い奴だ。このままにすれば、玩具と言えども大なり小なり他が被害を被りかねないので、已む無く挑戦を受けることに。


「俺、ちょー強いからね!」


「お手柔らかに」


「じゃあ、行くぞ!」


 一挙動で懐に入られ横薙ぎが迫る。勝ち誇った顔を見せつけると同時、俺は拳を叩き、無防備な胸元を鷲掴みに軸足を回転させた。


「ウッ!」


 そして、倒した相手に不可避の刃を向け、「俺の勝ち」


「まだ負けてない!」


「いいや、ヘルト。お前は最初から負けていた」


「なんで!」


 俺は徐に過去のあとを見せ、息を呑むヘルトに「本物の英雄は平和を守るのが役目だ。誰かを倒す為なんかじゃない、そうだろ?」


「……ぅん。うん!」


 俺たちは腕を磨く、


「ねぇねぇ兄ちゃんはなんで、剣を振るの?」


「――自分の為だ」


 其々の想いを込めて。


 あれから数日程ウォリアの不在が続き、俺はというもの木陰の下で昼寝に興じていた。


「なんかウォリアに見た目が似てきたねー」


 微睡んだ眼を擦る俺をオリビアが一周し、嬉しそうに報告される。


「そうか」


「うん」


「オリビアも昼寝か?」


「ううん、ウォリアが帰ってきたよーって伝えにきた」


「ありがとう。じゃ行くか」


「おー」


 手を繋ぎ、ウォリアの出立から閑散としていた皆が再び勢揃いする。


「おかえり」


「ただいま」


「物資の調達……」


「あぁ」


 背に、その偉大なる成果を見せる。


「次は俺も」


「お前には此処を守る使命がある」


 即答の拒否に食い下がろうと歩み寄るも、ウォリアは突如、あの血に飢えたあ――肉食獣のように疼き出す。


 その響動めく眼球を辿ると、ヘルトが稽古で付けたばかりの生傷であった。


 そしてギュッと指先を柔く締め付けられる。


「……」


 オリビアがウォリアを怖がっている。その事実だけで俺は、自分からはなしてくれるときまで、この子の側に身を置かせて貰おう。


 そのつもりが元の所に引き返し、オリビア直々に絵本の読み聞かせをしてくれることに。


「むかーし昔、ウォリアという青年とその愛馬、ノエルが世界各地を旅しておりました」


 自然の背凭れに隣り合わせで身を預けて、やや肌寒く戦ぐ草むらに座り込んでいた。


「ある日、ふたりが水飲み場で一休みしていると『ガルルルゥッ!』そう唸り声を上げる不思議な生き物と出会いました」


 心地良い木漏れ日を浴びながら必死に頁を捲って真剣に読み上げる後ろ姿から、俺はあくびも我慢して大人しく耳を澄ませていた。


「犬に似た見た目から野犬か狼だと思いましたが、よく見てみるとそれは人類を脅かす悪魔だったのです」


 ん?


「魔法という姿を変えたり、火を吐いたりと何でもできてしまう不思議な力を使い、襲われてしまいますが、ウォリアは何とかノエルに乗って、オリビアという此処らでは有名な果樹園の近く、小さな村まで命からがら逃げ延びました」


 これは、


「ウォリアは匿ってくれたお礼に何か出来ないかと訊ね、村人たちは人里に降りて悪さをする悪魔を懲らしめて欲しいと、古くから伝わる決して折れない英雄の剣、ヘルトを渡されます」


 成程。


「早速、村の外れにあった家畜小屋や畑の近く、その至る所に罠を仕掛け、真夜中、荒らしに来るのを今か今かと待っていました。そして待ち侘びたその時がやってきたのです」


「……」


「ですが、捕まったのはあの狼に似た悪魔、ただ一匹だけ。そう、仲間に裏切られたのです。罠で片目を無くし、動けそうにもありません。このまま死んでしまうのを憐れんだウォリアは、せめてもの施しとして解いてあげたのです」


「――」


「すると付いてくるようになり、その子を、ステアと名付け、明け方、一緒に村へ戻ることに」


 だが、まだ足りないな。


「ですが……村は真っ赤な炎に燃えて、悪魔によって焼き尽くされてしまっていました。

唯一残ったのは何かを覆い隠すように身を焦がした母親と呼べる人と泣きじゃくるバンシーでした」


「――」


「その子を抱え、ウォリアたちは懸命に戦います。しかしあまりの数にただ逃げるしかありませんでした。そしてこの身に誓うのです」


 やはり名前は絵本の中から取ったもの、だったのか。


「もう二度とこんなことは起こさはしない。そしてみんなで旅に出ます。第一話おしまい」


 だから、ステアはああ言ったのか。


「どぉ?」


「聞きやすい音読だった」


「うーん、そっちじゃなくてー!」


「お前たちの名前は絵本の中から取ったものだったんだな」


「うん、シスターが付けてくれたの」


「そうか」


 そのシスターは一話には出てこないのか。


「お兄ちゃんも良いけど、ちゃんと名前を呼びたいから、シスターに付けて貰わないとね」


「なら、いずれは俺もマントからでも名を貰おうか」


「えー、きっともっといいのがあるよー!」


「続き、第二章、というかこれからどうなるんだ?」


「まだ、描かれてないの。この先白紙でなーんにも書かれてなくて」


 これも絵本と言っても偶に一枚絵があるだけ。


「他に、本は無いのか?」


「シスターが全部、他人にあげちゃったって」


「そうか。このな著者は?」


「し――」


「まぁ何にせよ、きっと悪魔を皆殺しにした後の世界があまりに平和な過ぎて、書き終えた後に、全て忘れてしまっているんだろう」


「駄目」


「?」


「平和が一番だよ。それにはお兄ちゃんが必要なの」


「それは、どういう……」


「お兄ちゃんは自分から過去を振り返らないの? ウォリアは、シスターは違ったよ」


「…………そう言えば、俺が長男ならウォリアは?」


 俺はただ逸らすことしかしなかった。


 本を大事そうに抱き抱えたオリビアも一度は目を見開いたが、じっと地面を見つめ、


「バンシーも長女だよな、シスターは」


「シスターはお母さん、ウォリアはお父さん」


「俺に親なんて」


「いるよ、もしかしたら姉弟だって沢山いたかもしれない、きっと愛されていたと思う」


 愛、だと。


「ふたりとも、もう夕飯よ。早く来てね」


 バンシーの迎えで俺たちは共に行く。


 オリビアはタイトルを隠すように両の掌を絵本で埋めて、俺は腰に携えた木の剣に手を置き、もう一方は限りなく握りしめたまま。

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